明日につなぐ地域医療

第1部・なぜ、連携は必要か(2) 日本海ヘルスケアネット

2021/10/2 12:27

 住み慣れた町で、いつまでも安心して暮らせる地域にする-。新型コロナウイルスの院内感染クラスターを迅速に収束させた地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット(酒田市)の参加10法人が共有している思いだ。実現のため、医療・介護にかかる費用と人材を地域で管理、確保し、各施設が役割分担して医療・介護・福祉の切れ目のないサービスを将来にわたって供給できる体制の構築を進めている。

 その取り組みは、人口減少が止まらない地方ですら医療機関が患者を奪い合い、高額医療機器を互いに持ち合う“不毛な消耗戦”をやめることでもある。

 地域医療連携推進法人は7月1日現在、全国で28法人が認定されている。日本海ヘルスケアネットは酒田市の日本海総合病院を運営する県・酒田市病院機構を核に病院、福祉施設、医師会など10法人で組織。地域の医師会、歯科医師会、薬剤師会の「3師会」がそろって参加するのも、認知症対応で力を発揮する精神科専門病院が参加するのも、全国初。地域内にある医療、福祉関係機関をほぼ網羅し、医療の先の介護までを見通した「理想的な形」として全国から視察、問い合わせが後を絶たないトップランナーだ。今年2月には山新3P賞の繁栄賞を受賞している。

 18年の認定後、有効性・安全性・経済性の観点から医薬品を地域全体で購入、使用、管理する全国初の「地域フォーミュラリ」によるコスト削減など、先駆的な取り組みが次々と成果を上げる。最初に注目を集めたのは、病状が安定した腎臓病患者に対する維持透析の本間病院への集約だった。

 病状が安定した腎臓病患者への維持透析の集約は、地域全体の病床と機能を把握し、各施設で役割分担することで効率的に医療を提供する観点で始まった。症状の落ち着いた慢性期患者をしっかり受け入れられる病院がないと、急性期病院にとどまることになり、手術や高度医療を担う急性期病院の役割を十分果たすことができない側面もあるからだ。日本海ヘルスケアネットが地域医療連携推進法人に認定される前年の2017年から動き出した。

 新たに透析が必要になる9割以上は、最初は病状悪化や手術に対応する日本海病院の患者だが、安定期に入ったらすべて本間病院に紹介する。本間病院は受け入れ患者数を従来の120人から170人に拡大した。「60年以上、地域医療を提供してきた当病院の役割と考えた」と本間修理事長は振り返る。集約により診療報酬も移すことになり、赤字だった本間病院の人工透析事業は黒字化。このことも経営難に直面する多くの病院関係者の注目を集めた。一方、日本海病院は手術・高度医療の提供に、より集中できる環境を確保した。

 同ネットは現在10法人で構成し、総ベッド数は約2千、総職員数は約2900人に上る。多くの病院、福祉施設が直面する人材不足も、日本海病院から人手不足の施設に医師・看護師・技師を出向させるなどして支援し、日本海病院にも医師の診療支援をもらう形で解消している。規模の大きい病院から職員を出向させる場合に問題となる出向先との給与差は、差額を日本海病院が補?(ほてん)することでクリアしている。

 このほか、11年から先行稼働している診療記録の全面共有のネットワーク「ちょうかいネット」の拡充、訪問看護ステーションの再編統合による機能充実と効率化・経営安定化も実現している。そのスピードも全国の医療関係者が驚く速さだ。さらに、参加10法人での連結決算を出し、医療・介護事業経営を地域全体で黒字化することも着実に歩みを進めている。

 同ネット代表理事で、日本海病院を運営する県・酒田市病院機構理事長の栗谷義樹氏は「国連のSDGs(持続可能な開発目標)の理念にもつながる。持続可能な医療・介護体制を構築することは、その地域そのものを持続可能にすることだ」と力を込めた。

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