明日につなぐ地域医療

第1部・なぜ、連携は必要か(1) 院内クラスター対応

2021/10/1 10:54
県内初の新型コロナウイルスの院内クラスターを連携の力で早期収束につなげた小林和人院長(中央)ら=2020年12月29日、酒田市・山容病院

 少子高齢化による人口減少と過疎化が地方最大の課題といわれて久しい。社会保障費は増大を続け、逼迫(ひっぱく)する国の財政も次世代までのしかかる問題として横たわり続ける。医療・介護供給体制の再構築が迫られる中、暮らしに欠かせない地域医療を守るには、どのような道があるのだろうか。地域医療連携推進法人の全国トップランナーといわれる日本海ヘルスケアネット(酒田市)の取り組みを掘り下げながら、全国に先んじて高齢化・過疎化が進む本県から、持続可能な地域医療の在り方を問う。

 「この地域にいても良いのかとすら考えた」。新型コロナウイルスが猛威を振るっていた昨年12月、県内初の院内クラスター(感染者集団)が酒田市の山容病院で発生した。小林和人院長は感染拡大が収まった後、記者会見で発生当時の心境を明かした。同病院は地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」を構成する医療機関の一つ。この連携の力が早期収束につながった。

 山容病院は精神科専門で、一般的な精神疾患だけでなく、認知症や依存症などの治療にも当たっている。最初に感染が判明したのは看護補助の男性職員だった。その後、入院患者の感染も確認され、日々、事態は深刻度を増す。県内で初の院内クラスターとなり、職員の家族ら関連を含めると感染者は28人に上った。

 精神科専門という特殊性も当初はネックになっていた。地域医療の拠点となるヘルスケアネットの一角をなし、精神医療でも地域の中核的な役割を担ってきた。その病院で起きてしまった感染拡大。小林院長が抱えた発生当時の心境は重要な役割を期待されながら、地域に不安を与えてしまったことを振り返ってのものだった。

 「必ず短期集中で収束させる」。強い結束力で事態に対処し、山容病院を支える原動力となったのがヘルスケアネットだった。

 松林の近くにある3階建ての病棟。白い外壁で清潔感が漂う山容病院(酒田市)の新しい建物は今、穏やかな秋の日差しを受けるが、約10カ月前は感染防護衣に身を包んだ職員らが行き交い、緊張感に包まれていた。地域医療の最前線での「連携」がいかに重要か。当事者たちは、突然、巻き起こった新型コロナウイルスによる緊急事態で、そのことを痛感することになった。

 同病院は四つの病棟に220床を備える。県内初の院内クラスター(感染者集団)が発生した当時はほぼ満床の状態だった。迅速かつ的確に対応しなければ、病院内全体に感染が広がり最悪な事態も想定された。

 同病院も加わる地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」はコロナ禍以降、参加する10法人がPCR検査の実施状況と結果、コロナ対応物品の在庫状況を毎日共有していた。山容病院で1人の陽性が判明した12月4日には既にクラスターの可能性を想定していた。

 ネットの中心は庄内地域唯一の感染症指定医療機関でもある日本海総合病院。運営する県・酒田市病院機構の栗谷義樹理事長はすぐに支援を指示した。「短期間に封じ込めなければならない。災害級の事態と捉え対処すべきだ」。こう強調し、地域医療を支える仲間を全力でサポートした。

 新しい病棟は普段から通気など感染症などへの備えは施されていた。ただ、院内感染の拡大を防ぐには、感染者と非感染者を区分けするゾーニングが欠かせない。精神疾患や認知症を抱える患者には環境の変化が大きな負担になり、転院やマスク着用などの感染対策の徹底が難しいケースもある。

 日本海病院から感染症の専門知識・技術のある看護師を山容病院に派遣。日本海病院とネットの仲間である酒田地区医師会十全堂が感染防護衣を大量に届け、着脱の仕方まで細やかにアドバイスし支援した。結果的に感染者が確認されたのは一つの病棟だけで、総力を挙げた対応で、他病棟への感染拡大を防ぎ、死者を出さずに約2週間で収束させた。

 山容病院はスタッフの派遣をはじめ、あらゆる支援を受けたが、身近な仲間からの支援ということが大きな力になった。小林和人院長は「顔も考え方も分かっているメンバーのいる機関からの支援。何よりも安心感が大きかった」と振り返る。平時から地域医療の課題や情報を共有し、ともに得意分野を生かした深い連携がコロナとの戦いに通用することを示した。

◆地域医療連携推進法人 地域の医療機関の機能分担や連携を強め、質の高い医療を継続的に提供する目的で、2017年度から設立が進められている。人口減少や高齢化に対応し、必要な病床数や機能を見直す「地域医療構想」を実現する手段の一つ。設立は都道府県知事が認定する。7月1日現在、全国で28法人。県内は10法人が参加する日本海ヘルスケアネットのみ。置賜地域でも米沢市立病院と三友堂病院が設立準備を進めている。

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