談話室

▼▽92歳の人間国宝ならではの境地だった。人の愚かさと滑稽さが自然体の演技から滲(にじ)み出る。山形市で先日、狂言「萩(はぎ)大名(だいみょう)」に出演した野村万作さんである。訪問先で咲く萩の花を歌に詠む羽目になる大名が役どころだ。

▼▽素養のまるでない大名は、従者の太郎冠者(かじゃ)から事前に一首仕込んでいる。だがいざ、という段になるときれいに忘れていた。冠者が助け船を出して途中までしのぐものの、最後は化けの皮が剝がれてしまう。はるか昔の話? いいや、先日似たようなニュースを見て驚いた。

▼▽自民党の重鎮、二階俊博元幹事長の記者会見である。裏金事件で自派が立件されたことの「政治責任は全て私自身にある」。次期衆院選に立候補しないと表明した。潔いと思っていたら、質疑応答では代わりに口を開く人がいる。隣に控える最側近、林幹雄元幹事長代理だ。

▼▽二階氏も時に自ら答える場面があった。ただし、飛び出した言葉はあまりにもそぐわない。不出馬と85歳の年齢の関係を問われ「おまえもその年がくるんだよ。ばかやろう」。太郎冠者ならぬ最側近にもっと委ねていれば、この期に及んで馬脚を現すこともなかったろうに。

(2024/03/28付)
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  • 3月28日
  • ▼▽92歳の人間国宝ならではの境地だった。人の愚かさと滑稽さが自然体の演技から滲(にじ)み出る。山形市で先日、狂言「萩(はぎ)大名(だいみょう)」に出演した野村万作さんである。訪問先で咲く萩の花を歌に詠む羽目になる大名が役どころだ。 [全文を読む]

  • 3月27日
  • ▼▽この数日、同僚や友人らが仕事を休んだりして子どもの引っ越しを行っている。業者は多忙で手配がつかず、料金も高騰しているため、車に積めるだけ積んで自ら運ぶ。東京都内は同じような車で混雑していたという。 [全文を読む]

  • 3月26日
  • ▼▽1969年7月、米国の宇宙船アポロ11号が「静かの海」に着陸した。人類が初めて月面に足跡をしるすことになった歴史的瞬間である。日本のテレビ各局は生放送を競った。その時、俄然(がぜん)脚光を浴びた人たちがいた。 [全文を読む]

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  • 3月24日
  • ▼▽彼岸前、近くの産直施設に買い物に出かけた家人が蕾(つぼみ)だらけの花木を携えて車から降りてきた。その様子を居間の窓越しに見ていた幼子が声を発した。「モクレンだ」。でたらめだと思ったがさにあらず。正解だった。 [全文を読む]

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