山と川に囲まれた東根市の上悪戸地区にとって、養老橋(全長23.6メートル、幅4.5メートル)は地区外に行くには欠かせない存在だ。1968(昭和43)年に完成した現在の橋はコンクリート製で流される心配はないが、木造橋の時代は生活道を守るため、頑丈な作りにしようと、地域を挙げて木材運搬などに力を尽くした歴史がある。
上悪戸区長の東海林善治さん(72)と、橋のすぐそばに住む東海林彦衛さん(81)によれば、先代の木造橋は48年に架けられた。善治さんは当時の状況について「今のように他地区につながる林道もなく、橋が流されると陸の孤島だった。小学生の時、台風の際に『上悪戸の児童は橋が流されると帰れないから』と早退させられたこともある」と振り返る。実際、その台風で橋はびくともせず「子どもながらにあまりの頑丈さに驚いた」と続ける。
「木造橋の建設はまさに地区を挙げての大事業だった」と作業に携わった彦衛さんは語る。木材は山奥にしかなかった杉の大木を選び、約3キロの道のりを雪の上を滑らせながら運搬を繰り返した。「住民30、40人掛かりでやっとの大変な作業だったが、皆で声を掛け合いながら頑張った。さらに建築の際に使うくぎも特注するなどの工夫もした。そうして完成した橋は一度も流されたことはなかった」
より丈夫な橋を求めた住民たちにとって、現在の橋が完成した際の喜びはひとしおだった。寄付金を募り、花火を打ち上げて祝ったという。今は完成から約40年が経過し、老朽化による欄干の亀裂部分の修繕が行われているが、地区の“大動脈”として住民の生活を支え続けている。
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