南陽市を襲った豪雨は、農業や観光など地域の基幹産業を直撃した。今なお、崩れたままのブドウ畑や土砂で埋まった田んぼなどに爪痕が残る。観光面も当初、宿泊客のキャンセルが相次ぐなど不安が広がった。しかし、農業、観光とも多くの関係者は前を向き、口をそろえる。「災害に負けていられない」
市内の農林業関係の被害は市農林課の4日現在の調査で、作物は果樹が約126ヘクタールで約1億6800万円、水稲は約952ヘクタールの約2億100万円など計約3億8400万円。林道施設被害は52カ所で約3億5千万円となっている。県が行う治山部分は調査中で、今後さらに被害額は拡大する見通しだ。
国道13号鳥上坂周辺に所有するブドウ畑の3割に当たる約12アールが崩れた同市赤湯の佐藤寛幸さん(57)。新たにブドウを植えても収穫までは5年ほどかかり、どうするか決めかねていた。そんな佐藤さんは5日から残ったデラウエアの収穫を始めた。出来は良い。「収穫までたどり着けたブドウだから」。そう話す顔に笑顔が戻った。
同市俎柳の横山正彦さん(61)の田んぼは1カ月前と変わらず、作付面積の2割程度が土砂で埋まったまま。それでも来年の復活に意欲をみせる。市の復旧計画で10月には被災した田んぼに重機を入れ、土砂を取り除くことが決まったからだ。「県や市、農協、地域住民などの協力で来年にめどがついた。あとは頑張るしかない」と話す。
山形デスティネーションキャンペーンと合わせ、夏場の書き入れ時の災害に、赤湯温泉を中心にした観光業関係者は一時、肩を落とした。温泉街の一部も水害に遭い、温泉旅館協同組合加盟施設の14軒中2軒が数日間休業せざるを得なかった。山形新幹線も災害直後は運休。一時的に旅館への予約キャンセルも相次いだ。同組合代表理事の歌丸裕介さん(62)は「災害のあった週末は、赤湯温泉全体で約300人のキャンセルがあった」と振り返る。
市商工観光ブランド課によると、2013年7月期の市内観光入り込み数は約10万2千人で、東日本大震災前の10年同期(約11万人)に近づきつつあった。そこへの豪雨災害だった。
「このままでは、これまでの努力が水の泡になる」。宿泊予約客からの問い合わせや激励など全国から寄せられる電話やメールに「赤湯温泉は大丈夫」と組合挙げて必死のアピールを続けた。入り込みの数値はまだまとまっていない。だが歌丸さんは「客足は戻りつつあると思う」と手応えを感じている。
土砂被害を受け、手付かずのままとなっている佐藤寛幸さんのブドウ畑。それでも残った畑で収穫作業を始めている=南陽市赤湯