酒田港から北西約40キロ。日本海に浮かぶ飛島は大地震とともに隆起したと考えられている。「飛島や粟島(新潟)の東側には海底に断層があって、それぞれ地殻変動によって徐々に持ち上げられた。東西圧縮で隆起した東北日本のさまざまな地形の形成原因と基本的に同じ現象です」。活断層に詳しい山形大教授の八木浩司は「飛島の誕生」についてそう説明する。
地質調査所(現産業技術総合研究所)が1996年に発行した海洋地質図では、飛島に向けて南側から走る2本の逆断層を明示。飛島周辺の地質断面図を見ると、地層が上下にずれており、飛島が断層運動によって隆起したことが分かる。「日本の地形 東北」(東京大学出版会)では、日本海東縁には「逆断層運動によって(略)海面上に頭を出してきた島がいくつかある」とした上で、そのうちのひとつとして飛島を紹介。2ページにわたって特集している。
平たんな地形
飛島は、テーブル状の景観が印象的だ。島全体が標高50~60メートル程度の平たんな地形。定期船「とびしま」で酒田から島に近づくと、水平線と平行するように、平たく浮かぶ様子が見て取れる。「飛島は海面すれすれのところにあった時代に、波浪で削られ平らになった。その後、大地震を伴う地殻変動によって隆起したため、いまのような形になった」と八木。
「山形県 地学のガイド」(コロナ社)で「飛島」の解説を担当した山形中央高教諭の長沢一雄は「(飛島の南方にある)佐渡島や粟島は、地表面が波で浸食される前に盛り上がったのでテーブル状になっていない。隆起スピードの違いが、この差を生んだ」と語る。
日本海に浮かぶ飛島。テーブル状の景観が印象的だ(いずれも長沢一雄氏提供)
大地震の痕跡
長沢によれば、飛島では明瞭な海岸段丘が観察できる。海岸段丘は、波浪の浸食作用によって平らにされた面が、大地震を伴う隆起や海面低下の繰り返しで、階段状になった地形のこと。「日本の地形 東北」によると、飛島には四つの海岸段丘があり、大地震が幾度も発生してきたことがうかがえる。飛島を隆起させてきた断層運動について、八木は「地殻変動が起こるたびに、1964年の新潟地震や83年の日本海中部地震クラスの大地震が発生し、庄内に津波が押し寄せたはず」と話す。
「飛島には不思議な石が分布している」。長沢は興味深い表情で続けた。「島の西側にはヂヂ石、ババ石と呼ばれる人の背丈ほどの巨礫(れき)がある。また、島の北西海岸には直径50センチ前後の丸い『ツブ石』がごろごろ集まっている。いずれも、本来、飛島には分布しない性質の石です」
これらの石はどこから、どのようにして、たどり着いたのだろうか。「巨礫は火山が陸上で火砕流噴火を起こしたとき形成された溶結凝灰岩。日本海誕生前に飛島周辺の陸地で火山が噴火した証拠となる岩石で、島近くの海底から運ばれたと考えられるが、ツブ石は周辺にも存在しない。かつて発生した大津波が遠くから運んできた可能性がある」と長沢は推測する。
「日本の地形 東北」は飛島を取り上げた特集ページで、東岸を除く海岸線沿いに波食棚(波によって浸食された平らな面)が広く発達することを指摘した上で、最後にこう結んでいる。「これらは最後の地変以後、地盤の安定している期間が長く、次の大地震が近いことを示唆しているのかもしれない」=敬称略
飛島の北西に分布する数多くのツブ石。津波によって運ばれた可能性があるという
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