3月11日、太平洋沿岸を襲った巨大津波は、大勢の人々の命を一瞬にしてのみ込んだ。日本海側は大丈夫なのか。何に気を付けるべきなのか。東北大学災害制御研究センター長で、津波工学が専門の今村文彦教授に聞いた。
日本海側で発生する津波は太平洋側と違う特徴がある。「同じ規模の地震の場合」と前置きした上で、今村教授は語る。「震源となるプレートの沈み込み帯が沿岸に近いため、太平洋側に比べ揺れが大きく、津波の到達時間も早くなる」。対岸にユーラシア大陸があるので反復しやすく、継続時間が長くなるという。
「幸い山形県沖は三陸沿岸のように複雑な地形特性はなく、津波が特別増幅することはないが、被害は、どれだけ備えをしているかで左右される。注意は当然必要」
津波の速さと高さには一定の法則がある。「速度は水深が深い場所ほど速く、浅いほど遅くなる。一方、津波の高さは浅くなるにつれて急激に増大する」。今村教授は解説する。
「津波被害はどれだけ備えをしているかで左右される」と語る今村文彦教授=仙台市・東北大
水深4千メートルの太平洋の真ん中では時速約720キロ、ジェット機並みのスピードで伝わるが、水深20メートルでは時速50キロ、水深10メートルでは同35キロと、沖に近づくにつれ減速する。2004年のスマトラ沖地震で発生した津波の映像解析結果では、陸上での速度は毎秒5メートル(時速18キロ)程度。「不幸にも津波が見えてしまっても、あきらめずにいち早く近くの高いところへ逃げることが大切である」(沿岸技術研究センター「TSUNAMI-津波から生き延びるために」)
今村教授によると、仙台平野を襲った津波は秒速6メートル。「陸に上がると通常、速度は遅くなるが、今回はもともとのエネルギーが大きかったため速度が落ちなかった」
想定を上回る津波に対して、大勢の命を守れなかったことを、今村教授は悔やむ。「本来浸水しないはずの避難所が津波で流されてしまった。津波警報の情報が途中で変わった問題もあった」。気象庁から津波警報が出されたのは発生からわずか3分後の午後2時49分。しかし、最初はマグニチュード(M)7.9(後にM9に修正)とされ、予想される津波の高さが軒並み低く示された。
「山形の人にぜひ伝えたいメッセージがあります」。今村教授は力を込めた。「今回の津波は残念ながら甚大な被害が出たが、普段から準備したり、訓練に参加していた人は多くが助かった」
例えば、ある人は避難指定されていた寺に逃げたが、そこは訓練で海抜3メートルと知っていた。その後、防災無線で6メートルの津波が来ると聞き、さらなる高台を目指し助かった。「今回われわれが学んだことは、想定外のことがあり得るという意識を持つ大切さ。気象庁や自治体の情報をきちんと受け、安全な場所をあらかじめ確認し、命を守ってほしい」
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