社説

北方領土交渉 方針転換ならば説明を

 安倍晋三首相は訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、日ロ間の平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約締結交渉を加速させる方針で一致した。

 首相は会談後「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つ」と述べ、2021年9月までの自民党総裁としての任期中に問題を決着させる意欲を表明。来年6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合に先立って年明けにもロシアを訪問し、頻繁に協議を重ねる考えを示した。

 今回の首脳会談は、大統領が9月にロシア極東のウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、一切の前提条件を抜きに平和条約を締結するよう提起した後、初めての本格的な対話だった。

 日本政府の基本的立場は「北方四島の帰属問題を解決した後に平和条約を締結する」というもので、領土問題を先送りする大統領の提案は受け入れられない。ただ、日本側は大統領の提案を平和条約締結への意欲の表れと捉え、事態を打開する狙いから、大統領がかねて有効性を認めていた日ソ共同宣言を交渉の出発点とする提案に踏み切ったとみられる。

 だが共同宣言は国後、択捉両島の扱いに言及していない。菅義偉官房長官は従来の政府方針は変わらないと述べたが、宣言を交渉の基礎とするならば、国後、択捉両島を含む4島全ての帰属問題を解決するという政府方針の転換と言わざるを得ないだろう。さらに、大統領は2島引き渡しで幕引きを図る考えだとされ、交渉次第では国後、択捉両島の放棄が視野に入ってくる。それで国民の理解が得られるのか。丁寧な説明が求められる。

 歯舞、色丹の「2島先行返還論」はこれまでも検討されてきた。2001年には森喜朗首相がプーチン大統領と日ソ共同宣言の有効性を確認するイルクーツク声明に署名、2島先行方式を提案した。だが、あくまで4島の返還を求めるべきだとの声が根強く、後任の小泉純一郎首相が4島の帰属確認を優先し、先行返還論を否定した経緯がある。

 ロシアは4島を実効支配しており、2島返還が現実的だとする意見もある。一方で4島返還の基本原則を堅持すべきだとの声も強い。国内の声に丁寧に耳を傾け、説得するのは政権の責任である。

 今後の交渉には課題が多い。首相としては歯舞、色丹の2島はあくまで「先行返還」であり、国後、択捉の帰属問題を継続協議する確約を得たい考えだろう。だが2島引き渡しでの決着を基本姿勢とする大統領側が応じる確証はない。

 安全保障上の課題も重い。大統領は引き渡した後の北方領土に日米安全保障条約が適用される事態に強い懸念を示している。日本が配備を予定している地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」についても「米国のミサイル防衛システムの展開だ」と批判しており、2島引き渡しでさえ応じるかは不透明だ。

 4島の元島民は高齢になっている。期限を区切って交渉を加速させる意義はあろう。だが自らの政権の「成果」とするために、丁寧な説明を欠く妥協を行えば、国民の理解は得られまい。

(2018/11/16付)
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