社説

「井上ひさし研究会」発足へ 知の遺産次代につなぐ

 残された多くの著作から、幾つか抜き出してみる。

 例えば、戦争について。

 「最高指導部の覚悟のなさや知恵のなさ、そのドタバタさわぎのみっともなさは、正直にいうと未だに遺伝的体質となってこの国にのこっている。そしてわれわれは依然として大人しい」

 政治については、こんな一文がある。

 「政治とは、端的に言えば、『国民から集めた税金や国有財産をどう使うか』ということである」

 近年世をにぎわせた森友、加計(かけ)学園問題の本質を、はるか以前に見通していたようではないか。

 これらは、川西町出身の劇作家・作家井上ひさしさん(1934~2010年)の言葉である。

 井上さんは75年の生涯の中で、歴史、国家、社会、国語、笑い、映画、音楽、憲法、農業、教育と広範囲にわたってペンを執った。表現手段は戯曲、小説、随筆、評論などにとどまらない。講演に加え、日本ペンクラブ会長、日本劇作家協会長などの公職も引き受けた。本県との関わりでは、古里に届けた蔵書を基に川西町に遅筆堂文庫が誕生。蔵書は現在約22万冊に上る。本紙対談での井上さんの提唱をきっかけに、山形市に複合文化施設「シベールアリーナ&遅筆堂文庫山形館」もできた。

 一方で、多彩な執筆内容や膨大な蔵書に関して、調査研究や情報発信がまだ十分にはなされていないのも事実だ。そこで来年4月、川西町を拠点に「井上ひさし研究会」が発足することになった。前述のように時を経ても古びることのない井上さんの思考を、今の世の中に還元できる有意義な機会となろう。

 研究会の設立呼び掛け人となった井上夫人ユリさん、今村忠純大妻女子大名誉教授らが8日、都内で記者会見し、概要を説明した。

 死去翌年に発生した東日本大震災の後に「井上さんならこの事態をどう考えただろう」という言葉がよく聞かれた。ユリさんはこのことに関して「その時々の問題を調べ尽くし、考え尽くして書いたからこそ、現在のことについても語っているように感じることができる」と、井上作品が持つ普遍性に言及。「集めて読んだ膨大な本、自分でも作った資料を、次の世代に手渡す仕組みをつくりたかった」と述べた。

 今村さんは、新たな研究の可能性を幾つか披露した。例えば、仙台市のカトリック系施設で暮らした少年時代をモチーフにした小説には、フィクションの部分が含まれる。「作品の虚と実のあわいを考えていくと面白い」。小説と戯曲との連動について分析する手もある。「東京裁判3部作」と呼ばれる戯曲と、元になった小説「東京セブンローズ」を併せて読むと、互いの時間が重なってくる。他に、井上戯曲にとって大きな要素である音楽や、公演で演奏した音楽家との出会いは作者にとってどのような意味があったのか考えるのも興味深いという。

 とはいえ、研究会は堅苦しい組織ではない。井上作品を読んだり、井上芝居を見たりしたことのある人は誰でも入会できる。関心のある方にはいい機会だ。

(2018/08/17付)
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