県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

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県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

第2部[上]・「受け子」逮捕された学生 兄貴分が勧誘役なんて

2016/1/24 12:50
高橋亮介=仮名=は慕っていた学校の先輩に頼まれ、知らないままに詐取金を運んでしまったと訴えた。詐欺グループは学生をも侵食している(写真はイメージです)

 「詐欺とは知らなかったんです。ある意味、自分もだまされたようなもんです」。昨年4月に特殊詐欺の受け子として逮捕された高橋亮介=仮名=が、喫茶店で向かい合った記者に訴えた。高橋は20代前半の学生。本県の高校を卒業し、都内に進学していた。

 友人である記者をはじめ、高橋を知る人々には逮捕の知らせが信じられなかった。昨年末、久しぶりに再会して話を聞いた。待ち合わせ場所で目が合うと、高橋はいつも通り、人懐っこそうな笑顔を浮かべた。高橋は保釈されたが、休学して東北地方に身を移している。

 今、裁判で無罪を主張している。

 「まさか、あの先輩が詐欺の勧誘役なんて思わなかったんですよ」

 会社を立ち上げたと言っていた1学年上の先輩から、人が足りないから仕事を手伝ってほしいと頼まれ、引き受けただけという。

 慕っていた先輩だった。

 入学当初から面倒を見てくれ、食事もよくおごってくれた。兄貴分のような存在だった。

 「行動力と人脈があって、周囲に支援者のような人がたくさんいました」

 そんな先輩が立ち上げた会社に関われば社会勉強ができて、就職にも役立つと思った。

 「礼儀やマナーが身に付くかなと。自分がしている居酒屋のバイトとは違って、起業に携わっている、みたいな感じですかね」

 そう思ったから、茶髪は黒く染め直した。

 高橋の仕事は、アパートに送られてきた会社の「荷物」を受け取り、公園や喫茶店で別の人物に渡す内容だった。「荷物」はA4かB5サイズの封筒で、中身は資料や書類だと説明されていた。5、6回ほど手伝った。

 指示は先輩が出してくれた。高橋が「今日、会社に行って取ってきました」などと報告すると、先輩はバイト代をくれた。1回5、6千円。「荷物」が詐取金とは全く知らなかったという。

 しばらくして先輩が「仕事を辞めた」と言ったので、高橋も従った。約2カ月後、警察官が住まいを訪ねてきた。突然、持ち物を押収され、逮捕された。何のことか、全く分からなかった。先輩を含め、周囲にいた数人が逮捕された。

 充実していた学生生活は一転。勾留されて体重は8キロ減った。保釈後は周囲の視線が気になった。逮捕を知った友人が離れていったように感じた。

 詐欺グループのメンバーが自分の隣にいるとは、夢にも思わなかった。高橋が力なくつぶやく。

 「先輩の本質を見抜けなかった自分が悪かったんですかね」

 来月、判決が言い渡される。あの先輩が今どこで何をしているかは、分からない。(敬称略)

   ×   × 

 特殊詐欺グループは末端で動く「使い捨て要員」を確保しようと、金もうけなどの話を持ち掛け、一般人に近づいてくる。その影は本紙取材班の友人にまで忍び寄っていた。東京で詐欺に関わった本県出身者を直接訪ねた。さらに、首都圏で犯人を追う県警捜査員の姿を取り上げる。

(特殊詐欺取材班)

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