連載企画
鳥海山刻々■〜海抜ゼロから山頂へ 〈最終日〉 御室−鉾立山荘
2007年08月05日 掲載
頂上小屋・御室から下山。体を吹き飛ばす勢いの暴風とたたきつける雨に耐え、御浜小屋にたどり着いた踏破隊=4日午後0時8分
午前9時半、山頂小屋の御室を出た途端、横なぐりの風雨が吹き付けた。眼下に急斜面が続き、一歩滑れば命にかかわる雪渓では山岳ガイドの吉田岳(たかし)さん(38)=小国町=が鋭い目つきで指示を出す。御田ケ原に至るころ、風雨は激しさを増し、立っているのも難しい状況。まるでつぶてを浴びているような雨の痛みに耐え、一行は午後2時、秋田県側の鉾立小屋へと無事“帰還”を果たした。 海抜ゼロメートルから標高2,236メートルの山頂まで踏破した感想を、荷物運びに協力してくれた山形大ワンダーフォーゲル部員に聞いた。「最終日は今までで一番きつい登山」と平井斉哉(なおや)さん(24)=大学院農学研究科2年、鶴岡市。それでも「いつも見ている鳥海山を長期間歩いたことで、また違った見方ができると思う」。石黒顕吾さん(24)=大学院理工学研究科2年、山形市=は「雪渓からしみ出る水は冷たくて採取するのは面白かった」。金野伸さん(22)=工学部3年、米沢市=は「たくさんの花が咲き乱れる夏の鳥海山を心ゆくまで楽しむことができた」と感激した様子だった。
御室での朝、食事を準備する踏破隊のメンバー=4日午前7時26分
「これはひどい。驚いた。こんな山小屋は珍しい」。踏破中、小屋で食事から戻り、不満をもらす宿泊者の声を聞いた。北アルプスや富士山などの万全の対応に慣れた関東、関西の登山者から見ればそうかもしれない。何しろ、小屋で自炊しているパーティーはわれわれだけなのだから。 でも、思う。山でホテル並みの待遇を求めるのは、大きな勘違いではないだろうか。飯豊連峰にせよ、朝日連峰にせよ、山形県内の山小屋で食事を出しているところはない。 人気投票によれば、東北で一番の名峰は鳥海山という。全国でも第7位という人気を誇るそうだ。だからだろうか。鳥海山には各地から登山者が訪れる。ポピュラーなコースを歩いていると、ひっきりなしに人と擦れ違う。したり顔に鳥海山の魅力を語る人も多かった。しかしそんな人気は、きっと鳥海山のためにはならない。人気が冷めれば、そんな人たちは別の山にくら替えする。 鳥海山は昔、山岳信仰の登拝者たちで大変なにぎわいを見せた。河原宿、御浜、御田ケ原など、今も地名にその名残をとどめる。新山の山頂付近には切り通し、胎内くぐりなどの難所もある。古人はこれらの難所を通過することで、自らを新たに再生させる願いを込めた。今回、鳥海山踏破の1行は古人と同様、鳥海山の素晴らしさ、そして荒々しさをまさに身をもって体感した。山を下りて振り返ると、山すその日本海のさざ波、小屋を激しく揺らす風音が、同時によみがえる。こんな多彩な魅力を満喫できるのは、鳥海山だけ。地元でもっともっと、鳥海のとりこになる人が増えることを切に望みたい。 (鳥海山取材班)
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