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[38]工具や医療機器開発で注目 ジャスト(上山)

2015/11/8 16:27
めっきの技術を高め続け、工具や医療機器の開発などに挑んでいるジャスト。めっき業の新たな可能性を切り開いている=上山市

 先端にきらきらと光るダイヤが付着したピンセット。薄い紙をわずか1ミリほどの長さでつかみ、紙を強く引っ張っても外れない。高いグリップ力を可能にしているのが、めっきの技術だとは素人目には分からない。めっき業のジャスト(上山市、岡崎淳一社長)が生み出した製品「ジャストブランド」の一つだ。

 一般的なめっきは装飾や防さびなどの機能を付与するため、金属、非金属の表面に、さまざまな金属による5~10ミクロンの薄膜を形成する。ジャストはこの技術を応用、進化させて工具や医療機器の開発など新たな分野に挑んでいる。

 創業65年のジャストの大きな転換点は1984(昭和59)年。後に発明大賞などを受賞するステンレス製六角ナットの内面だけに銀めっきを施す量産技術の開発だった。数百個のナットと同じ数の穴が開いたパッキンを上下に設置した上で、穴を通じて内面だけにめっきを行う。半導体製造装置の継ぎ手用で、有毒ガスが漏れないよう部品同士をきつく締める際にねじが外れなくなる「かじり」を防止する役割を果たす。

■部分の技術確立

 内面以外にめっきをすれば銀がさびるなどし、クリーンルームに影響を与えかねない。当時は多くの手間と労力を費やし、部分めっきが行われていた。こうした中、ジャストはマスキングの方法やナットを固定する治具などを独自に研究。当初は液漏れで不良品の山を築き、一つ一つ手作業で修正したこともあった。

 だが、試行錯誤を繰り返し、約1年で技術を確立。他社に比べて安価で品質は良く、メーカーからの注文は殺到した。現在でも国内シェア5割を占める主力分野だが、それ以外にも大きな意味を持つ。「全面めっきよりはるかに難しい部分めっきの課題解決のプロセスが、その後の研究開発の原点になった」と今野高志専務は強調する。

内面だけに銀めっきを施したステンレス製の六角ナット

 1990年代初頭、製造業の海外移転が進み、国内の空洞化が始まる。こうした時に着手したのが、セラミックやシリコンなどを加工するダイヤ工具の開発だった。同業者で参入した企業はいない。「革新的なものづくりをしないと生き残れない」(今野専務)。危機感に加え、「メーカーになる」という悲願を達成したいとの思いがあった。

 ダイヤの粒を用いる工具のうち、約1割がめっきによる電着で作られている。だが、工具メーカーは一切、技術やノウハウを公開していなかった。電着技術に関する海外の文献などを足掛かりに、再び1年に及ぶ研究開発を繰り返し、ジャストブランドを生み出した。

■特殊電着で特許

 ドリルであれば直径0.5ミリで長さ1~2ミリの製品が一般的だが、ジャストは直径0.1ミリで長さが5~10ミリでも対応できるという。カメラのレンズ加工用では通常の35倍の厚さのめっきを施す工具も開発。付加価値を高めるため、他社が作れない製品開発にこだわっている。

 絶え間ない技術革新は、さらなる新分野参入への道を切り開く。ダイヤを固着する最適な皮膜について研究を続けた結果、誕生したのが極細の筒状炭素繊維「カーボンナノチューブ」を活用した特殊電着技術だった。カーボンナノチューブが土壁の中のわらのような役割を果たし、耐摩耗性などが向上。関連技術について10月に特許を取得した。同様の技術でダイヤを固着したピンセットは、手術時に糸や血管を抑える用途などで注目を集める。

 8月には本社近くに「R&Dセンター」を新設し、さらに研究開発を加速する。「めっきはさまざまな可能性を持っており、新素材の開発でさらに未来は広がっている」と今野専務。「めっきのプロ集団」の挑戦に終わりはない。

(ものづくり取材班)

ジャスト 1950(昭和25)年に東亜メッキ工場として創業し、67年に株式会社化した。81年に上山市の金谷工場が完成。94年に金谷工場が分離独立し、ジャストとして新たにスタートした。15年3月期の売上高は6億1千万円。従業員数は73人。

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