食と農を問う

【最終回】時代を見据え続く挑戦

 通年企画として昨年4月にスタートした「食と農を問う」。副題にあるように現場をつぶさに見詰める中から将来への展望を探ってきた。それぞれの現場では本県の豊かな風土に正面から向き合い、試行錯誤を繰り返しながらも地域に根差した「食」と「農」に取り組む多くの姿があった。今回は、企画に登場した人の中からハーブ研究所スパール代表の山沢清さん(63)=庄内町、多田農園代表の多田耕太郎さん(56)=山辺町、上和田有機米生産組合販売部次長の渡部京一さん(50)=高畠町、建設会社社長で窪畑ファーム社長の山本斉さん(52)=鶴岡市=の4人に山形市内に集まっていただき、座談会を開いて企画を締めくくった。

 −自己紹介を兼ねて現在取り組んでいることを教えてほしい。
山沢清さん
山沢清さん
 山沢 若いころ庄内一円を回って、水田や畑に機械で農薬をまく実演をしていた。ところが農薬が普及すると、それまで田んぼや水路にいたドジョウ、フナ、ナマズなど生物の姿が消えていく。スローライフではないが、農薬を使わない循環型の農業を自分でしようと思った。手掛けることにしたのは、周りがあまり手掛けていないハーブや在来野菜。堆肥も自家製にするため、フランスなどから食用バトを4000羽導入した。飼育小屋の上部にいるハトのふんや麦わらくずが下に落ち、土中の微生物の力を借りて堆肥になる。

 多田 以前は、妻の実家が経営するスリッパ工場の工場長。父はコメにサクランボ、リンゴを栽培していた。41歳で自分が家業を継ぐことになった時、コメとリンゴは売っていくのが難しいと思った。サクランボなら、規模を拡大して直接販売すれば伸びる。周りは大反対だったが田んぼを埋め立ててサクランボ畑にした。今は園地が1.7ヘクタールまで拡大、直接販売の売り上げも、始めたころの10倍以上に達した。子供たちは他の道に進み、後継者にはならない。農園は昨年法人化、今年7月から42歳と30歳の男性を通年雇用している。

 渡部 1987(昭和62)年に「上和田有機米生産組合」を設立した。水田に加え果樹や畜産などを手掛ける複合経営農家が多く、それぞれが所有する水田の規模はそう大きくない。地域に有機農業の実践者がいたこともあり、みんなで協力して(付加価値の高い)コメ作りを行うことにした。現在の会員は58人で全体の作付面積は約70ヘクタール。販売先は北海道から九州までで、百貨店や加工業者、米穀専門店などさまざまだ。米価下落が厳しい中、特別な栽培法をPRし販売に力を入れている。コメの生産、販売だけでなく農作業体験の受け入れにも取り組んでいる。

 山本 庄内地方の松林内で砂地に適した作物を栽培している。主力はトマトで、就農してから4年目になる。母体である建設業の公共投資が縮小する中、何とか雇用を確保したいと考え、農業参入を決めた。最初は微生物培地を売ろうと考えたが「そんなにいい土だったら、自分でやってみろ」と言われ実践することにした。トマトの栽培を始めた理由は、ある農家から「生食のほかに加工食品の原材料としても用途が広い」とのアドバイスを受けたから。トマトは野菜だが、フルーツとの境界にあるような存在で、女性からの人気が高い点も目を引いた。

 −消費者に訴える販売戦略をどう描き、付加価値を生み出す取り組みをどう進めているのか。
山沢さん−目的を持っている農家だけが生き残っていける
 山沢 量で勝負するのではなく、一部の消費者から強い要望のある製品を目指している。具体的には、健康になりたい人や20〜35歳の女性、あるいは赤ちゃんのいる母親。有機無農薬栽培のハーブは、エキスを利用して化粧水やせっけんに。ハーブの小枝に時間をかけて塩を結晶させた小枝塩も作っている。自宅裏のハウスでは、さまざまな植物、生物が共生。キカラスウリは、授粉を媒介するスズメガの貴重な餌だし、根から採ったデンプンは赤ちゃん向けの天花粉になる。きれいな流れにしかすまないマシジミの繁殖実験も続けている。目的を持っている農家だけが生き残るのではないか。

多田さん−とにかく高品質。山形県のオンリーワンを目指す
多田耕太郎さん
多田耕太郎さん
 多田 親の代からの顧客に「サクランボを買うお客さんは、お金のことはとやかく言わないはず。とにかく品質を落とさないように。自信を持って、これだと思う物を」とアドバイスされた。品物が届いたお客さんは、いい物だと感じれば自ら宣伝して他の客を紹介してくれる。また、直接農園を訪れた方に、栽培法を説明した後、実際に召し上がっていただくと「なるほど」と納得してくれる。元東京大総長で映画評論家の蓮実重彦さん、独文学者池内紀さん、ジャーナリスト岸井成格さんらも顧客だ。「多田耕太郎」のブランドを前面に出して、山形県のオンリーワンを目指している。

 渡部 コメの有機栽培、特別栽培が当たり前の時代に何で勝負するかといえば、まずは品質。組合員の10年産米の1等米比率は95%で県平均を大きく上回った。食味については、組合員全員のコメの食味値を測っている。個人で出荷できる量には限りがある。みんなが高品質米を作ることで力を集約し、組合としての販売力を高めていこうと考えている。高畠町では新たに高畠産つや姫を売っていこうという動きがある。うちの組合だけでなく、ほかの団体やJAを含め「オール高畠」でやっていこうという地域ぐるみの取り組みが一番のセールスポイント。

 山本 野菜嫌いの子どもたちにも食べてもらおうと考え、土からこだわった安全安心な野菜作りに取り組んでいる。安全は数字で表すと0%か100%しかない。100%安全を消費者が見て分かるような仕組みづくりのため、国や県の認証制度を活用している。安心については作った物の食味、成分分析を開示し消費者に理解を促している。農家との違いを出すため、自分たちは土にこだわり、野菜の持つ機能性をさらに高める栽培、PRに着目している。例えば、他産地に比べて抗酸化作用が高いトマトを栽培し、積極的に売り込むことなどを考えている。

渡部京一さん
渡部京一さん
 −環太平洋連携協定(TPP)問題で貿易自由化に向けた議論が熱を帯びているが、農業の将来についてどう考えるか。
 山沢 効率化だけを目指していては、規模が桁違いの米国などの諸外国にはとても太刀打ちできない。対抗していくためには別の視点、つまりおいしさや非効率であることが価値になるような別の道を追求していかなければ。例えば、一つ一つ手間をかける昔ながらの農業は効率的ではないかもしれないが、そのようにして培われた食の安全への配慮が消費者の共感を得れば、非効率が付加価値になる。農業と生き方がリンクするのが理想的。この先は、県内の一部地方だけが連携するのではなく、山形県を1つのブランドにして、百貨店のように売り込んでいくしか、生き残りの道はないのではないか。やり方次第では、いろんな魅力がある。

 多田 先行きを注視する必要があるが、仮に貿易が自由化された場合、サクランボ農家にはチャンスがあると思う。一つは輸出。来日した韓国人、中国人は「日本のサクランボはおいしい」と言う。1カ月間長期保存して8月に「紅姫」ブランドで売る技術も確立しているので、日本と同じかそれより高い価格で相当輸出できるとみている。米国産の「レーニア」とは品質、信頼度が違う。日本産農産物は太刀打ちできる。将来的には、中国やニュージーランドでサクランボを栽培したいという夢もある。自分のオリジナリティーを持っていれば大丈夫ということだ。

渡部さん−TPP参加は反対。食糧は国防であり、国家戦略だ
 渡部 TPP(への参加)は反対。関税が撤廃されれば、さまざまな業界で安い物を使わなければ売れない、利益が出ない、という状況に陥るのではないか。コメを作っても売れない状況になれば、不作地は増えていく。仮に企業が参入し、機械を使って水田に復元できたとしても、コメを作る段階で高い栽培技術を持てるかどうかは疑問。現状まで回復させるのは困難だろう。農政に翻弄(ほんろう)される中、ダメ押しのような政策と受け止めている。本来、食糧は国防であり国家戦略として取り組むべきこと。農家任せでなく国が考えなければならない。

山本さん−海外進出は日本の食への安心感、信頼感の維持が大切
山本斉さん
山本斉さん
 山本 厳しい厳しいと言っていても何ら変わらない。自ら行動を起こし、状況を打破していかなければならない。そのために視点を変えて、土俵を変えていくといった考えが必要。食糧は国家戦略の基本であり、輸入品だけでまかなうようでは国として成り立たない。生産者は従来の構造、やり方が変わってきていることを認識し、将来を見据えて国に頼らない道を考えなければならないと思う。日本産農産物は海外で高い評価を得ているが、10年先もそうとは限らない。日本の食に対する安心感、信頼感を維持することが大切。品質に特化し、海外でビジネスチャンスを広げたいと考えている。

【話し合った人たち】
▽ハーブ研究所スパール代表    山沢  清さん
▽多田農園代表          多田耕太郎さん
▽上和田有機米生産組合販売部次長 渡部 京一さん
▽窪畑ファーム社長        山本  斉さん
(2010年12月26日 掲載)
食と農を問う 連載登場の4人座談会 記事一覧
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