食と農を問う

「つや姫」ブランド化への道 「こだわり」次第高まる評価

鈴木さんのつや姫などのプロモーションコーナー。食にこだわる消費者が試食し、味を確かめながら買い求めていた=東京・伊勢丹新宿店
鈴木さんのつや姫などのプロモーションコーナー。食にこだわる消費者が試食し、味を確かめながら買い求めていた=東京・伊勢丹新宿店
 東京・伊勢丹新宿店の食品売り場のプロモーションコーナーに、鶴岡市小中島の鈴木紀生さん(70)が手塩にかけて育ててきた「つや姫」とコシヒカリが並んだ。こだわりの食材を求める買い物客が試食用に炊いたごはんの味を確かめた上で、通常価格の数倍もする鈴木さんのコメを1袋、2袋と手にしていく。鈴木さんは、その様子を見ながら満足そうにうなずいた。
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 東京や大阪の大手百貨店などで、全国の生産者から直接買い付けたこだわりのコメを販売する菊太屋(本社・東大阪市)が仕掛ける鈴木さんのつや姫の販売イベントが、11月3日から9日まで伊勢丹新宿店で開かれた。6、7日の両日、鈴木さんはその店頭に立ち、消費者に直接自分の作ったコメを売り込んだ。

 プロモーションコーナーでは、つや姫の新米が1キロと5キロ詰めのオリジナル袋で展示され、会場で炊いたつや姫を買い物客に試食で振る舞った。コーナーの担当者に、鈴木さんと市場研修のために同行した鶴岡市湯の浜温泉の旅館「一久」の若女将、池田真知子さん(30)も加わり、デビューしたての県産水稲新品種をアピールした。

日本料理「古窯」で開かれた鈴木さんとお米屋さんの意見交換会。炊きたてのつや姫の新米や山形の郷土料理を味わい、話も弾んだ=東京・銀座
日本料理「古窯」で開かれた鈴木さんとお米屋さんの意見交換会。炊きたてのつや姫の新米や山形の郷土料理を味わい、話も弾んだ=東京・銀座
 首都圏でのつや姫の販売価格は、量販店などでは5キロ2300円程度、米穀専門店や百貨店では5キロ2500円以上の設定されているが、まだまだ評価は定まっていないのが現状のようだ。その中で、プロモーションで菊太屋が付けた鈴木さんのつや姫の価格は、1キロ903円(税込み)、5キロ4515円(同)。

 価格の高さにもかかわらず次々に売れていく。試食で初めてつや姫を食べた東京在住の50代女性は「程よいモチモチ感と味が気に入った」と5キロ詰め袋を手にした。また、香港から来たという40代の男性料理人は「自分の店で使う日本のうまい米を探している。おいしければ、品種にはこだわらない。鈴木さんの米はいいね。試してみたい」と1キロ詰めを2袋購入した。

 菊太屋社長の東井太郎さん(37)は「つや姫は粒も大きく、しっかりとしたうま味もある。さらに、全国でもトップレベルの生産者として評価される鈴木さんのつや姫なら当然の価格。品種の知名度が上がれば、もっと高くなることもあるでしょう」と話す。

 今回、プロモーションに同行した池田さんの旅館では、鈴木さんのつや姫を使い、宿泊客にこだわりの朝食を提供している。そのおいしさは十分理解しているし、宿泊客の評価の高さも実感している。「(鈴木さんは)自分の作ったものに自信があるから、どんな人にでも売り込める。勉強になります」と、買い物客を引きつける鈴木さんの姿を見ていた。

 試験栽培を含め、3年間つや姫を作り続けてきた鈴木さん。「コメは土が命」を信条にしてきた。オリジナルの有機発酵肥料を開発するほど、その思いは強く、「自分しかできない土があるから、人とは違ったコメが作れる。コメの味の決め手は土の力。ここまで来るのに10年ぐらいかかってるからね」と言う。

新米を自家精米し、オリジナルの袋に詰め込む鈴木さん。丹精込めて育てた自慢の米が全国へと発信される=鶴岡市小中島
新米を自家精米し、オリジナルの袋に詰め込む鈴木さん。丹精込めて育てた自慢の米が全国へと発信される=鶴岡市小中島
 鈴木さんはつや姫とコシヒカリを有機栽培と特別栽培で作っている。その売り先も、県内の有名旅館や首都圏の大手百貨店、料理店、長年付き合いのある個人消費者など、引き手は多く、価格も高い。しかし、自分の作るコメに絶対の自信を持っている“名人”でも、頭を悩ませてきたのは「売る」ことだった。

 東京でのプロモーションを間近に控えた今月初め、収穫したコメを自前の精米機でつき、オリジナルの袋に詰める作業に追われていた鈴木さん。手塩にかけて育てたコメが自分の手から離れ、市場や消費者に送られるときをかみしめながら、「食べてもらえば分かってもらえるはずだ。でも、自分一人の力で売り込むのは無理。私のコメの良さをしっかりと理解してくれるお米屋さんと組むことで、安心して作ることに専念できる」と、販売のプロたちとのつながりの重要性を話してくれた。

 6日夜、東京・銀座の日本料理古窯に、鈴木さんのコメにほれ込み、販売を担う首都圏のお米屋さんが集まった。山形のこだわりの食材による料理を提供している同店。去年からメニューに鈴木さんのつや姫が加わった。「つや姫を使うようになり、ご飯をお代わりする人が増えた。ランチで4杯食べた人もいるんですよ」と同店会長の佐藤幸子さん(81)。「日本料理として、ご飯にはこだわりたい。品質はもちろん、誕生した鶴岡市藤島地域で育ったというのもいいですね」と話す。

 炊きたてのつや姫が加わった古窯自慢の料理を囲み、鈴木さんのコメについて意見を交わすうち、話題はコメのブランド化にまで広がった。

 菊太屋の東京直営店担当の渡辺良平さん(31)は「地域での栽培環境の違いが少なくなり、産地のブランド化は非常に難しくなっている」と話す。「首都圏のコメの消費量は増えている。その中でも、栽培方法などにこだわりを持つ生産者のコメに人気が集まっている」と神奈川県鎌倉市で米穀店を営む木村聡さん(42)。木村さんの店で扱うコメのネット販売を担当する吉原亘さん(36)は「つや姫の問い合わせをいただく。認知度は確実に高まっている」という。横浜市に店を構える加藤純一郎さん(40)は「コメの評価は作り手のこだわり次第。当たり前だが、いいものを消費者に提供し続けることが必要」と指摘した。

 その会話を笑顔で聞いていた鈴木さん。「庄内まで足を運び、私のコメづくりを理解してくれている人ばかり。この人たちが消費者と私をつないでくれている。私にとって最高の味方であり、これからのつや姫販売にとっても欠かせない人たちなんですよ」と、うれしそうに語った。
(「食と農」を問う取材班)
(2010年11月14日 掲載)
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