食と農を問う

産直こまぎ(鶴岡) 在来作物、守り伝える役割も

 冬を控えた庄内地方の天気は、目まぐるしく変化する。雲が切れ、太陽が顔を出したかと思えば、一転して驟雨(しゅうう)。雷鳴も響きだした。
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 鶴岡市街地から南に20キロ近く。旧温海町と境を接する田川地区の山の斜面で、長谷川喜三さん(74)、久子さん(73)夫妻が、田川カブの収穫に励んでいた。喜三さんが抜いたカブの葉と根を、久子さんが切り落としコンテナに。いっぱいになると、喜三さんは十数キロあるコンテナを背負子に付けて斜面を下り、軽トラックまで運ぶ。9月下旬から雪が積もるまで、作業は続く。かつては冬に備えた自家用の食べ物だったが、今では在来作物として注目されている。

 球に上下から力をかけたような扁平(へんぺい)な形で、表面は濃い紫色。山一つ隔てた温海カブとルーツは同じで、40年ほど前に選抜育成された。

杉を伐採した焼き畑で田川カブを収穫する長谷川喜三さん(左)と久子さん=鶴岡市坂野下
杉を伐採した焼き畑で田川カブを収穫する長谷川喜三さん(左)と久子さん=鶴岡市坂野下
 JA鶴岡赤かぶ専門部会長を務める喜三さんは、田川カブの味に自信を隠さない。「甘酢漬けにしても歯触りがパリッとしての」。今年の猛暑で生育は遅れたが「杉の葉が蓄積した山の地力がある」。グループの仲間たちと栽培するカブは「田川百年かぶ」名で店頭に並ぶ。杉を伐採した後の焼き畑で、カブは灰を肥料にして育つ。山焼きの場所は毎年変わるから、同じ斜面で再び収穫するのは数十年から100年後のことになる。「百年かぶ」と銘打つゆえんだ。

 喜三さんは、市街地南部にある「庄内おばこの里こまぎ」内の直売所に週3回程度、田川カブを出している。JA鶴岡が運営する直売所「産直こまぎ」は2年前の8月にオープン。旧鶴岡市内の農家177人が作物を持ち込む。週末や祝日は生産者が売り場に立ち、訪れる客とコミュニケーションを図っている。

 今の時期は庄内柿、辛味大根、田川カブ、藤沢カブといった在来作物をはじめ、ホウレンソウ、ネギ、ピーマン、ミニトマト、食用菊、ギンナン、シイタケ、マイタケ、エリンギ、リンゴ、ナシ、カリン…。自家製農産物を、だだちゃ豆がゆ、古代米がゆ、よもぎもち、しそ巻き、大根紅花漬け、みょうが甘酢漬け、塩蔵イタドリ、そば、パン、シフォンケーキ、スイートポテト、リンゴジャムなどに加工し、付加価値を高める農家もいる。今年本格デビューした「つや姫」、はえぬき、コシヒカリなどの新米はもちろんだ。

 「庄内おばこの里こまぎ」は、農産物直売所だけではなく、海産物市場、レストラン、温泉などが一体となっている。観光バスから降り立つ客も多い。「県内外の団体客に、鶴岡オリジナルのものを提供したい」と「産直こまぎ」の長谷川賢(さとし)店長(33)。だから、地元ならではの田川カブと藤沢カブを、レジ近くの目立つ場所に置くようにしている。「栽培面積が小さく、生産者も高齢化している。でも、一度は食べていただきたい」

 陳列台には「幻の藤沢かぶ」「地産の希少野菜 田川焼畑赤かぶ」などの文字。食べ方を知らない客のために、料理法を記した手作りチラシも置いている。

在来作物の田川カブ、藤沢カブがレジ近くに並ぶ「産直こまぎ」=鶴岡市日枝
在来作物の田川カブ、藤沢カブがレジ近くに並ぶ「産直こまぎ」=鶴岡市日枝
 藤沢カブは、鶴岡市出身の作家藤沢周平さんの名字の由来となった土地に伝わる。田川カブとは異なる長カブ。土中の下半分は白、対照的に地上の首の部分は赤紫のグラデーションを示す。一時ほとんど栽培されなくなったが、先祖伝来の種を守り続けたお年寄りと、種を託された焼き畑農家の熱意、漬物店の全量買い取りの決断などによって、消滅を免れた。地元出身の絵本作家つちだよしはるさんは、このドラマを「おじいちゃんのカブづくり」と題し刊行。同市のシェフ奥田政行さんは、藤沢カブを用いた料理を考案した。「1つの在来作物の消滅を救おうと人がつながり、新しい漬物や料理、絵本が生まれ、また全国から人が訪ねてくる循環が生まれています」(山形在来作物研究会編「おしゃべりな畑」)。同研究会長の江頭宏昌山形大農学部准教授(46)は、こう記す。

 直売所のチラシでは、生でもおいしい藤沢カブを「そのまま丸かじり」「野菜スティックやサラダにも最適」「すりおろして大根代わりにもおすすめ」とPR。一方田川カブは▽酢の物▽あっさり漬け▽新鮮生サラダ▽丸漬け・カット漬け−と、漬物を中心に4種類のレシピを紹介している。

 「産直こまぎ」の近くに住む自営業三浦方子(ひさこ)さん(39)は田川カブの大ファンだ。青森県5所川原市出身。鶴岡に嫁ぐまでは存在も知らなかったが、5年ほど前に甘酢漬けを知人からもらい「とても感動した」。パリパリ感や締まり具合が、それまで食べていたカブとは全く違う。以来、知人の漬物を食べ続けてきた。昨年、直売所で売っているのを知り、初めて購入。売り場のレシピを参考に、自分で漬けてみた。うまく出来上がり、家族にも好評。店に「入ったら教えて」と頼むようになった。今年は第1弾の2キロを既に完食。2度目の材料を仕入れるため、店を訪れた。

 喜三さんの元にも、田川カブの魅力を知った首都圏などの消費者から、直接注文が届く。山焼き前の真夏の1カ月は枝片付け、雑草刈りと「大変な肉体労働」。8月中旬の山焼きの日は、夜明け前の午前3時に火を付け、鎮火後のまだ熱い地面に種をまく。国産材が売れない中、伐採場所を見つけ出すのも難しい。「今のところはアンテナを張って、何とか確保している」。これらの苦労も、収穫期を迎え、カブを待ってくれる人がいると思えば報われる。

 生産者で組織する「こまぎ産直部会」の阿部富太郎部会長(60)=鶴岡市下川=は「生産者の声を届け、消費者の声を聞くことができるのが直売所」と語る。米価の低下、貿易自由化を目指す環太平洋連携協定(TPP)への参加問題など、農政の先行きが見えない中、「顔が見える」関係は、地元農業の先行きを模索する際の確かな足掛かりだ。

 【産直こまぎ】鶴岡市日枝の「庄内おばこの里こまぎ」内にある。営業時間は午前9時〜午後6時。元日を除き年中無休。問い合わせは0235(35)0660。
(2010年11月07日 掲載)
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