食と農を問う

「つや姫」きょう本格デビュー つや姫便りの3人訪ねる

 県産米期待の新品種「つや姫」はきょう3日、県内デビューイベントが開かれ、いよいよ本格的な販売がスタートする。待ちに待ったデビューを前に、5月から「つや姫便り」で定点観察してきた県内の生産者3人を訪ねた。
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「最高の稲穂」に育てた自慢の土−鈴木紀生さん(鶴岡)
しっかりとした茎に支えられ、たわわに実った稲穂を手に満足そうな表情を浮かべる鈴木紀生さん=鶴岡市小中島
しっかりとした茎に支えられ、たわわに実った稲穂を手に満足そうな表情を浮かべる鈴木紀生さん=鶴岡市小中島
 試験栽培を含め、「つや姫」を育てて3年目になる鶴岡市小中島の鈴木紀生さん(70)。長年、力を注いできた独特の土づくりを行った田んぼで、鮮やかな薄黄緑色の茎に支えられ、黄金色に実った有機栽培のつや姫の稲穂を手に「これまでで最高の出来だ」と、間近に迫った刈り取りを待ち遠しそうにしている。

 「コメは土が命」。田んぼの土づくりに並々ならぬ意欲を見せる鈴木さん。有機肥料に強いこだわりを持ち、独自の有機発酵肥料で土の力を蓄えてきた。「土壌内の酵母菌や乳酸菌、光合成細菌の活動が活発でなければ、いいコメは採れない。コメの味の決め手は、土の力なんだよ」と話す。

 さらに、米ぬかとコンブの粉末を土壌に施し、微生物の活動を活発化させてきた。米ぬかは微生物のえさ、コンブは微生物の繁殖を補助するもので、通常よりも繁殖スピードが格段にアップ。この自慢の土で、水管理に細心の注意を払ってきた。経験を踏まえ、田植え直後から6月いっぱいまで、深水管理を徹底。最初に稲の丈を伸ばすことを心掛け、自分の理想とする丈の長さになったことが、今、目を細められるだけの稲に育っている要因という。

 鈴木さんの「つや姫」は、県内の有名旅館や首都圏の大手百貨店、料理店など、すべて販売先が決まっている。「お客さんが欲しいというレベルのものを作っている。消費者の立場を心掛けているから、価格が高くても理解が得られているんです」と表情を引き締める鈴木さん。11月初旬には、東京の大手百貨店で鈴木さんのコメの販売イベントも予定されているという。

猛暑でも高品質「良いコメ実感」−土屋喜久夫さん(寒河江)
「猛暑に品質低下を心配した夏だったが良いコメに仕上がった」と乾燥作業に追われる土屋喜久夫さん=寒河江市寒河江
「猛暑に品質低下を心配した夏だったが良いコメに仕上がった」と乾燥作業に追われる土屋喜久夫さん=寒河江市寒河江
 「寒河江産つや姫を日本一にしたい」。寒河江市南町1丁目の土屋喜久夫さん(57)は今年2月の生産者認定証交付・種子受け渡し式の席上、村山地域の代表として力強くこう宣言した。山形テルサホールに集まった各地の同志が盛んな拍手を送り、会場は一体感に包まれた。

 期待の新品種との関係は2007年にさかのぼる。「山形97号」と呼ばれていた当時から県の委託を受けて栽培し、新品種の出来秋を迎えたのは今シーズンで4回目だ。今年手掛けた「つや姫」の作付面積は1.5ヘクタール。品種特性や生育状況などを農家に周知するため県が4地域ごとに設置する展示圃30アールを含む。

 コメを作り始めてから約35年だが、「これまでに経験したことがない」と振り返る夏場の高温続きに見舞われた。連日の暑さで品質低下を招くのではないかとの不安が付きまとった。「人間同様、稲もバテる。人間はクーラーで涼めるからいいが稲はそうはいかない」。ため息交じりで空を見上げたのは、つい1カ月ほど前のことだ。

 現在は寒河江市寒河江に構える作業場で乾燥作業に追われる。手にした玄米を見て、これまでの不安が自信に変わっていく。「高温続きで他品種が品質低下を招いている中、『つや姫』はオール1等米との評価を聞く。つくづく良いコメだと実感している。将来にわたって大事にしていかなければならない品種。感謝している」と真剣な表情で語った後、「『コシヒカリ』に代わる最高の品種になるよう期待している」と言って笑顔を見せた。

消費者に求められ「本物」になる 後藤行雄さん(川西)
つや姫の出来を見ながら「タンパク質など県作成のマニュアルにどれだけ合致するかが高品質生産の鍵」と語る後藤行雄さん=川西町小松
つや姫の出来を見ながら「タンパク質など県作成のマニュアルにどれだけ合致するかが高品質生産の鍵」と語る後藤行雄さん=川西町小松
 「県が自信を持って売り出す新品種だから、素晴らしい能力があるはずだ。その特性をいかに引き出すかが県の圃場を任された自分の役目なんだ」。川西町小松の後藤行雄さん(67)は、この言葉を何度となく口にしてきた。寒河江の土屋さんと同様、県委託の展示圃で07年から「つや姫」の栽培に取り組んで4年目。「自分の名前で売れるわけじゃない。だからこそ責任は重大」。一貫して栽培マニュアル順守を徹底してきた実直な人柄を物語る。

 5月18日の田植えから丸4カ月となった9月17日、JA出荷分から「つや姫」刈り取りに着手し、県展示圃を含む90アールを数日かけて収穫した。「予想できない暑さで稲が疲れ切った。収量がもっと上がると期待したが結局予定通りだな」と後藤さん。10アール当たり収量は560キロ超とまずまずの結果だ。

 一方、本年産の品質を示すデータはまだ詳しく知らされていないが、7.5%以下が望ましい玄米粗タンパク質含有率は6.6%、実入りを示す玄米1000粒重はマニュアル通りの22.1グラムをマークした。もちろん全量1等米。高温による白未熟粒の発生も心配したほどではなかった。それでも「出来が良かった08年産を今年は超えると思ったが、なかなかあのコメは出ないものだ」と後藤さん。旺盛な向上心をのぞかせる。

 本格デビューする「つや姫」は今後、生産者の期待に応える価格で取引されるだろうか。まだ当分は「はえぬき」の刈り取りに追われる日々だが、後藤さんは手元を離れた「つや姫」の行方を気に掛ける。「新潟魚沼のコシヒカリだって下積み時代はあった。あのおいしいコメないか、と消費者から求められて初めて本物になるんだ」
(2010年10月03日 掲載)
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