食と農を問う

勝負の年、日本一に 認定生産者、おいしさ追求

 県が開発した水稲新品種「つや姫」が今年秋、いよいよ本格デビューする。全国ブランドの「コシヒカリ」をしのぐ品種特性を武器に、うたい文句は「お米はここまで美味(おい)しくなれる」。県は2010年産つや姫の栽培を、県内2573人の認定生産者に託し、販売数量を約1万2500トンに設定。5月に入り、米どころ山形のけん引役として期待を集める県産米の作付け作業が本格化していく。
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 「つや姫」は1998年、県立農業試験場庄内支場(現在の県農業総合研究センター水田農業試験場)で人工交配し育成が始まった。10万分の1の確率で誕生した優良品種で、系統名「山形97号」から昨年2月に「つや姫」の名称がつき、品種登録出願された。つや、香りに優れ、味は「コシヒカリ」以上とされる。栽培面においても稲の背丈が比較的短く、倒れにくいため栽培しやすいメリットを持つ。収穫期は、「はえぬき」より遅く、「コシヒカリ」並みの晩成種だ。

「つや姫」を買い求める人たちでにぎわった先行販売イベント=2009年10月、山形市内
「つや姫」を買い求める人たちでにぎわった先行販売イベント=2009年10月、山形市内
 県は昨年、本格販売を見据え市場動向を探るため、県内と首都圏を中心に先行販売を展開した。生産者は、県内全市町村の137人で、販売数量は386.21トン。県内が約6割、首都圏など県外が約4割で市場に出回った。価格はおおむね2キロ1000円程度。県内外の購入者と、「つや姫」を提供した料理店の利用者合わせて約1700人に行った県のアンケートでは、味の良さが高い評価を得る一方、県外での認知度が3分の1程度と低い点などが課題に挙がった。

 今年秋の本格販売に向け、県内では、栽培適地を考慮し庄内1212ヘクタール、最上243ヘクタール、村山474ヘクタール、置賜571ヘクタールの計2500ヘクタールで「つや姫」が栽培される。県全体の水稲作付面積は約6万7600ヘクタールで、「つや姫」が占める割合は約4%だ。

 県は、高品質な「つや姫」の安定生産を図るため有機栽培や農薬の使用量を一定基準に抑えた特別栽培に限定。高い技術に加えて意欲のある生産者を認定し、栽培マニュアルの順守を求めている。さらに本格販売に合わせ、独自の出荷基準を設定。玄米(水分15%換算)の粗タンパク質含有率6.4%以下を基準に出荷の可否を定めた。一般的にタンパク質含有率5〜7%が「おいしいコメ」の条件とされる。全国的にも、統一基準を設けているのは北海道のみだ。「つや姫」の最大の特長である「おいしさ」を追求した生産者の取り組みが始まっている。

 2日連続の夏日から一転し、県内全域が雨空に覆われて季節が数カ月逆戻りしたようになった7日、寒河江市寒河江の横道地区にある土屋喜久夫さん(56)=同市南町1丁目=方の育苗ハウスでは、県産米期待の新品種「つや姫」の苗が順調に育っていた。広々としたハウス内にすき間なく並べられた苗の初々しい緑色が美しい。葉先がそろった様は、柔らかなじゅうたんを連想させる。

 種もみはことし3月17日、共同で温湯処理した。温水に種もみを10分間漬けて殺菌する方法で、いもち病やばか苗病などの防止に有効。安全、安心の米づくりに配慮した取り組みだ。4月24日に苗床に種もみをまき、育苗器に入れて30〜32度に保ち、48時間で発芽。同27日にはハウス内に運び込み、寒冷紗や保温マットを使って温度調節をしながら手塩にかけて育ててきた。

「つや姫」の苗の生育状況を確認する「さがえ西村山つや姫栽培研究会」の土屋喜久夫会長=寒河江市寒河江
「つや姫」の苗の生育状況を確認する「さがえ西村山つや姫栽培研究会」の土屋喜久夫会長=寒河江市寒河江
 「このところ寒暖の差が大きいので、ハウスの開け閉めをこまめにして温度調整し、カビの発生を防ぐための通気、与える水の管理にも気を配っている」と喜久夫さん。苗は7日現在、1枚目の葉が伸び、丈は10センチほど。苗床の土から吸い上げた水分が葉先に水滴になって付き、きらきらと光彩を放つ。ハウス内に響く雨音は、すくすくと育つ苗の子守歌。今月18日の田植えを、苗は静かに待っていた。

 さがえ西村山つや姫栽培研究会の会長を務めている喜久夫さんは「ことしは勝負の年」と意気込む。専業農家で19ヘクタールの水田を耕作。ほかにサクランボ、リンゴの果樹、育苗ハウスを利用したストックやトルコギキョウといった花卉(かき)の栽培にも力を入れる。つや姫の栽培は妻つや子さん(55)に加え、上山市出身で県立農業大学校を今春卒業して土屋さん方で農業の道に入った藤尾理未(まさみ)さん(20)と力を合わせて取り組む。水田のうち、つや姫を作付けするのは1.8ヘクタール。喜久夫さんはこの日、大型トラクターを駆り、雨を突いて田んぼの耕起作業を進めた。

 喜久夫さんが、当時は「山形97号」と呼ばれていた「つや姫」の存在を認識したのはJAさがえ西村山の水稲部会長をしていた6〜7年前。2007年に県の適地マップづくりに協力して作付けしたのを皮切りに、08年には30アールの展示圃(ほ)を手掛け、09年には先行栽培分の80アールと県の試験圃として30アール栽培した。

 そして迎えた本格デビューの年。山形市内で2月に行われた生産者への認定証交付と種子の受け渡し式で、代表の一人として喜久夫さんは「『新潟のコシヒカリ』ではなく『山形のつや姫』、『魚沼産』ではなく『寒河江産』が日本一と言われるようにしたい」と決意表明した。JAさがえ西村山の水稲部会を母体にして昨年3月に20人ほどで発足したさがえ西村山つや姫栽培研究会はことし、123人のメンバーを擁する組織に成長した。そのトップに立つ喜久夫さんは「日本一のコメに育て上げたい」と夢を膨らませている。
(「食と農を問う」取材班)
(2010年05月09日 掲載)
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