食と農を問う

オンリーワンの花づくり シンビジウムの美を追究し50年

さまざまな原種を組み合わせてシンビジウムの品種改良を行う宇井清太さん。「同じ花は二つとない」と魅力を語る=寒河江市寒河江
さまざまな原種を組み合わせてシンビジウムの品種改良を行う宇井清太さん。「同じ花は二つとない」と魅力を語る=寒河江市寒河江
 品種改良。野菜や果樹の栽培、畜産からこの言葉を考えたとき、味の向上、環境への適応が大きな目的といえるだろう。しかし、花の場合は異なる。ラン科のシンビジウムの育種ハウス「最上オーキッドガーデン」を運営する宇井清太さん(70)=寒河江市六供町1丁目=は、美の追究を目的に約50年間、シンビジウムの育種と品種改良に取り組んでいる。
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 寒河江市中心部にある長岡山の北側、サクランボなどの畑が広がる洲崎地区に、宇井さんの育種ハウス「最上オーキッドガーデン」が並んでいる。オーキッドはランの英語名。外からハウス内の様子はうかがえないが、扉を開くと別世界が広がった。天井は白い幕で覆われ、壁には雲や鳳凰(ほうおう)の絵が描かれ、迷路のような通路の脇には、赤、白、黄と色とりどりのシンビジウムが連なる。花の中央にあるリップ(唇弁)の色、模様も一様でなく、特に濃い赤紫色のリップを持つ花からは、妙になまめかしさを感じる。「桃源郷」という言葉が、頭の中に浮かんだ。

 宇井さんは「蘭展」と銘打ち、2002年から一定期間、ハウスを無料で一般公開している。約3300平方メートルの広さに、無数のシンビジウムが華を競う姿は壮観だ。「ことしは3月が寒くて良かった。乾燥が栽培に一番困るんだ」。花の咲き具合に満足そうな笑みを浮かべた。

 宇井さんはこれまで、シンビジウムの新しい交配を213パターン成功させ、英国王室園芸協会に登録した。歴代10位の多さ。この組み合わせから選抜した優良品種は、約1万2000種にも及ぶ。交配する際の親となったのは、経営破綻(はたん)した米国などの名門ラン園から譲り受けた多数の秘蔵品種。それが、多くの名花を生み出す大きな要因となっている。組織培養による増殖にも独学で取り組み、交配親の確保に結び付けた。

 ただ、優良品種同士を交配させたからといって、必ずしも花の美しさにつながるとは限らない。さらにシンビジウム自体の栽培管理そのものが難しいため、納得できる花が咲いたときの喜びは大きい。ことし、宇井さんが「キヨコ プロムナード」と名付けた品種が、花を咲かせた。15年ほど前の1回目の交配では思うような花が生まれず、1万本のうち250本を残して処分したところ、残った250本が良い花を咲かせた。そのため、5年前に再交配させて育ててきた品種だ。宇井さんは「こういう予想外のことがあるから、品種改良は難しい」と苦笑する。

気品ある姿が切り花として人気を集めるシンビジウム
気品ある姿が切り花として人気を集めるシンビジウム
 宇井さんは、稲作・養蚕農家の長男に生まれた。庭に大きなシャクナゲがある家で、父親の故清さんは園芸に対する造詣が深かったという。花の種のカタログが家に送られることも多く、宇井さんは父親からもらったお金で好きな種や球根を注文。少年時代から花作りに親しんでいた。「自分で花を選び、うまく育てて芽が出たときの喜び。それが原点」と振り返る。

 「ランは最も遅く生まれたことによって、最も進化した花。花の仕事をするんだったらランだ」。少年時代から、ラン科の花を育てたいという強い思いがあった。旧上山農業高生時代、山形のような寒冷地でも育つランの品種を知った。それがヒマラヤ山ろくを原産地の一つとするシンビジウムだった。卒業後、比較的高値で取引されるキャベツ、メロン、トマトなどの栽培に取り組み、ためた資金でアメリカから苗300本を購入したが、順風満帆とはいかなかった。栽培管理の難しさから、ほとんどを枯らしてしまった。

 宇井さんの話を聞きながらハウス内を歩いているうちに、寒けを感じてきた。コートを羽織って、宇井さんに理由を聞くと「原産地のヒマラヤ山ろくに合わせた温度管理をしているから。今の時期は8〜20度。水も、現地の気候を考えながら掛けている。最初の苗がうまく育たなかったのも、その水の掛け方が大きな原因の一つだった」。

 解決のヒントになったのは、ベトナム戦争のニュース映像だった。雨期で増水した川を渡る兵士の姿を見て、はっとした。「シンビジウム原産地も雨期がある」。現地では夕方に雨が降る傾向があると調べ、水掛けの時間を朝から夕方に変えた。水を掛ける部分は根元でなく、雨のように葉をぬらしている。ハウス内の天井の幕も、単に演出のためでなく、原産地の環境に合わせて日光を拡散させるための工夫だ。

 栽培した一部の品種は切り花として出荷しているが、株そのものは販売していない。「大切な遺伝子を放出することになる。いくらお金を出されても、そんなことはできない」。品種改良を「芸術の創作活動」としているだけに、種の保存にこだわりを見せる。蘭展を入場無料としていることにも強い自負がある。「ほかにも無料のイベントはあるが、補助金頼みの面もある。こちらはラン栽培用の土を開発して、売り上げを資金に充てている」。さらに「個人の品種改良の取り組みは、行政側に比べて評価が低い」と不満を語った。

 宇井さんはリップの色、形をシンビジウムの美の象徴ととらえ、その印象を「天女」と表現する。「キヨコ プロムナード」が展示されている一角に、丸い穴がいくつも開いた壁があった。宇井さんが自作した器材のレンズを通し中をのぞくと、花がいくつも組み合わさった万華鏡の世界が目に飛び込んできた。「新企画。面白いでしょ」。熱意と工夫でオンリーワンの花を作り続けてきた宇井さんが笑った。
(「食と農を問う」取材班)

 【シンビジウム】洋ランの一種で、常緑性の多年草。名称はギリシャ語で「舟の形をした」という意味。唇弁がくぼんで舟底形をしていることが由来。受粉の際、虫が伝わって入りやすい構造になっている。宇井清太さんの蘭展では、自生地にちなみ、会場内をヒマラヤなどをイメージして装飾。栽培過程を説明するため、生育段階ごとの実物展示なども行っている。一般公開は9日まで。問い合わせは、最上オーキッドガーデンの運営会社最上蘭園0237(86)3223。
(2010年05月02日 掲載)
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