食と農を問う

スノーボール 出荷時期ずらし値崩れ防げ

高さ2メートルほどのスノーボールの枝を手入れする鈴木俊昭さん(右)。この時期は県産品の出荷が少なく促成栽培が課題となっている=朝日町宮宿
高さ2メートルほどのスノーボールの枝を手入れする鈴木俊昭さん(右)。この時期は県産品の出荷が少なく促成栽培が課題となっている=朝日町宮宿
 あでやかな花びらの間から萌黄(もえぎ)色の球体が控えめに姿をのぞかせ、花束は命が芽吹く春らしさをまとう。スノーボールと呼ばれるこの花は決して目立たないが、主役を引き立てることで存在感を示す。市場で人気の品種だ。村山地域を主力とし、本県が全国的な産地として成長できる可能性を秘めているものの、生産者を訪ねると、その道程には越えるべき壁もあるようだ。
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 県内でスノーボールが栽培され始めたのは約10年前。注目されたきっかけは、市場の人気に加え、その出荷時期だった。露地栽培であれば5月上旬にピークを迎える。同じ花木類で、本県産が大成功を収めた啓翁桜は年末から3月末まで。それに続く花き品目として期待された。原産地の欧州などで人気が高かったスノーボールは国内に産地が少なく、ほとんどをオランダからの輸入に頼っていた。産地化を目指し、県は栽培技術の研究と普及に乗り出した。

 県村山総合支庁西村山農業技術普及課の主任専門普及指導員・深瀬靖さん(42)は、管内の出荷量推移を示してくれた。「2001年が約500本、09年は約18万7000本」。この数値を見ると順調に拡大してきたことがうかがえる。ところが深瀬さんは「数量は頭打ちの状態。その陰に課題もはらんでいる」と意外な言葉を続けた。

 県指導農業士も務める朝日町宮宿の鈴木俊昭さん(56)はリンゴやサクランボなど多品種の果樹農家で、冬場は啓翁桜の栽培も手掛けていた。02年からスノーボールの栽培をスタート。これを機に果樹栽培から花き農家へ転向した。理由について、鈴木さんは「果物は管理に手間暇がかかり、運搬も重労働。年齢も考え、花き類の方が体力的に合っていた」と話す。現在、スノーボールだけで年間約4万本を出荷している。

 スノーボールは株を植え付けてから、出荷できる花を咲かせるまで3年かかる。「この期間は収入が上がらないので我慢が必要。うちは果樹栽培を徐々に縮小させていったが、まったくの新規で栽培を始めるのは楽ではない」と鈴木さん。一方で、栽培は土壌管理や除草、冬場の雪害対策が主で、開花が軌道に乗れば「おいしい仕事」という。

 市場に出すとスノーボールの売値は驚くほど高かった。「1本160円の値を付け、活気に沸いた」。鈴木さんは興奮気味に振り返る。それが4〜5年後には1本50円まで下落した。スノーボールが高値で売れることから、県内の生産者が一気に膨れ上がり市場側が飽和状態となっていた。スノーボールは桜前線のように、一定の時期に一気に咲く特性があり、出荷期が集中することが値崩れに拍車を掛けていた。

萌黄色のスノーボール。球状の花がアクセントとなり花束に春らしさを演出する=山形市・「花の店ジョアン」
萌黄色のスノーボール。球状の花がアクセントとなり花束に春らしさを演出する=山形市・「花の店ジョアン」
 それでも生産量は増え続けた。価格が50円弱でも利益が出た。08年、市場の飽和はとうとうはじけた。1本が5円まで暴落した。収穫作業がばからしくなり、栽培を断念した農家も出た。「山形の人は何か好調な作物が出ると、止めどなく流れていくから…」。市場からはこうささやかれた。

 ただ、この悲劇は本県がスノーボールの主力産地となるための課題を明確に提示した。

 深瀬さんは言う。「管内のスノーボールの出荷量は、その8割近くが5月上旬に集中し、この時期に増やせる余地はない。出荷を3月まで前倒し、6月まで遅らせて需給バランスを整えることが産地化への条件となる」。そして、県などが過去10年近くにわたって加温による促成栽培や、雪を利用して冷やす抑制栽培の技術を研究開発してきたことも説明してくれた。解決策はそろっている状況なのだ。本県のほかにスノーボールの栽培を本格的に研究している所が少ないことも優位だ。

 実際に、鈴木さんは朝日町内の平場と山間部の高地に栽培地を分散。標高による温度差を生かして出荷時期をずらし、売値の安定化を図っている。また、無加温ハウスで促成栽培にも取り組み、4月下旬から出荷できるようにした。

 一方で、現実は机上で話すほど単純ではい。鈴木さんに加温ハウスによる早期出荷を問うと、「興味はある。が、啓翁桜の時期と重なり人手も足りない」との答えだった。「解決策は目の前にあるが、加温でも冷却でも設備投資の負担とリスクが伴う。農家に導入を強制することはできない」。深瀬さんは悩ましげな表情でこう語り、「いかに農家の理解を得るか、そして市場の需要を活性化させるか。われわれの役目だ」と力を込めた。

 山形市の花店「花の店ジョアン」を訪ねた。4月中旬のこの時期は静岡県などの出荷が終わり、県内産に切り替わるまでの空白期間でスノーボールは品薄だった。「主役ではないが、この萌黄色は代用が利かない貴重な存在」と店主の早坂広康さん(61)。「県内産が増えたことで新鮮な状態で入るようになった。特に2〜3月はくすんだ色合いの輸入品が多いので、県内産が増えることは歓迎だ」という。県内の花店では地元産の花を積極的に使う動きも広まっているという。

 一方で「一部の生産者を除くと県内産は品質にばらつきがある。春を演出する花なので、出荷時期があまり長引いても需要は追い付いてこない」とも指摘した。産地化に向けては売り手側と生産者側との調整も必要なようだ。

 手際良く作ってくれたブーケを手に車まで少しの距離を歩いた。少しの気恥ずかしさと高揚感。花を手にする喜びを久しく忘れていた。スノーボールが揺れる。優しくそよぐ風が一層春めいた。

(「食と農を問う」取材班)

 【スノーボール】スイカズラ科。和名はテマリカンボク。原産地は欧州、北米。花が咲いた状態では、純白の小さな花が集まってアジサイのようになる。花束で使われる場合は、咲き始めの緑色が好まれる。県内産地は山形市、上山市、寒河江市、朝日町、酒田市などに点在する。
(2010年04月18日 掲載)
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