食と農を問う

まだ珍しい肉、可能性を信じ 雛成育に課題、普及まだ

山形朝日オーストリッチ産業センターが育てるダチョウ。おからをベースにリンゴなどを自家配合した餌で飼育している=朝日町宮宿
山形朝日オーストリッチ産業センターが育てるダチョウ。おからをベースにリンゴなどを自家配合した餌で飼育している=朝日町宮宿
 サッカーJ1のモンテディオ山形が浦和を迎えて、今月21日に行われたホーム初戦。舞台となったNDソフトスタジアム山形(天童市)では冷たい春の雨にもかかわらず、スタンドのサポーターが熱いエールをピッチに送り続けた。
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 その会場の一角で販売され、サポーターの間で定着しているのが「韋駄天(いだてん)フランク」だ。ダチョウ肉と豚肉をミックスして腸詰めし、リンゴの木のチップで薫煙したソーセージ。ピッチを縦横無尽に走り、ゴールに向けて駆け抜ける選手への思いを、雄々しく疾駆するダチョウの姿に重ね合わせて名付けた商品だ。

 加工・販売元は、山形朝日オーストリッチ産業センター(朝日町、佐藤俊実社長)。朝日町宮宿に工房「ロイフェン」を構えて、ソーセージなどを生産している。「韋駄天フランク」はこの工房から出荷、モンテディオ山形のホームゲームに合わせて地場産品の1つとして売り出され、3年目になる。

 ダチョウの飼育、食肉処理をしているのは、同じ経営トップが率いる朝日町内の建設会社・大東建設の畜産部。その後の加工、販売を同センターが受け持つ。同センター食肉処理部門の施設は日本オーストリッチ事業協同組合の指定処理場第1号。現時点で、この施設を含めて全国で3カ所を数えるのみだ。

 両社が管理する朝日町宮宿の展示圃では、地面の一部に雪が残る中、37羽のダチョウが金網で仕切った柵の中で飼育されていた。すらりと伸びた首。背丈は2メートルほどで、体重は100キロ前後。くちばしと、くりっとした目が愛らしい。餌は、おからをベースに町特産のリンゴ、牧草、米ぬかなどを自家配合して、1日当たり全体で約150キロ与えている。排せつ物などによるにおいはほとんどない。ダチョウは鳴かないため、展示圃内は群れを成して走る足音と羽音がするだけだ。

ダチョウ肉を使ったソーセージ。豚肉を交ぜて食味、食感を改良した
ダチョウ肉を使ったソーセージ。豚肉を交ぜて食味、食感を改良した
 大東建設は1998年にダチョウの飼育に取り組み始めた。寒暖の差が激しい地域でも飼育でき、食肉をはじめとして各種加工製品の幅が広い。高齢化などによる離農に伴って生じた遊休農地を有効活用する手だての1つとしても着目し、新規事業分野に参入した。

 南アフリカからアフリカンブラックという種類の親鳥を9羽取り寄せたのがその始まりだった。山形朝日オーストリッチ産業センターは2001年に発足。町特産のリンゴで肉に甘味を出した「アップル路鳥(じどり)」としてダチョウを売り出すユニークなプロジェクトは、町内外で広く注目された。

 だが、その取り組みは試行錯誤の連続だった。飼育マニュアルもなく、全滅の危機と背中合わせの状態。厳しい環境下でノウハウを積み重ね、軌道に乗せてきた。

 しかし、依然として完全には確立していないのが雛の飼育だ。親鳥は年間40個前後の卵を産む。そのうち有精卵は約7割。42日間温めてふ化するのはそのまた7割ほど。さらにその後も無事に育つのは約半分。結局、良くて10羽、1けた台にまで落ちることもある。

 ふ化後の3〜4カ月、雛の飼育は温度や湿度の管理が難しい。ヒーターで気温を30度に保つ。湿度も大きな影響を与える。湿気の多い梅雨の時季に差しかかると、生存率が低くなる。6〜7カ月まで育てば、皮下脂肪が付いて温度変化に対応できるようになり、ようやく放牧が可能になる。大東建設畜産部所属で同センター販促営業課長を務め、飼育と営業を担当する鈴木正浩さん(39)は「ダチョウは成鳥になれば飼いやすいが、雛には細心の注意を払う必要がある。これを確立しないと、伸びが期待できない」と強調する。

 ダチョウは1年〜2年で出荷される。肉は低脂肪、低カロリーで、良質なタンパク質と鉄分を豊富に含む。栄養価が高く、ヘルシーで健康志向の流れにはマッチしているが、日常的に家庭で食するものでないだけになじみが薄く、食肉用としては伸び悩んでいるのが実情だ。

 同センター総合管理課長の熊谷良作さん(37)は05年から1年間、岩手県一関市に赴き、ドイツの食肉加工マイスターの資格を持つ人に手ほどきを受けた。朝日町に戻り、習得した技を駆使して手作りソーセージなどを市場に送り出している。「ダチョウ100%にこだわるのも一策。だが一方で、戦略アイテムととらえ、豚肉などとの組み合わせの中で、ダチョウ肉という細い柱を補強していく方策もあるのではないか」と事業の方向性に対して思いを巡らす。

 高級皮革製品の素材としても知られるダチョウ。その素材供給に加えて、肌用クリームやせっけんなど多くの製品も市場に送り出してきた両社。課題を抱えながらの険しい道のりだが、ダチョウの新たなの可能性を模索する不断の営みが続いている。
(2010年03月28日 掲載)
食と農を問う 朝日町発 ダチョウ生産、加工販売 記事一覧
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