まだ珍しい肉、可能性を信じ 雛成育に課題、普及まだ
山形朝日オーストリッチ産業センターが育てるダチョウ。おからをベースにリンゴなどを自家配合した餌で飼育している=朝日町宮宿
[ 動画はコチラ]その会場の一角で販売され、サポーターの間で定着しているのが「韋駄天(いだてん)フランク」だ。ダチョウ肉と豚肉をミックスして腸詰めし、リンゴの木のチップで薫煙したソーセージ。ピッチを縦横無尽に走り、ゴールに向けて駆け抜ける選手への思いを、雄々しく疾駆するダチョウの姿に重ね合わせて名付けた商品だ。 加工・販売元は、山形朝日オーストリッチ産業センター(朝日町、佐藤俊実社長)。朝日町宮宿に工房「ロイフェン」を構えて、ソーセージなどを生産している。「韋駄天フランク」はこの工房から出荷、モンテディオ山形のホームゲームに合わせて地場産品の1つとして売り出され、3年目になる。 ダチョウの飼育、食肉処理をしているのは、同じ経営トップが率いる朝日町内の建設会社・大東建設の畜産部。その後の加工、販売を同センターが受け持つ。同センター食肉処理部門の施設は日本オーストリッチ事業協同組合の指定処理場第1号。現時点で、この施設を含めて全国で3カ所を数えるのみだ。 両社が管理する朝日町宮宿の展示圃では、地面の一部に雪が残る中、37羽のダチョウが金網で仕切った柵の中で飼育されていた。すらりと伸びた首。背丈は2メートルほどで、体重は100キロ前後。くちばしと、くりっとした目が愛らしい。餌は、おからをベースに町特産のリンゴ、牧草、米ぬかなどを自家配合して、1日当たり全体で約150キロ与えている。排せつ物などによるにおいはほとんどない。ダチョウは鳴かないため、展示圃内は群れを成して走る足音と羽音がするだけだ。
ダチョウ肉を使ったソーセージ。豚肉を交ぜて食味、食感を改良した
南アフリカからアフリカンブラックという種類の親鳥を9羽取り寄せたのがその始まりだった。山形朝日オーストリッチ産業センターは2001年に発足。町特産のリンゴで肉に甘味を出した「アップル路鳥(じどり)」としてダチョウを売り出すユニークなプロジェクトは、町内外で広く注目された。 だが、その取り組みは試行錯誤の連続だった。飼育マニュアルもなく、全滅の危機と背中合わせの状態。厳しい環境下でノウハウを積み重ね、軌道に乗せてきた。 しかし、依然として完全には確立していないのが雛の飼育だ。親鳥は年間40個前後の卵を産む。そのうち有精卵は約7割。42日間温めてふ化するのはそのまた7割ほど。さらにその後も無事に育つのは約半分。結局、良くて10羽、1けた台にまで落ちることもある。 ふ化後の3〜4カ月、雛の飼育は温度や湿度の管理が難しい。ヒーターで気温を30度に保つ。湿度も大きな影響を与える。湿気の多い梅雨の時季に差しかかると、生存率が低くなる。6〜7カ月まで育てば、皮下脂肪が付いて温度変化に対応できるようになり、ようやく放牧が可能になる。大東建設畜産部所属で同センター販促営業課長を務め、飼育と営業を担当する鈴木正浩さん(39)は「ダチョウは成鳥になれば飼いやすいが、雛には細心の注意を払う必要がある。これを確立しないと、伸びが期待できない」と強調する。 ダチョウは1年〜2年で出荷される。肉は低脂肪、低カロリーで、良質なタンパク質と鉄分を豊富に含む。栄養価が高く、ヘルシーで健康志向の流れにはマッチしているが、日常的に家庭で食するものでないだけになじみが薄く、食肉用としては伸び悩んでいるのが実情だ。 同センター総合管理課長の熊谷良作さん(37)は05年から1年間、岩手県一関市に赴き、ドイツの食肉加工マイスターの資格を持つ人に手ほどきを受けた。朝日町に戻り、習得した技を駆使して手作りソーセージなどを市場に送り出している。「ダチョウ100%にこだわるのも一策。だが一方で、戦略アイテムととらえ、豚肉などとの組み合わせの中で、ダチョウ肉という細い柱を補強していく方策もあるのではないか」と事業の方向性に対して思いを巡らす。 高級皮革製品の素材としても知られるダチョウ。その素材供給に加えて、肌用クリームやせっけんなど多くの製品も市場に送り出してきた両社。課題を抱えながらの険しい道のりだが、ダチョウの新たなの可能性を模索する不断の営みが続いている。
(2010年03月28日 掲載)
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