食と農を問う

やまがた地鶏 1キロ3000円、まだまだ駆け出し

「やまがた地鶏」を飼育する渋谷国男さん。ブランド化について「まだまだ駆け出し」と語る=鶴岡市
「やまがた地鶏」を飼育する渋谷国男さん。ブランド化について「まだまだ駆け出し」と語る=鶴岡市
 「『やまがた地鶏』はどこで買えるのか? よく聞かれる質問」。ワゴン車のハンドルを握る渋谷国男さん(63)=鶴岡市★(木へんに荒)代=は、眼下に広がる庄内平野に目を向けたまま助手席の記者に話し始めた。「1キロ3000円って教えると、たいがいの人は驚く。スーパーには並んでいないよ」と笑った。
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 たらのきだいスキー場に近い渋谷さんの自宅から車で5分ほどの場所に放し飼いの鶏舎がある。以前豚が飼育されていた建物を借りて、養鶏の環境を整えた。周りは棚田が広がる。「鳥海山に月山、天気が良ければ飛島も見える」

 鶏舎に入ると、50平方メートルほどに仕切られたスペースに出荷を控える雄、雌、生後60日ほどの鶏がそれぞれ分かれていた。白と黒のまだら模様の雄と、黒を基調に頸部(けいぶ)に筋状の茶が入る雌。素人目にも雌雄がすぐ分かる。すらりとした雄に対し、雌はややふっくらしていておとなしい印象を受ける。

 一般に鶏肉として多く市場に出回っているブロイラーが60日前後の飼育期間で出荷されるのに比べ、「やまがた地鶏」は140日ほどかけて育てる。出荷の目安は、雄が約3キロ、雌が約2キロ。肉色は赤みが強く、ブロイラーに比べて歯応えがある。うま味成分のグルタミン酸の割合が高いという特性を持つ。

採卵され生産者に供給される「やまがた地鶏」の種卵=新庄市・県農業総合研究センター畜産試験場
採卵され生産者に供給される「やまがた地鶏」の種卵=新庄市・県農業総合研究センター畜産試験場
 もともとコメを中心とした農業を営んでいた渋谷さんが養鶏に着目したのは、1999年ごろ。国の減反政策を機に、遊休農地の解消策として鶏を放し飼いする環境づくりに思い至った。長男が農業後継者として自立したことも、自らを新しい分野に駆り立てる原動力になった。地元の仲間6人で秋田県の旧合川町(現北秋田市)に3年間、研修のため通った。目的は秋田特産の比内地鶏。「飼育側の管理マニュアルを徹底し、ブランド化に結び付けている点に加え、伸び伸びと放し飼いできる十分な環境に驚いた」と当時を振り返る。設備投資に値する比内地鶏のブランド力にあらためて気付かされた。

 2001年ごろから、本格的に養鶏に取り組み始めた渋谷さん。「やまがた地鶏」を県が開発した04年からかかわり、当時は仲間と合わせて約800羽を育てた。現在は、やまがた地鶏振興協議会の会長を務めながら、年間約3000羽を出荷している。「温度管理、衛生面には特に気を使うが、豚や牛といった4つ足に比べれば育てるのは楽だと思う」と話す。協議会員は個人、学校など41だが、多くが雪のない春から秋にかけての飼育にとどまっており、実質的に年間を通した出荷を行うのは渋谷さんだけという。

 やまがた地鶏を評し「まだまだ駆け出しの状態」と渋谷さん。東京都内の老舗焼き鳥店など40〜50の取引先を持つまでに成長し、現在は販売価格を1キロ3000円に据えるが、同じ地鶏でも「名古屋は1キロ5500円、秋田は1キロ4500円」。上には上がある。「育てる人を増やすことが課題。飼育期間を短縮させ、低コスト生産を可能にするための研究や、管理マニュアルの徹底による統一ブランド化などを進める必要がある」と強調する。現在、鶏の骨格ができる生後100日以降は、飼料用米を配合飼料に3分の1加え、さらに付加価値の高い飼育方法を実践している。

 「やまがた地鶏」の種卵を供給するのが、新庄市鳥越の県農業総合研究センター畜産試験場。父鶏、母鶏の種の保存を図り、注文に応じて有精卵を人工的に産ませる。年間約9000個の有精卵を供給し、7割程度の6000〜6500個がふ化するという。副場長の菅野俊さん(57)は「地鶏の主産地に比べて本県産の数量は、けた違いに少ないのが現状。生産者を増やすためには、販売先を開拓し『やまがた地鶏は売れる』という下地をつくる必要もある」と語る。

 関係者の間で“幻の地鶏”と言われ、なかなかお目にかかれない「やまがた地鶏」だが、その地鶏を店の看板メニューにしようと昨年末にオープンした店がある。山形市本町1丁目の「やまがた地鶏 やきとり和(かず)」だ。店主の渡辺和則さん(36)は「チラシで見たのがきっかけ」と話す。渋谷さんに連絡を取り、現地に足を運んで地鶏の様子を観察した。「山形がはぐくんだ素材を使いたかった」。初めて自分の店を構えた店主のこだわりが垣間見える。真新しい店内には、「やまがた地鶏」のモモ、カワ、ムネの3品が各140円、一般的な「焼き鳥」がそれぞれ各100円と手書きされたメニューが置かれていた。

 居合わせた客の男性に口にした感想を聞いた。「(やまがた地鶏は)歯応えがあり、うまいよ。人には好みがあるから、もっと軟らかい肉の方がいいって言う人もいるかもしれない。だけど、地元の鶏肉を使いたいという若い店主のこだわりがいいじゃない」

(「食と農を問う」取材班)

 【やまがた地鶏】県農業研究研修センター畜産研究部(現県農業総合研究センター畜産試験場)が2000年度、地鶏の交配試験に着手。03年度まで試験を重ね、肉質、生産性ともに優れた地鶏を05年2月「やまがた地鶏」と命名した。父鶏は、遊佐町の愛好家が長年保存してきた闘鶏用の赤笹シャモの雄と、名古屋種の雌の交雑種。母鶏は、明治時代までに国内に導入され定着した横斑プリマスロック種。

 日本農林規格(JAS)による地鶏の定義は、在来種の血筋が50%以上であること。
(2010年03月14日 掲載)
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