「手が物差し」地道な手作業 課題は販路・地元にこだわり新商品
薫煙室に入れられるウインナーソーセージ。まきには地元のヤマザクラを使い、地域色を打ち出している=長井市草岡・草岡ハム加工組合
[ 動画はコチラ]「農家の手作りハム」。草岡ハム加工組合のキャッチフレーズだ。1988(昭和63)年の組合発足の中核となったのは、草岡地区や隣接する寺泉地区の養豚農家6人だった。組合長の佐藤晴夫さん(59)=同市寺泉=もその1人。「50〜100匹を飼育する小規模経営の農家ばかり。発足当時は豚肉が安く、それを加工すればもうかるんじゃないか、という思いがあった。バブル景気のころで、組合員も30代と若かったから、ひとつやってみようということになった」と振り返る。 組合員2人とパート従業員が専従で加工を担当、ほかの組合員は農業の傍ら、非常勤で経営に携わっている。4年前までは組合員が生産した豚肉を原料に使っていたが、後継者難などを理由に養豚から撤退する組合員が相次ぎ、現在は米沢食肉公社から置賜地方産の生肉を仕入れている。佐藤組合長も、ハウス栽培中心の農業経営に移った。 「今は大規模経営でなければ、養豚業は立ち行かない。養豚場のにおいについて、周辺住民の関心も高まり、組合として一体的に豚を飼育する場所も設定できなかった」。仕入れる肉は高評価の「上」ランクとし、新鮮な生肉を用いることで品質維持に努めている。
店頭に並ぶ草岡ハム加工組合の商品(手前右)。地元産の手作り商品として価値をアピールしている=長井市本町2丁目・ヨークベニマル長井店
専務の横山茂さん(56)=同市草岡=が、腸を9〜10センチ間隔でひねって形を整えた。製造担当者の1人で、工場の敷地の所有者でもある。素早い手つきで均一に形を整える作業に見とれていると、「工場ができてから、ずっとやっている。手の長さが物差し代わりだよ」。同じく作業中のパート従業員芳賀直子さん(50)=白鷹町鮎貝=は寺泉地区出身で、この日が2回目の勤務。「ひねるときに腸が破れたり、スムーズにはいかなくて」と苦笑した。 製造作業を指揮する工場長の横山裕幸さん(48)=同市草岡=は、かつてホームセンターの社員だった。父親が酪農家で地元の養豚農家と付き合いがあったことがきっかけで転職し、組合に参加。福島、宮城両県の加工場で研修し、技術を身に付けた。「研修先では『大変だけど手間をかけて作業する素人の方が、うまいものを作る』と言われた。自分自身も教えられた作り方を守ってきたし、今後も変えるつもりはない」。信念を語る一方、こう口にした。「不景気で製品の売り上げは落ちているが、豚肉の値段が下がっていて材料費を抑えることができ、正直、助かっている面もある。養豚農家には厳しい経営環境なのだが…」。複雑な表情が浮かんだ。 作業の合間を見て、同市内のスーパー「ヨークベニマル長井店」に向かった。組合のウインナーソーセージ、ハムが大手メーカーの製品の隣に並ぶ。手作りの分、やや高値の設定で、売り上げは大手メーカーの製品に軍配が上がるが、お中元、お歳暮のギフト商品は人気があるという。取材中、店内で組合の製品のファンだという客に会った。同市片田町の無職川村せつ子さん(68)。「おいしいし、地元で作られているから安心」。市内の市民市場で同組合が「無添加商品」の販売を行っていることにも、好感を持っているという。 工場に戻り、川村さんの話を伝えると、佐藤組合長がうれしそうにうなずいた。ファンの口コミによる評判の広がりが、組合の小規模な経営を支えてきたともいえる。発足当初、組合員が頭を悩ませたのが販路の開拓。「農業だけやっていたころは、いいものを作りさえすれば農協が高く売ってくれると思っていた。客が何を求めているかなんて、考える必要がなかった」 個々の組合員が親類や所属する農業団体などのつてを頼り、行政の支援も受けながら受注先を探した。求められる商品が何なのかを丁寧に聞き、手作業での製造の強みを生かしてサイズや価格を設定。ホテルと契約を結び、結婚式の引き出物として納品することで知名度アップも図った。現在は地元スーパー各社、病院のほか、兵庫県を拠点にしているスーパー、東京・銀座の県アンテナショップなど県外にも商品を卸し、学校給食のメニューとしての需要もある。 それでも、4年ほど前から全体的な売り上げは減っている。活路を開くきっかけとして、期待しているのが地元長井にこだわった新商品。行者ニンニクとニラを掛け合わせた新野菜として、市内で栽培されている「行者菜」を練り込んだウインナーソーセージ、桜の名所にちなんで桜肉(馬肉)を素材にしたり、ながい黒獅子まつり(5月)に合わせてイカスミを混ぜて黒くしたりと、遊び心が感じられるフランクフルトソーセージを開発してきた。 薫煙室でのそれぞれ1時間ずつの乾燥、薫煙の作業が終わった。煙の香りを漂わせるウインナーソーセージを75度のお湯の中に入れ、殺菌して完成させる。並行してハム作りが始まり、佐藤組合長も水分を逃がさないように布などを肉に巻く作業を手伝う。「販路開拓のノウハウは、まだまだ足りない。どう得るかが課題。ただ、地元の人たちに育ててもらった組合であり、足元は大切にしなければならない」 市の花アヤメをイメージし、紫色のフランクフルトソーセージを作る計画もあり、色を表現する素材を検討中とのこと。どんな製品に仕上がるのか。味はどうなのか。想像力が膨らんだ。 (「食と農を問う」取材班) 【草岡ハム加工組合】組合員11人で構成。塩、砂糖、香辛料のみを調味料に使った「無添加商品」のハム、ソーセージを作ったり、地元の西置賜ふるさと森林組合から購入したヤマザクラのまき、チップを薫煙に用いるなど、特色ある経営を展開。優れた農業経営体を顕彰する県ベストアグリ賞を1998年に受けた。
(2010年03月07日 掲載)
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