飲食店、精肉店が支えて発信 高評価、地元から全国へ
山形市七日町の居酒屋で聞き慣れないメニューに出会った。手書きで「庄内豚の極み『山伏豚』」とある。県内各地で増えている地域ブランド豚の一種だろうと注文してみた。料理は定番のしゃぶしゃぶ。皿の上では、きめの細かいピンク色の肉と真っ白な脂身がコントラストとなって映える。軽く湯に通し、たれを付けずに口に含んだ。
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地域ブランド豚「山伏ポーク」を育てている生産者たち=鶴岡市羽黒町
山伏豚のもともとの名称は山伏ポーク。今は総称「高品質庄内豚」に含まれている。経緯は後述するとして、産地は鶴岡市羽黒町だ。 取材を申し入れると高寺地区の養豚団地に6人の生産者が集まってくれた。その一人の加藤均さん(61)が説明する。稲作と兼業だった生産者の作業効率化のため、1973(昭和48)年にこの地に養豚団地ができた。庄内地方は古くから養豚が盛んで、それぞれの技術レベルも高かった。加藤さんらは豚に地域特産の柿や柿酢を与えることで肉質を柔らかくする工夫を凝らし、山伏ポークとして差別化を図った。抗生物質は一切与えない。「みんな元気な豚だ」。流れるように語る。「豚の血統は3種を掛け合わせた三元豚」「豚は風邪をひきやすいため、畜舎には暖房も備えている」と、的確なフォローを挟む青年は、息子の欣也さん(37)だった。 養豚場の規模が大きくなるとにおいの問題が出てくる。業を営み食を提供する生産者の言い分と、快適な生活を求める周辺住民の主張は、折り合いが難しい。これから農業振興を進める上で、大事な問題だ。羽黒町高寺地区も住宅地から遠くない位置にある。この問題について生産者は「ふん尿処理にはお金も掛け、細心の注意を払っている。それでも生きものだからにおいはある。われわれの場合は養豚専業ではなく、稲作農家としても地域とのつながりがあるので、大目に見てもらっている部分はある」と少しトーンを落として語った。
かつて感銘を受けた豚肉を自分の店でも看板メニューにしている=山形市・「竹庵 たけまる」
せっかく山伏ポークのブランドがあるのなら、農協に頼らず独自で販売ルートを確立できないのか? 記者の問い掛けに、「そんな簡単な話ではない」。寒河江仁さん(56)が切り返した。養豚業は飼料の高騰や販売価格の低迷、設備投資に伴う借入金などで決して安定した経営状況にはない。「山伏ポークとして、スーパーなどから直接買い上げてもらう手もあるが、相手が輸入品への切り替えや値引きを打ち出せば、経営はさらに不安定になる。農協を通して収入を安定させることは大事なんだ」 では、なぜ市場に山伏ポークが出回っているのか。その陰には鶴岡市の精肉店「クックミート マルヤマ」の支えがあった。代表の丸山完さん(63)は山伏ポーク生産者と旧知の仲で開発にも携わった。消費者が安心できる商品として自信を持っており、山伏ポークの商標登録も取得。山伏ポークの生産者の肉を市場から通常より高値で買い付け、ブランドを守っているのだ。山形市の居酒屋の肉もここが発信源だった。「精肉専門店はスーパーなどに押され苦境にある。独自のブランドを掲げ付加価値を高めることは、店の生き残り策でもある」。丸山さんは力強く語った。 山伏ポークには強力な応援団もいる。酒田市のレストラン「欅(けやき)」が地元の優れた食材としてさまざまな料理に採用しているほか、鶴岡市の「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフは生産現場を訪れ、その味を認めた。奥田シェフの店では、あぶり焼きを岩塩で味付けし、豚肉本来の味を引き立てている。これらの動きが引き金となり、販売先は全国に広がってきた。高い評価は生産者の誇りとなっている。 一つ気になることがあった。「統一基準で豚を育てれば、どこの豚も一様においしいのではないか」。生産者に疑問をぶつけた。「おれらはまじめだから、決められたことをきちっとやる。その上、愛情と技術があるからね」。高らかな笑いの輪が青空に抜けていった。居酒屋の店長の思い、精肉屋のひた向きさ、そして、しゃぶしゃぶの味が一本の線でつながった。 (「食と農を問う」取材班) 【山伏ポーク】県内外の一部の店で取り扱いがあり「山伏豚」の名前で提供している所が多い。総称は「高品質庄内豚」となるため、山伏ポークとして購入する場合は入手先が限られる。鶴岡市羽黒町に約10人の生産者がおり、年間1万頭弱が出荷されている。
(2010年02月28日 掲載)
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