先進地・庄内 減反田活用しおいしい豚に
飼料用米を配合した餌を与えて飼育される「こめ育ち豚」=庄内町・千本杉農場
[ 動画はコチラ]「平牧三元豚」のブランドで知られる平田牧場(酒田市)は1996年から、飼料用米の導入に取り組んできた。自社で販売するすべての豚を飼料用米を混ぜた餌で飼育している。日本の農業を変える食料自給向上モデルとして、注目が高まっている。 2004年には遊佐町が「食料自給率向上特区」の認定を受け、「飼料用米プロジェクト」がスタート。生産地の遊佐町とJA庄内みどり、平田牧場、消費者側の生活クラブ生協連合会(東京)によるネットワークが確立した。 プロジェクト内の飼料用米の作付面積は年々拡大している。昨年は約700ヘクタールで、全国一の規模を誇る。プロジェクトにかかわる農家は遊佐町が342軒、酒田市は400軒。おととしから宮城、岩手、栃木の各県の農家も加わり、今年の作付面積は870ヘクタールに増える見込みだ。 遊佐町岩川の稲作農家三浦澄雄さん(60)は05年からプロジェクトに参加し、飼料用米の栽培を始めた。国の減反政策を受け、転作作物の大豆を作っていたが、連作障害に悩まされた。畑は草だらけ。打つ手がなくて大豆に代わるものはないかと模索していたところ、JAから声を掛けられ、すぐに飛び付いた。 飼料用米の販売価格は主食用米の約5分の1。農家にとってコスト削減と収量アップが最重要課題だ。三浦さんは飼料用米「べこあおば」のじかまき栽培に取り組んでいる。動力散粉機を使って水田に直接種をまく方法で、育苗や移植作業が省略できる。 春作業の省力化につながる一方、技術面のハードルは高い。畑を水田に戻した最初の年は、天候に合った水管理の仕方が分からなかった。「発芽してから苗が安定するまで、1カ月間は気が抜けない。風が吹くと水田が波打ち、苗が動いてしまう。この地域特有の強風は一番の障害となる」 発芽と苗立ちの時期に失敗すれば、稲は育たない。酒田市内では水田に溝を掘って種をまく「乾田V溝」というじかまき栽培が普及している。だが、三浦さんはそれより経費が削減できるとして、今の方法を変えるつもりはない。「米価が下がっても耐えられるように、コストを抑える努力が必要だ」と強調する。 「大事に育てた米を豚に食べさせることに抵抗はなかったか」と尋ねると、答えは「そんなことはない」。さらにこう言った。「米を作ることのできる喜びがある。そして何より、水田が広がる庄内平野の美しい景観を守りたい。ほかの生産者も同じ気持ちなんじゃないか」 庄内地方の減反田で飼料用米を栽培する取り組みは各メディアに取り上げられ、一躍脚光を浴びるようになった。きっかけは、世界的な穀物高騰。飼料穀物の不足は恒常的で、いつ高騰してもおかしくない状況にある。平田牧場は国内で穀物を安定生産できる体制づくりを一貫して続けてきた。食料自給率の向上を掲げる国が農家に対する手厚い支援策を打ち出したことで、ここ数年、プロジェクトのすそ野が一気に広がった。 民主党政権の誕生により、10年度から飼料用米の助成制度が変わる。米の生産調整に絡み転作を奨励するこれまでの交付金を廃止し「水田利活用自給力向上事業」に切り替える。自治体ごとに異なった補助金の額は一律となり、米粉用米、飼料用米など新規需要米は10アール当たり8万円に設定される。 飼料用米を10アールで約600キロ生産した場合、農家の手取り額は10万円程度。現行制度と額はほとんど変わらないと想定される。JA庄内みどりの担当者は、「今までは生産調整を進める補助金だったが、国が増産したいものに対して作付け誘導を図るように転換された。飼料用米の生産者は今後さらに増えるだろう」と説明する。
豚の枝肉を部位別に切り分ける平田牧場の本社ミートセンター。分厚い脂肪が平牧三元豚の特徴で、甘みがある=酒田市
現在、豚の餌に配合する飼料用米の割合は三元豚が10%、金華豚が15%。これを20%まで増やす。米の餌を与える期間も、仕上げ期の80日間から122日間に延ばしていく。今年8月から自社の豚全頭でこの取り組みを実施する。 3000頭の豚を飼育する平田牧場の千本杉農場(庄内町)では、既に先行導入している。給餌箱に入った混合飼料はいつでも食べ放題。阿部一道農場長(37)は「餌に米を混ぜるようになってから豚の食い付きがいい」と話す。 飼料用米で育てた「こめ育ち豚」を販売するようになって、消費者の評価も高まった。「うまみ成分のオレイン酸が増えて肉が柔らかくなった」「脂肪の融点が低く、口どけが良くなった」などの効果が試食アンケートの結果で分かった。酒田市の本店では、100グラム1200円という最高級の純粋金華豚のロース肉を贈答用に買い求める人が増えた。しゃぶしゃぶが最もおいしい食べ方だという。 同社は新ブランドとして従来の平牧三元豚より価格を抑えた「平牧三元もち豚」を開発し、今月末に販売を始める。新田嘉七社長(52)は「飼料用米の受け皿となり、食の安全や緑の景観の保全にも貢献したい」との思いで、新戦略を展開する。 民主党は食料自給率を10年後に50%、20年後に60%に引き上げる方針を掲げている。生産者、養豚業者、消費者による三者一体の取り組みで、この目標にどれだけ迫れるか。飼料用米の先進地・庄内からの挑戦は続く。 (「食と農を問う」取材班) 【飼料用米プロジェクト】農家が生産した飼料用米を平田牧場が買い取り、豚を育て、生活クラブ生協連合会を通じて組合員に供給する。遊佐町、平田牧場、生活クラブ生協の3者は30年以上前から産直提携を結んでおり、飼料用米を活用した食料自給モデルの土台となった。
(2010年02月21日 掲載)
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