食と農を問う

ぴり辛、産直で人気 かあちゃんの味、自信の商品

 村山市楯岡笛田の県村山総合支庁北庁舎1階ロビー。年間を通して週1回、「新鮮!木曜市」が開催される。北村山地域の農村生活研究グループに所属する生産農家の女性ら有志が中心になって、農産物や農産加工品を販売している。1999年にスタートし、すっかり地域に定着。庁舎の昼の休憩時間に合わせて開設しているが、地域住民も毎週足を運び、ロビーはにぎわう。
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県村山総合支庁北庁舎で開催されている「新鮮!木曜市」。ぺそら漬けなど農産加工品が売り出される
県村山総合支庁北庁舎で開催されている「新鮮!木曜市」。ぺそら漬けなど農産加工品が売り出される
 4日の「木曜市」で、漬物を主体にした商品構成で販売に立ったのは長瀬トメさん(70)=大石田町海谷。「そんなにしょっぱぐないし、辛みもちょうどいいがら」。来場した消費者に試食を勧めながら、コミュニケーションを取る。味に納得した上で買い求めてもらう。数ある漬物の中でも自信の商品の一つがぺそら漬け。この日も持ち込み、売り出した。

 自らの名前の一部を冠した商品「ながとぺそら漬」は人気商品。色が脱けてべっ甲色になったナスは柔らかいが、やや弾力を残し、口に含むと、しょっぱさとともに程よい辛さが広がり、その奥深くにほのかな酸味を漂わせる。

 この日、長瀬さんの傍らで、もち米を加工したくじらもちやイチゴ大福といった菓子類を中心に販売した芳賀美恵子さん(58)=大石田町豊田=も「木曜市」の常連。長瀬さんとともにスタート時からの顔ぶれだ。

 ほかにも大石田町内の主婦が町内の温泉施設「あったまりランド深堀」駐車場で例年4月から年末にかけて運営する産直「かあちゃん市場」や、山形市の県村山総合支庁を会場に5〜12月に月2回ペースで開催されている「てっぽう町青空市場」など、2人は各地で地域の味、生産物を消費者に届けてきた。漬物分野では、長瀬さんが師匠格で、ともに腕を磨きながら販売を続けてきた。

地域の味として脈々と受け継がれるぺそら漬け。煮物(左)などのバリエーションもある=大石田町豊田
地域の味として脈々と受け継がれるぺそら漬け。煮物(左)などのバリエーションもある=大石田町豊田
 「漬物の中でも、とりわけぺそら漬けは単純なようで難しい。同じように作っても、できたものは同じものにはならない。ナスの出来、気候、いろんなものが作用するから味は千差万別。漬けたこが(おけ)一つ一つ辛さ、味が違うから」と長瀬さん。それだけに販売に際しては、その時期に最高のものを−と配慮する。

 「木曜市」を前に訪ねた芳賀さん宅。長瀬さんもそろって迎えてくれた。こたつの上にはぺそら漬け。この地域ではお茶請けに欠かせないという。「ぺそら漬けを食べながら、茶飲み話をする。当然話は漬物の話になって、いつの間にか品評会になり、どうしたらおいしくなるのか、いつも情報交換している」と芳賀さん。地域の味の品質の維持、向上にはこうしたつながり、ネットワークが生きている。

 長瀬さんによると、ぺそら漬けの方法はこうだ。ナスは朝露のある涼しいうちに収穫して、へたが付いたまますぐに容器に入れる。ナスが浮かないように落としぶたをして、その上に容器のふたをして日当たりの良い場所に置き、色を抜く。翌日、ナス色の水を捨て、塩、唐辛子、水を入れる。完全に脱色するまで、この作業を3回程度繰り返す。その後、ざるにナスを取り出して水を切り、あらためて塩と水と唐辛子を入れて漬け込む。この際、落としぶた代わりにミョウガの葉を入れ、ピーマンやシシトウを入れて風味を出す。1日1回は様子を見ながらかき混ぜる。天候の具合にもよるが、1週間から10日程度で食べられるようになる。べっ甲色に仕上がったぺそら漬けは秋から冬、そして春と食卓に上る。

 芳賀さん宅で迎えてもらった際には「ぺそら漬け煮」もいただいた。漬けたナスを塩抜きして、しょうゆと砂糖と酒で煮たもの。好みによってごま油を加える。甘めの味付けで、これまたお茶請け、総菜として地域の欠かせない味になっている。

 ぺそら漬けを活用した料理のバリエーションは多い。「北村山の地域性豊かな加工品『ぺそら漬』PR資料」として県北村山農業技術普及課が2005年に作成した「おらほのうまいもの!ぺそら漬」では「あさりとぺそらのパスタ」をはじめ、「ぺそらピザ」「ぺそら漬天ぷら」など多彩なメニューが紹介されている。

 地域で脈々と受け継がれてきたぺそら漬け。「大量に同じ品質のものを継続的に生産するのにはあまり向いておらず、その家の味が大切にされ、その季節や天候によって味が微妙に変化するのがぺそら漬けの特性。その意味でも、生産者が折々、個々に対面販売していく産直は、この漬物に合った形態」と、農村生活研究グループの活動を支援している県北村山農業技術普及課の渋谷明美地域支援専門員は分析する。

 長瀬さん、芳賀さんともに、山形市のデパート大沼本店で今月10〜12日に開催される「手作りほっとフェア」に出店する予定だ。例年参加しており、ぺそら漬けはもちろん主力商品。「いつも待ってくれているお客さんがいる」と長瀬さん。芳賀さんは「かあちゃんの味、おふくろの味は力があるから」と準備に余念がない。
(「食と農を問う」取材班)

 【ぺそら漬け】大石田町横山が発祥の地と言われる。その由来として、舟運が盛んだった往時、唐辛子と塩を使って保存の利く船中食としたものが始まりとか、最上川がはんらんして水をかぶったナスをもったいないので漬けた、怠け者の嫁がすぐに漬けずに水に放り込み、色が抜けたナスを漬けたら独特の味のある漬物になった−など諸説ある。「ぺそら」の意味は、味も素っ気もないような見た目や、しなびたナスの食感を指しているとみられる。
(2010年02月07日 掲載)
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