納豆汁 手作りが生む、味とぬくもり
家庭の味、納豆汁を生徒たちと一緒に作る古田久子さん(中央)=山形市あこや町3丁目
[ 動画はコチラ]食卓を囲むのは、山形中央クッキングスクールの校長として、山形市あこや町3丁目の自宅で指導を続ける古田久子さん(84)と、その生徒たちの計7人。納豆汁の具は豆腐に油揚げ、こんにゃく、芋がらなど。まず、鍋にかつお節で取っただし汁を入れ、角切りした具をひと煮立ちさせる。そこに、刻んですった納豆を溶かし入れ、みそで味付け。火は沸騰する前に止める。おわんに盛り、薬味としてセリとネギのみじん切りを加え、お好みで赤トウガラシを振り掛け出来上がり。作り方は、みそ汁と同じでシンプル。郷土料理として長く受け継がれている要因として、味の良さに加え、手軽に作ることができる点は見逃せない。 古田さんは「最上地方では、山菜やキノコのほかゴボウ、ニンジンなどをふんだんに入れ、1度にたくさん作る家庭もある。冬場に不足しがちな栄養分がたっぷり詰まった山形らしい郷土料理」と目を細める。
冬季限定で納豆汁をメニューに入れる「香味庵まるはち」の新関芳則社長=山形市旅篭町2丁目
寒さの厳しい山形の冬、納豆汁は食べる人の体を芯から温めてくれるごちそう。日本海に面した庄内でいえば、寒ダラを使ったどんがら汁に相当しようか。すり鉢の中で何度もすりこ木を回し、納豆をすりつぶす作業が、味の決め手。台所に立つ母親から「子どもの仕事」として任せられた記憶を持つ大人世代も少なくないのではないか。 古田さんは、1952(昭和27)年に山形市内で料理教室を開き、現在に至るまで長く郷土料理の研究に携わる草分け。5年ほど前、テレビ局の企画で、県内全市町村ごと特色ある郷土の食材を掘り起こし、さまざまな料理を考案して紹介した。当時は知名度が低かった酒田市平田地域に伝わる「赤ネギ」や、山辺町の一生産者が手掛ける独特の粘りを持つ芋などを取り上げたことが特に印象に残っているという。 創作料理を提示することで、食材の新たな魅力を引き出し、その後の生産拡大に一役買えたのでは、と思えたことがうれしかった。番組を通じて「低農薬栽培などに一生懸命取り組む生産者の存在を知ると同時に、山形の持つ優れた農産物の豊富さにあらためて気付かされた」と実感を込める。 「食」は、その時代時代の社会を色濃く映し出す。戦中戦後の「大さじ1杯分の脂をどう取るか苦労したエネルギー不足の時代」を出発点に、高度経済成長の進展とともに主食であるコメが国内に十分行き渡る時代が到来。輸入小麦粉を使ったパンなどが多く食卓に上るようになり、生活が豊かさを増すと逆にコメが余り始め、生産調整が続く。バブル期には高級感漂うグルメブームが起き、その後は反動からかバランスの取れた健康食がもてはやされた。では、現代はどうか。古田さんは、「環境への関心が高い。無駄な物は出さないといったエコクッキングが大きな流れになっている」と見通す。 時代が移ろい、食の好みがさまざま変化しようとも大切にしなければならないものとして、古田さんは手作り料理の意義を強調する。生活様式が様変わりし、家庭の味が危機にあるのではないか、との思いが強い。「家族で食卓を囲むのはもちろんだが、何かしら一緒に料理する時間をつくってみてはどうか」と提案する。夫婦共働きで「時間がない」との声も聞こえそうだが、「忙しいと言いながら家族旅行はきちんと計画し実行している人は多い。年に数回、親子で台所に立つ機会があっていいはず」。 食の知識や健全な食生活をはぐくむ「食育」への取り組みが多方面で展開されている。食育の大切さを説く古田さんは「人間は食べ物の命をもらい受け、生きている。そうした実感を込めて口にすると『いただきます』という言葉は、本来の意味を取り戻すはず。目玉焼きを作るだけでも、焼き加減で変化していく卵の様子が分かるし、さまざまな調理器具を使いこなせるようになる。学ぶことは多い」と、その教育効果の高さを指摘する。 「食卓に並ぶすべての料理を手作りするのはなかなか難しいかもしれない。まずは一汁一菜でいいから食卓に取り入れてほしい。手料理には家族のきずなを強める効果があるの」。郷土の味、家庭の味として脈々と受け継がれている手作りのぬくもりが、納豆汁の温かさをより一層際立たせているのだろう。(「食と農を問う」取材班)
(2010年01月10日 掲載)
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