概念覆すマッシュルーム生産 脇役じゃない特大サイズも
有機資源を再利用した無農薬培地で栽培されるマッシュルーム=舟形町
[ 動画はコチラ]その名も「舟形マッシュルーム」。言うまでもなく舟形町にあり、生産しているのはマッシュルームと加工品。2001年、町内の認定農業者4人で設立した。現在は社員35人。生産量は全国シェアの7.8%を占めている。 長沢光芳社長(55)は1975(昭和50)年ごろ、缶詰会社に勤めながら庄内一円でマッシュルーム生産の技術指導をしていた。日持ちしないマッシュルームは、当初すべて水煮加工していたが、チルド商品の物流体制が全国に整備されるにつれ生食用が店頭に並び始めた。「ヨーロッパでは大量に消費されており、生のおいしさを知れば日本でもきっと売れるだろう」。退職し、本格生産に取り組むようになった。 マッシュルームはホワイトとブラウンの2種類。大きさはさまざまで、大人の顔と同じぐらいの「超スーパージャンボ」(直径15センチ以上)から「スーパージャンボ」(同9〜10センチ)、「クレミニジャンボ」(同7センチ)、普通サイズまである。ただし元は同じ。栽培期間によって大きさが変わってくる。商品はすべて受注生産。5割はレストランやホテルなどの業務用、3割は東北全域のスーパーや関東の百貨店に出荷、残りの2割は水煮やパウダーなどに加工する。
直径15センチ以上の「超スーパージャンボ」を手にする長沢光芳社長。さまざまなサイズを取りそろえ、加工品の開発にも取り組んでいる
最上町瀬見温泉の「ゆめみの宿 観松館」では、クレミニジャンボの香味焼きが評判を呼んでいる。5枚に切り分けたマッシュルームにエビのムースを詰めて蒸し、ガーリックバターで香ばしく焼き上げた一品。ボリューム感があり、見た目はハンバーグのようだ。 総料理長の押切朝家さん(57)はテレビの料理番組で長沢さんのジャンボマッシュルームを見て、「ぜひ使ってみたい」と申し入れた。1年がかりで食材との相性や風味付けの方法を研究し、メニューを考案した。「ソースで引き立てた方が素材の味が生きる。独特の歯応えがあり、どんな料理にも使えるところが魅力」と語る。 マッシュルームは馬の堆肥(たいひ)や麦わらなど、農作業の過程で発生した有機資源を再利用した無農薬培地で育てる。生産性を高め、より新鮮な商品を早く提供しようと、各種のサイズを同じハウス内で栽培している。マッシュルームはぶつかり合うと大きくならずに、傘を開いて胞子を落とそうとするため、間引いてジャンボにする。 18棟のハウスは、1年を通して温度17度、湿度80〜90%に保たれている。収穫はすべて手作業。地元雇用の女性たちが手際良く軸を取り、箱や袋に入れている。納品先の店舗ごとにパッケージは異なり、1日に800キロの仕分けを行う。 年間の生産量は約220トン。会社を設立した年の17トンに比べ、大幅に増加した。手探り状態からスタートし、長沢社長自ら需要開拓に奔走した。最初の2、3年は、1カ月のうち10日はスーパーで店頭販売した。商品を売るにはまず食べ方を知ってもらわなければならない。買い物客と対面しながらさまざまなレシピを開発し、提案した。 「消費者のニーズをキャッチし、可能な限り応えていく」。長沢社長はこの経営理念が最も重要だと強調する。消費者が求めている商品を的確に把握することが消費拡大につながり、結果的に生産量を増やすことになるという。 もう一つ、大事なのが安心安全。百貨店の伊勢丹や高級スーパー紀伊国屋にも出荷しているが、お互いの企業価値が高められる関係でないと取引を続けることは難しい。ハウスは殺虫剤や殺菌剤を必要としない構造になっており、今年8月には農産物の安全や環境への配慮に関する世界基準認証「JGAP」を取得した。使い終えた培地は、地元の農家が減農薬米栽培に有効活用している。 生産したマッシュルームも余すところなく商品化。給食用の水煮にした際に残るボイル液はソースやスープのベースにする。軸は「訳あり商品」としてインターネットで安く販売。シャキシャキとした食感がおいしいと好評だ。規格外のものは乾燥パウダーにし、大手ピザチェーン店が使用している。 カレーやハヤシといったレトルト商品も開発。スライスした乾燥マッシュルームは「うま味が増し、料理がワンランクアップする」と、個人注文などで人気を得ている。海藤弘子業務部長(54)は「神戸に住む若い母親から、電話で『ハヤシライスに入れたら子どもがよく食べてくれた』と言われてうれしかった」と話す。炊き込みご飯にもお薦めだという。 当面の目標は全国シェア10%にすること。そのために、培地を作ってから収穫を終えるまでの栽培周期64日を38日に短縮し、生産効率を高める。おいしさをもっと多くの人に知ってもらうため、新商品のマッシュルーム入りスープやハンバーグも近々発売する方針。 取材が終わるころ、長沢社長が「実は…」とジャンボマッシュルーム商品化の“秘話”を打ち明けてくれた。次男が小学生の時、「マッシュルームはどのぐらいまで大きくなるか」という自由研究をした。通常サイズをさらに8〜10日生育させたら「超スーパージャンボ」になった。その後、偶然にも東京の有名ホテルから「大きい商品が欲しい」と注文が入り、本格的な栽培に取り組み始めた。 「思い付いたアイデアは何でもやってみればいい」。一般の食卓にまで消費のすそ野を広げるために、新たな挑戦は続く。 (「食と農を問う」取材班) 【有限会社舟形マッシュルーム】2008年度の生産量は約220トン、販売額は1億9800万円。生産比率はホワイトが70%、ブラウンが30%。
(2009年12月13日 掲載)
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