食と農を問う

もの作り本気、ガールズ農場 「美容にいい」漢方米、付加価値でアピール

来年に備え肥料をまいた畑をトラクターで耕す高橋菜穂子さん(右)。中央が奈須野睦子さん、左は田中里子さん=村山市
来年に備え肥料をまいた畑をトラクターで耕す高橋菜穂子さん(右)。中央が奈須野睦子さん、左は田中里子さん=村山市
 5日昼、東京・赤坂のサカス広場。都心の新スポットに、村山市の高橋菜穂子さん(28)と奈須野睦子(よしこ)さん(27)がいた。広場はこの日と6日「マルシェ・ジャポン」の会場。日本各地の農産物を大都市で直売する場だ。2人は、自分たちで秋に収穫した「漢方米」を、訪れる人たちに熱心に売り込む。
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 「農薬を使わないで、漢方薬で育てているんです。きれいになれるお米ですよ」。一口サイズを試食した女性は「玄米なのにくさみがないし、ぱさぱさしない」。1袋300グラムで480円。決して安くはないが、買い求める客も多い。農林水産省が2009年度から手掛ける「マルシェ・ジャポン」は、行政刷新会議の事業仕分けで「廃止」と判定されたが、現場には活気がある。

 菜穂子さんは今年4月、地元村山市で「ガールズ農場」をスタートさせた。その名の通り若い女性による、女性たちのための農場。「同世代の女性に喜ばれるものを作りたい」という目的のほかに「農業できれいになる」と掲げているところが、いかにもガールズ。農家の三女として生まれた菜穂子さんの元に、宮城県石巻市出身の奈須野さん、東京都府中市出身の田中里子さん(26)が集い、一緒に働いている。

 ガールズ農場では、漢方米のほかミニトマト、ソウメンカボチャ、ナス、スイカなどを栽培。東京に3店舗あるレストラン「農家の台所」や、高級スーパーを中心に販売している。

 首都圏の若い消費者にアピールするため、さまざまな付加価値で工夫を凝らす。「安全、安心でおいしい」のは当たり前。漢方米なら、プラスアルファは「美容にもいい」。30種類以上の生薬を肥料に、コシヒカリを無農薬栽培。害虫よけにも、漢方成分を霧状にして散布している。ミニトマトの場合、売りは「かわいい」こと。黄色、赤、オレンジと色とりどり、ハート形、ロケット形など形もさまざまに組み合わせてパッケージ。200グラム入り1パックで430円という値段は普通のミニトマトの倍はするが、首都圏の女性の人気を集めた。

 ガールズ農場も「農家の台所」も、東京・国立市に本部のある有限会社「国立ファーム」グループの一員だ。率いる高橋がなりさんはアダルトビデオ業界で成功した後、「農業というもの作りを通して人づくりをしたい」と転身した。

 横浜国立大を卒業後、古里に戻り就農した菜穂子さんが、がなりさんの講演会を都内で聞いたのは2年前。「今の農業ではもうからない。生産者のこだわりを、付加価値として価格に反映できる新しい流通の流れをつくらなければ」という考えに共鳴した。

「マルシェ・ジャポン」会場で漢方米をアピールする高橋さん=東京・赤坂のサカス広場
「マルシェ・ジャポン」会場で漢方米をアピールする高橋さん=東京・赤坂のサカス広場
 教師やスクールカウンセラーに興味を抱いて教育心理学を学んでいた大学生当時、帰省のたびに実家のリンゴの木が減っているのを見て悲しくなった。「良さが分かってもらえない」と。一方、教育実習では子供たちと一緒に給食を食べ「命をつないでいくには食べることが重要。食べ物にかかわることができる農業は素晴らしい」と思った。

 卒業したら農業をしようと決意したのは、大学3年終わりの春休み。タイを旅した時、知り合った日本人女性から「日本の果物は本当においしい」と言われ、実家の仕事を誇らしく感じた。しかし、父克宏さん(59)は猛反対。「せっかく大学にまでやったのに」「農業はもうからない」。でも菜穂子さんは、やり方次第ではもうかると、本気で考えていた。

 就農後はインターネットを使ったり、大学時代の恩師や知人に声を掛けて、顧客が少しずつ拡大。かといって大幅な収入増には結び付かない。家族経営では生産量にも限りがある。がなりさんの話に接したのは、そんなジレンマを感じていたころだった。農閑期の冬には「農家の台所」の店頭に立ち販売。全国各地から仕入れたこだわり農産物の存在を知り、訪れる若い女性たちが求めているものを、肌で感じることができた。だからこそ、彼女たちの感性に訴えるガールズ農場の発想が生まれたとも言える。

 農場で働くガールズのうち、宮城県農業高で学んだ奈須野さんは造園の仕事を経て、農業を志した。しかしいざ探すと、やりたい農業のできる場所はなかなか見つからない。今年3月、東京で開かれた就農希望者のための「新・農業人フェア」では、女性というだけで断られたことも。帰ろうとして遭遇したのが、菜穂子さんのブース「ガールズファーム」だった。今年5月から村山でアパート暮らし。夏、自ら栽培、収穫した小玉スイカを車に積んで、古里石巻市に売りに行ったところ完売した。「おいしい」「来年も欲しい」。うれしい反応が返ってきたという。

 武蔵野美術大を卒業した田中さんは、働き口を探しているうち国立ファームの存在を知った。植物や農業に興味は持っていたとはいえ、農作業は全くの初心者。8月に移り住んだころは「初めてのことばかり。繰り返しやらないと覚えられなかった」と振り返る。作物の大きさや色を的確に判断し、採りごろを手早く収穫。その繰り返し。連日の肉体労働で疲労もたまる。そんな田中さんに、菜穂子さんは「二の腕が引き締まったよね」と声を掛ける。

 農作業は確かに肉体労働。米袋は30キロはあるし、リンゴを詰めたコンテナは1個20キロ。この季節は、外にいると体が芯まで冷え込む。最近、東京・渋谷を拠点にする若い女性たちが「ノギャル(農業+ギャル)」と称して、秋田県大潟村で稲作に挑戦するなど、農業ブームが到来したようにも見える。「これまで農業に見向きもしなかった人が見てくれるようになるのはいいけど、定着するのかどうか。本気でやるのとは別」。農業はそんなに簡単ではないことを、身をもって知る菜穂子さんは、そう思う。

 一方、ガールズ農場にはビジョンがある。来年には農作物栽培に加え、新たに人を募集しながらプリンやパイの加工にも取り組む。将来は飲食事業にも乗り出したいという。それらもすべて「ものを作る面白さを伝えていきたい」からだ。

 農場のルールは「食事を抜かない」「私服通勤」「化粧をする」。ガールズは、女性ならではの軽やかなフットワークで先を見据え、壁を乗り越えていくのだろう。

(「食と農を問う」取材班)

 【ガールズ農場】今年の耕作地は、村山市と河北町の1.3ヘクタール。菜穂子さんの知人の農地などを借り受けた。「生産から物流、販売までを一貫して行うチーム」の「国立ファーム」の中で、生産を担う。2009年度の販売目標は800万円。
(2009年12月06日 掲載)
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