食と農を問う

焼き畑に利点里山再生に道 関係密接な林業、畜産で好転も・新メニュー開発、注目

集落を見下ろす急こう配のスギ伐採地で田川カブを収穫する長谷川喜三さん、久子さん夫婦=鶴岡市三瀬
集落を見下ろす急こう配のスギ伐採地で田川カブを収穫する長谷川喜三さん、久子さん夫婦=鶴岡市三瀬
 転げ落ちそうな急斜面で、赤紫色に染まった実が掘り出されていく。鶴岡市の田川カブは林業と一体になった伝統を持つ在来作物で、スギ伐採地にのみ作付けされる。田川カブとはいえ、場所は山一つ越えた三瀬地区。ここに焼き畑の現状が見て取れる。
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 生産者の平均年齢は70歳超。しかし、夏から翌春にかけて斜面を上り下りしながら▽地ごしらえ▽山焼き▽収穫▽植林−とこなしていく姿はたくましい。収穫は9月下旬からだが、JA鶴岡赤かぶ専門部会長の長谷川喜三さん(73)は「霜が降りる時期こそ実が締まってうま味が増す」と言い、雪が降り積もるまで続く。

 「夏のさぶい(寒い)年はかぶらまけ」。鶴岡市宝谷地区にこんな言い伝えが残る。カブは収量が安定しており、飢饉(ききん)回避や冬季貯蔵のため、県内各地で独自の品種が栽培されてきた。山形大農学部准教授の江頭宏昌さん(45)=植物遺伝資源学=によれば、現存する在来カブは庄内、最上を中心に10数系統。本県で最も特徴的な在来作物に挙げる。

温海カブの葉と実を使ったロールケーキ作りに取り組む荻原秀明さん。変わった風味、彩り豊かな一品だ=鶴岡市山王町
温海カブの葉と実を使ったロールケーキ作りに取り組む荻原秀明さん。変わった風味、彩り豊かな一品だ=鶴岡市山王町
 注目すべきは温海カブを筆頭に田川カブ、藤沢カブ、宝谷カブといった鶴岡産に共通する焼き畑だ。昭和30年代までは全国で行われてきた農法で、日本海側や宮崎、高知などに残るが、規模、件数とも減少の一途。温海カブだけで100軒以上の農家がある本県は「焼き畑人口日本一」とされる。温海地域に通じる国道345号は、夏場に山焼きの火が立ち上る「焼き畑ロード」と呼ばれるようになった。

 田川カブは、数十年かけて育てたスギ伐採地で1回限りの焼き畑にこだわり、次に同じ林で焼き畑を行うのは数十年後。JA鶴岡は「田川100年かぶ」と売り出している。

 林業と密接な関係だけに、木材価格の低迷が産地に影を落としている。「山主が木を切らない」と長谷川さん。栽培地の確保が、高齢化以上に差し迫った問題だ。今年の収穫量見通しは50トン。涼しい夏で良質多収だったのに、去年の77トンから大きく落ち込んだ。

 地元を出て羽黒や櫛引、朝日地域にも伐採地を求める。今年最も広く作付けしたのは三瀬地区。集落を望む斜面を登り切った向こう側は日本海だ。「(中山間地と違って)雪が積もらず、いつまでも収穫できるのはいい」と長谷川さんは苦笑するが、地元のスギ林と赤カブの距離が離れては意味がない。伐採されたまま現場に野積みされた丸太を寂しそうに見つめる。

 赤カブ漬けは、みそと塩、柿の皮で漬けるのが定番だった。色合いを存分に引き出す甘酢漬けが定着したのは30年ほど前で、歴史は意外に浅い。一霞温海かぶ生産組合の加工場での漬け込み作業は今がピーク。近年は首都圏より関西、九州からの注文が多いという。

 ドレッシングにうどん、ジェラート…。新メニューの素材として注目されているものに、温海カブ葉のパウダーがある。葉や茎は堅くてそのままでは食用に向かず、膨大な量が廃棄されている。一方で、抗酸化ポリフェノールが含まれていることが明らかになり、山形大の研究グループが機能性食材にと開発した。なめると、ワサビに似た大人の味がする。

 同市山王町の洋菓子店「コモンリード」が試作を進めるのは「温海かぶろーる」。葉パウダーと実を生地に、クリームにも細かく刻んだ甘酢漬けを混ぜ込んだ。抹茶のような色合い、実のコリコリ感、甘さとかすかなしょっぱさが同居した風味が、地元と東京・江戸川で開いた試食会では好評だったという。

 課題はコスト面に加え、供給態勢の確立だ。洗浄、除湿、乾燥、粉砕といった手間に見合うだけの食材になりうるのか。店主の荻原秀明さん(64)は「消費者が飛び付く付加価値がもっと必要。画期的な有用成分が確認されれば、商品化に向けて踏み出せる」と考えている。

 焼き畑を評価する上では、環境の視点が欠かせない。江頭研究室は、火入れを行うとリン酸は3倍、窒素は10倍に増えるとともに、灰の豊富なカリウムも手伝って生育が良くなることを実証。環境破壊の悪玉扱いされてきたが、植林すれば、焼いた際に排出したのと同じ量の二酸化炭素(CO2)が、成長とともに再び木に吸収され、CO2は増えない。むしろ、肥料や農薬、燃料に使われる石油が必要なく、科学的な目で評価すべきだと訴える。

 同じ土地で樹木と農作物を組み合わせて育てる技術をアグロフォレストリーという。この資源有効利用型、環境保全型の農法に畜産も組み入れるのは、山形大農学部教授の小野寺弘道さん(64)=育林・流域保全=だ。

 焼き畑での収穫後、苗木植林した山林に牛を放牧する。手間のかかる下刈りは牛の役目で、小野寺さんは「牛の舌刈り」としゃれる。(1)伐採(2)火入れ(3)栽培(4)植林(5)牛放牧−というサイクルを経て森に戻す。

 日本の林業の課題はいかに下刈り作業を省力化するか。国産材が外材に価格面でかなわない理由は、下刈り費用の差という。農畜林を組み合わせれば、下刈りの手間がなくなり、林業サイドでは6〜7割の省力化、畜産サイドでも飼料代が浮く。

 農薬不要、コスト削減、省力化、持続可能…。焼き畑が生み出す利点は、里山の再生、中山間地の活性に通じている。
(「食と農を問う」取材班)

 【焼き畑】雑木や下草を焼くことで養分を含んだ灰が作り出され、病害虫と雑草を抑える。アフリカや東南アジアでは一般的な農法。日本でも「木場作」として昭和30年代まで続けられた。原始的な農法とされてきたが、火入れ後に植林すれば、同量の二酸化炭素(CO2)が回収でき、むしろ里山の再生につながる環境保全型の農法として見直されている。
(2009年11月29日 掲載)
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