食と農を問う

樹上で渋味抜く「柿しぐれ」 一手間を加えて高値で販売

 晩秋の農村風景をイメージしたとき、「真っ赤な夕日を背に古木の枝になる柿の実」を思い浮かべる人は少なくないのではないだろうか。光沢のある朱色、独特の甘味を持つ柿は、どこか郷愁を誘う。県内主産地の庄内地方では近年、木になった柿を袋掛けして栽培する光景も一部で見られるようになっている。
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透明なポリ袋で覆われた樹上脱渋柿を収穫する庄司隆さん=酒田市生石
透明なポリ袋で覆われた樹上脱渋柿を収穫する庄司隆さん=酒田市生石
 酒田市東部の田園地帯。この時季、せっせと落ち穂拾いに精を出す白鳥の群れが目に留まる。のどかな農村の一角にあるJA庄内みどり酒田流通園芸センターで9日、農家50人ほどが集まり、庄内柿の出荷目ぞろえ会が開かれた。

 この日の参加者たちが手に取るのが「柿しぐれ」。庄内柿の主力品種「平核無(ひらたねなし)」に一手間加えた新ブランドで、2005年に市場デビューした。その手間とは、9月下旬、木になったまだ青い渋柿に、固形アルコールを入れた透明なポリ袋を1つずつかぶせていくというもの。袋の中でアルコールが気化し、渋味を抜いていくことから「樹上脱渋(だつじゅう)柿」と呼ばれている。

 県庄内総合支庁酒田農業技術普及課の野仲学主任専門普及指導員(44)が収穫作業のポイントなどを紹介。続いてJA全農山形の庄内園芸課、熊谷忠彦さん(45)が出荷規格について説明した。熊谷さんは消費者、小売店の立場に立った丁寧な作業の徹底を促し「たっげぐ(高く)買ってもらわなねがらのー」と呼び掛けた。実の大きさで3段階に分類する重量区分や、「秀品」「優品」の選別基準、箱詰め方法などが示され、集まった生産者たちは現物を手に取り、出荷作業のイメージを膨らませていた。

 特徴ある渋抜き技術を行う「柿しぐれ」だが、従来の柿とは違ったセールスポイントがある。高い糖度と日持ちの良さに加え、果肉全体にごまのような黒い斑点が入り一目でそれと分かる。甘味のあるパリパリとした食感で「和ナシのような感覚」と例える人もいる。従来品に比べ果肉が締まっており、程よい歯応えが若い世代を中心に受け入れられ、市場評価も高いという。和歌山や奈良などの産地でも樹上脱渋柿の生産に取り組んでいる。

 熊谷さんは「『柿しぐれ』は、収穫後にガス脱渋やアルコール脱渋する通常の柿に比べて、長く木の養分を得られるため糖度が増す」とアピールする。年末に向けた贈答用として関東の市場を中心に出荷し「通常の柿の2倍程度の値段にはなるだろう」と語る。付加価値を出し高値販売を目指すと同時に、もう1つの狙いもある。「手間をかければもうかるということを生産者にきちんと分かってもらうことが大事」。農家の意識改革の重要性を強調する。JA全農山形では柿全体の09年産出荷計画数量を約3400トンに設定、そのうち「柿しぐれ」は約20トンを出荷する予定だ。

 庄内柿振興協議会長を務める庄司隆さん(61)=酒田市生石=は、自宅の裏山などで柿の木200本ほどを栽培している。コメと肉牛、柿を手掛ける農家の後継ぎとして庄内農業高卒業後に就農。コメの生産調整、牛肉の輸入自由化を目の当たりにした。水田の転作を進め、畜舎で肥育する牛の数も減らした。時代の流れが経営スタンスの変革を促し、隆さんは柿の栽培を拡大する選択をした。

 味の良い庄内柿は、先人の取り組みもあって柿が育たない北海道を中心に販路を拡大。昭和40年代後半、県産柿の収穫量は3万トンを超し、全国一の産地を誇った。その後、他産地での生産拡大、消費量の減少、栽培農家の高齢化などもあり栽培面積は減少傾向にある。近年の収穫量は1万トン前後にとどまっており、全国8位前後にいるのが現状だ。

 「1番売り上げがあったのは20年以上前。バブル期のころかな」と隆さんは懐かしむ。妻の由紀さん(60)は、傾斜のきつい山に植えた柿をもぎ取り、運び出す重労働に触れ「昔と今とでは作業に対する感じ方が違う。売り上げが良かった当時は、仕事にも張り合いがあった。今は正直言って割が合わない。(農業が)好きでなければ続けられない」。

樹上脱渋柿「柿しぐれ」の目ぞろえ会。現物を手に出荷基準を確認する生産者たち=酒田市・JA庄内みどり酒田流通園芸センター
樹上脱渋柿「柿しぐれ」の目ぞろえ会。現物を手に出荷基準を確認する生産者たち=酒田市・JA庄内みどり酒田流通園芸センター
 庄司さん方で栽培する柿の品種は、6割が早生(わせ)種の「刀根早生」で、残る4割が「平核無」。作業効率を考え、10月10日前後に刀根早生柿を、同15日以降に平核無柿を順に収穫していく。「柿しぐれ」は、平核無柿を樹上脱渋処理し商品化しているため、収穫期は最終盤になる。庄司さん方の出荷量は、栽培する平核無柿全体の5%程度に当たる約3000個という。

 収穫した柿の選別作業を進める隆さんは「昔ながらの柿が自分は好きだが、若い人は『柿しぐれ』の方を好むようだ」と笑顔を見せた。地域のリーダーとして、産地化に向けた栽培講習会や、目ぞろえ会などで中心的な役割を果たしている。「もうワンランク上の柿を育てようと思えば、園地に足を運ぶ機会も自然と増える。講習会に積極的に顔を出す人は、それだけ品質のいい柿を作るようになる。生産者の高齢化が進む中で、交流機会が生まれるのもいいこと」と語った。ブランド確立に向けた新たな取り組みが、地域コミュニティーの結び付きを強めていることを説明した。

 傍らで話を聞く記者にお茶を勧めてくれた由紀さんが口を開く。「80歳まで頑張っている人もいるけど…」。20年先に待っている現実に思いを巡らせる。「2人が元気でいられれば、おいしい柿が育つこの山を守っていくこともできるが、農業経営の現状を考えると子どもたちに会社勤めを辞めて後を継いでほしい、とは言えない」とやるせなさを隠すように笑顔を浮かべ、「父ちゃんと一緒に長く働きたいんだけど」と明るく笑った。(「食と農を問う」取材班)

 【庄内柿】1885(明治18)年、鶴岡市鳥居町に住む鈴木重光が越後(新潟)の行商人から購入した柿の苗木の中に、種のない果実をつけるものが1本交じっていたのが起源とされる。鈴木と親交のある庄内藩家老の子息、酒井調良(ちょうりょう)が、この柿に着目し庄内一円に広めた。

 渋柿のため当時の脱渋方法ではうまく渋が抜けず、酒井が1909(同42)年、東京帝国大の原熙(ひろし)博士に相談。原が平核無柿と命名し、アルコール脱渋方法を伝えたとされる。100年を経た今年、鶴岡市で感謝祭が行われた。
(2009年11月15日 掲載)
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