食と農を問う

ブランド強化へ 洋ナシ新品種、どう生かすか

 紅葉が鮮やかな舞鶴山を東に望む天童市西部の塚野目地区。稲刈りが終わり、のどかな雰囲気が漂う田園地帯の中で、その施設は活気に包まれていた。JAてんどうラ・フランスセンター。ラフランスの生産量全国一を誇る天童ならではの専用集出荷施設だ。
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ラフランスの専用集出荷施設「JAてんどうラ・フランスセンター」。膨大な数の実が迅速に1個ずつチェックされ、光センサーのあるラインに流される=天童市
ラフランスの専用集出荷施設「JAてんどうラ・フランスセンター」。膨大な数の実が迅速に1個ずつチェックされ、光センサーのあるラインに流される=天童市
 ラフランスを含む西洋ナシの栽培面積は缶詰用の加工需要の低迷により、1966(昭和41)年をピークに下り坂となったが、87年以降に生食向け需要が急激に増加した。高速交通網の整備による流通環境の向上によって、果物が新鮮な状態で味わえるようになったためだ。県内でも栽培が一気に進んだ。本来、ラフランスはバートレットという品種の受粉樹、いわば脇役として栽培されていたが、生食需要の高まりとともに香りと味、口当たりの良さが見直され、主役に躍り出た。

 天童市の生産者組織・JAてんどう果樹部会なし部の部長を務める滝口繁雄さん(49)=同市乱川=が、ラフランスの存在を知ったのは20歳の時。新庄市の県立農業大学校を卒業し、就農したばかりのことだった。東根市神町に住むいとこの農家から「この品種は今から伸びる」と勧められ、8本の和ナシに接ぎ木した。3年目に実がなり、出荷して驚いた。「和ナシの3倍の値が付いたんだ。うれしくて、残りすべての和ナシに接ぎ木した」

「花芽も順調に育っている」と、乱川地区の畑でメロウリッチの生育状況を確認する滝口繁雄さん
「花芽も順調に育っている」と、乱川地区の畑でメロウリッチの生育状況を確認する滝口繁雄さん
 「ラフランスは金になる」。評判が広がり、滝口さんを含む天童市の農家42人、栽培面積36ヘクタールの生産者組織が87年に発足。国や県、市の補助事業を積極的に取り入れてラフランスの苗木を購入し、老木となったブドウ、加工用のモモ、コメからの転作を進めた。この「新植運動」が日本一の産地づくりにつながり、2003年度には栽培面積が発足当初の5倍、出荷量は3000トンを突破。会員と園地の登録制を導入し、栽培技術の向上と均等化を図りながら、ブランド化を進めた。

 ラ・フランスセンターは市内全域のラフランスを一元的に集荷し、予冷貯蔵、追熟、出荷する施設として04年に造られた。内部の鉄骨はラフランスを思わせる黄緑色に塗られ、明るい印象。甘い香りがほのかに漂う中、冷蔵保管された実が1個ずつコンベヤーに載せられ、パート従業員らが品質を入念に確認していた。傷が付いたものは、ジュースに加工するラインに分けられる。外見から選別された後は、光センサーで糖度、硬度、重量などが判定され、1個ごとのデータをすべてセンターに保管。このトレーサビリティー(生産履歴)システムが、日本一の産地に安全・安心のお墨付きを与えている。

 ラインの一つに、「SP」という表示を見つけた。「スーパーラフ」という名称で限定販売している最高級ラフランスのためのラインだ。平均的な実は糖度13、Lサイズだが、スーパーラフは糖度14以上、2Lサイズ以上と甘く、大きい。ラインには時折しか実が流れてこない。出荷量は年間約250トン。平均的な実であれば1キロ当たり300円の市場価格が、スーパーラフの場合は700円まで跳ね上がる。けれども反応は上々で、販売量は安定している。高品質嗜好(しこう)の消費者に一定の需要があることが分かる。

 天童市の今年のラフランス収穫期間は、10月5〜14日。東根市に近い北部の乱川地区にある滝口さんの畑を訪れた11月2日の時点では、規格外の実がいくつか枝に残っているだけだった。「ラフランスほど気候に左右される果物はない。台風が来れば落ちる実が多いからね。逆に豊作だと、価格が下がってしまう」。台風の影響がなかった今年は、価格の心配をしなければならない。県内で出荷される西洋ナシの8割以上がラフランスで、時期が集中することも価格低下の一因だ。

洋ナシ市場拡大の効果が期待される県産新品種メロウリッチ(県生産技術課提供)
洋ナシ市場拡大の効果が期待される県産新品種メロウリッチ(県生産技術課提供)
 滝口さんの畑のほぼ中央に、ほかとは違って紅葉が目立つ木があった。洋ナシ市場拡大の鍵を握る県産新品種を接ぎ木したものだ。香り、甘み、味わいの豊かさを意味する「メロウリッチ」という名称で、「西洋ナシ最高の甘さ」を最大のセールスポイントにしている。収穫時期はラフランスより10日ほど早く、やや小ぶりだが、糖度が16〜17で、香りも強い。県農業総合研究センター園芸試験場(寒河江市)で育成され、昨年秋から苗木の販売が始まった。

 滝口さんの畑は、技術確立のために試験栽培が行われている県内6カ所の調査圃の一つ。紅葉が目立つのは、接ぎ木をしたことで一気に成長が進んだことが要因らしい。花芽も順調に育っており、来年には実がなる見込みだ。メロウリッチの実は、収穫時は黄緑色だが、追熟して食べごろになると黄色に変わる特徴がある。色が変わらず、食べごろが分かりにくいラフランスと違い、消費者にとってうれしい特徴だ。

 滝口さんは昨年、試験場で育てられたメロウリッチの試食会に参加した。ラフランスのとろけるような食感にこそ及ばなかったが、濃厚な甘さが強く印象に残った。「個人的には可能性に期待している。他県産との競争の中で、メロウリッチからラフランスへと続く出荷の流れをつくることも、重要な販売戦略ではないか」

 メロウリッチの出荷が本格化するのは早くても3年先のことであり、現時点では、JAてんどう果樹部会なし部が導入についての方向性を打ち出すまでには至っていない。有望な新品種をブランド力強化にどう生かすかが、今後の課題となりそうだ。(「食と農を問う」取材班)

 【メロウリッチ】 1984(昭和59)年にわせ種のミクルマス・ネリスを種子親(母)、ラフランスを花粉親(父)として交配し、育成させた西洋ナシの新品種。県は、ラフランスの一部切り替え品種として普及を進める方針で、2018年の栽培目標面積を50ヘクタールと設定している。
(2009年11月08日 掲載)
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