食と農を問う

食料自給率向上へ パン、餅に米粉の活用広がる

 今月6日の昼前、東京・霞が関の農林水産省会見室。県選出の舟山康江政務官が切り出した。
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 「皆さまおはようございます。ただ今から、農林水産大臣閣議後記者会見を開催したいと思います。それではまず、赤松大臣から報告等お願いします」

 赤松広隆農相は閣議報告に続き「米粉倶楽部(くらぶ)」の立ち上げに触れた。米粉を利用した食品の普及や開発を目指し、農家、食品メーカー、料理研究家などが協力するのが倶楽部の目的。農相は「(目標とする食料)自給率50%を達成するためには、現在年間約9500トンの米粉使用量をぜひ50万トンとか、さらに将来的には100万トンとかいうぐらいのところにですね、増加させていきたい」と述べた。

 同日午後、農水省で行われた倶楽部の発足式には農相と共に、マラソン愛好者でもあるモデルの長谷川理恵さんが出席。米粉の蒸しケーキを試食した長谷川さんは「もちもちした食感が好き。ヘルシーでおいしい」。

 近年米粉に熱い視線が注がれている。目的は、41%と先進国で最低水準の食料自給率(2008年度カロリーベース)を引き上げること。「輸入小麦の約1割に当たる年50万トン程度を米粉に代替すれば、食料自給率が1.5%上がる」(農相)。小麦の代わりに米粉を使うパンなどは、さしずめ自給率向上のための“優等生”ということになる。

焼き上がった米粉100%のパンをオーブンから取り出す志田清志さん=米沢市のベーカリー中村屋
焼き上がった米粉100%のパンをオーブンから取り出す志田清志さん=米沢市のベーカリー中村屋
 米沢市のベーカリー中村屋は、本県産はえぬきを用いた米粉100%のパン「ラブライス」を製造販売している。

 2002年の発売当初から携わる常務の志田清志さん(48)が、30分間焼き上げたラブライスを「だいぶいい色になったな」と、オーブンから取り出した。型から外して並べ「今日はいい出来だ」。2つに割ると、熱い湯気が立ち上る。きつね色の外側はかりっとした歯触りと香ばしさ。一方、中はふっくらしたぼた餅のような食感だ。

 米粉だけでパンを作るのは無理と思われていた。小麦粉なら、イースト菌を入れて発酵させると泡が生じてパンが膨らんでくる。でも同じことを米粉でしようとしても、泡はすぐつぶれてしまう。発泡した状態を保つ方法はあるのか。

 それを可能にしたのは、山形大工学部(米沢市)の研究力だった。同大の小山清人副学長(60)が、専門知識を生かして米粉100%のパンを成功に導いた01年当時を振り返る。「『コメでパンを作ってほしい』という要望が研究室に寄せられ、当時わたしの秘書だった東野真由美さんが実験を繰り返した」

 小麦とコメの発泡の違いを、小山さんはビールとコーラの泡に例える。ビールの泡はグラスに注いだ後いつまでも残るのに、コーラの泡は見る間に消える。同様に米粉をただ発酵させても、泡はすぐ破れて消えてしまう。小山さんの専門はレオロジー(流動と変形に関する学問)。発泡という現象は流動に含まれる。専門の立場からすれば、解決策はこうだ。「泡が破れないように、長い分子を加えればいい」。では、コメのどの部分に「長い分子」があるのか。東野さんが試行錯誤の末に着目したのが、コメの表面にある成分だった。「出来上がるまでは連日、何とも言えない試作品を食べさせられたけど」。小山さんは笑う。

 志田さんにとっても、米粉100%のパン作りは勝手が違っていた。「頭を普通のパンから外さないと、できない」。東野さんから製造の打診を受け、02年1月に研究開始。テスト販売した4月29日まで「作っては捨て、作っては捨てる」日が続き、「陶芸家になった気分だった」。

 現在は店頭販売だけでなく、国内各地の小麦アレルギーの顧客にも送っている。「中には普通のパンもカレーも、しょうゆも駄目な子供がいる。そんなアレルギーの子供でも食べられるものを作りたい」と志田さん。もともと農家の生まれ。コメが好きで「農家を何とか生かしたい」という思いも抱いていた。06年からは、米粉100%のロールケーキ「ん〜米ロール」も売り出している。

米粉を使った「米っ粉餅」を振る舞う「東平田さくらグループ」のメンバー=酒田市の直売所「ヨッテーネ」
米粉を使った「米っ粉餅」を振る舞う「東平田さくらグループ」のメンバー=酒田市の直売所「ヨッテーネ」
 酒田市には、米粉をはじめとした地元の農産物を、オリジナル食品に加工している組織がある。同市東部の農家の女性ら6人が集う「東平田さくらグループ」。かつての農協事務所を活用した作業場で、酒田女鶴パン、はえぬきせんべい、たかきび粉が材料のさかたきびクッキーなどを手作り。市中心部にある直売所「ヨッテーネ」などで販売している。

 19日午前、代表の荘司和子さん(70)とメンバーの佐藤セイさん(65)が、餅に米粉を混ぜ、こしあんを絡めた「米っ粉餅」を、買い物客に振る舞った。地元のお年寄りが子供時代に食べていたおやつを基にした試食品。この日はあいにく、時折大雨が降る悪天候で客足は鈍かったが、常連客らが午前10時の開店から訪れた。近くのラーメン店「三日月軒中町店」の遠田登喜子さん(75)は「粘りけがなくて、普通の餅より食べやすいのでは」、近所に住む女性(60)は「弾力があり、つるつるしておいしい」。

 酒田女鶴パンは、地元特産の餅米の粉に小麦粉を加えて焼いたパン。直売所に出す毎週月、木曜日にはすぐに売り切れてしまう人気商品だ。パンはさらに、市内の小学校3校の給食用に提供。市中心部から、児童が米粉パン作り体験に訪れる学校もある。

 「パンは、本当に最初は苦労した。石のように硬くなって『やめっがな』と思ったこともある」と荘司さん。でも「負げねで、また作らねば」と苦労した末の製品が、「うめけの」「ありがどの」と言われた時のやりがいは格別という。

 県内各地に“米粉の匠(たくみ)”がいる。取り組みの輪が今後広がれば、米粉の消費量はさらに増えるはずだ。一方、米粉100%のパンを手掛ける志田さんの言葉は、別の真実を突く。「コメはやはり、そのままで食べるのが一番うまい」

 そう。米粉加工食品でコメの魅力に触れた消費者が、あらためてご飯そのもののおいしさに目覚め、回帰する。その時、食料自給率アップの本当の道が開けてくるのだろう。(「食と農を問う」取材班)
(2009年10月25日 掲載)
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