伝統の味 新レシピで継承へ
大人の背丈ほどもあるカラトリイモを収穫する添津カラトリ部会のメンバー=庄内町
[ 動画はコチラ]カラトリイモは庄内地方で古くから水苗代で栽培されてきたサトイモの一種。「カラドリ」「ズイキ」とも呼ばれる。親イモ、子イモ、茎、葉、根に至るまで、すべて食べられ、捨てるところがない。茎はシャキシャキとした食感が特徴。茎を干したいもがらは冬場の保存食となり、雑煮や納豆汁に用いられる。 添津地区は旧立川町にあり、12人の女性で組織する添津カラトリ部会が、種イモ作りから出荷まで一貫して行っている。「粘土質で、地下水の水位が高い土壌が栽培に適している」と斎藤鉄子会長(74)。畑に足を入れると抜けなくなるほど粘りけのある土だからこそ、ねっとりとして、独特の上品な香りと甘さのあるイモが育つ。添津産は特にえぐみが少ない。 5月下旬に定植し、10月から収穫本番を迎える。除草剤を使わず、草むしりなどは手作業で行う。8、9月は茎をメーンに出荷、10月からはイモを箱詰めして販売する。気温がぐっと下がる11月から、最もイモがおいしくなる。
出荷前の打ち合わせ会では、カラトリイモをみそ汁にして出来栄えを確かめた
栽培に手応えを感じた住民たちは産地のPRに努めた。男性は県道沿いの畑に「日本一 本場添津からとり」と大書した旗を立て、女性は地域の祭りで懸命にアピール。部員の一人、乙坂まさ子さん(74)は「そろいの浴衣に『日本一のからとり』印の黄色い前掛けをして、町の花笠パレードに出るのが楽しみだった」と話す。出荷の際、食べ方を記した荷札を付けるために調理方法も研究した。 庄内地方での栽培の起源はいつごろか。本県の在来作物に詳しい江頭宏昌山形大農学部准教授によると、1735(享保20)年の「羽州庄内領産物帳」に「紫芋 たうのいも からとり 茎葉共根をも」との記述がある。270年以上前には既に、庄内の産物といえるほど多く作られ、余すところなく食べられていたことが分かる。分布域は最上川のやや南側を境界にし、飽海地域の青茎系、田川地域の赤茎系に区分される。 長い歴史を持つ伝統野菜だが、若い世代があまり食べなくなっていることもあり、庄内地方の産地は生産者の減少、消費の低迷という課題を抱えている。添津カラトリ部会も発足当時の25人から部員は半減した。だが、添津にはほかにはない強みがある。 栽培当初から、酒田市内のスーパーと契約。約25年間、こだわりの農産物として安定出荷を続けている。「添津のカラトリ」といえば、地元では有名なブランド。「このイモでないと駄目だ」という根強いファンが多く、キュウリやトマトなどの一般的な野菜が総じて値下がりする中、価格は横ばいを維持している。 スーパーの青果担当・斎藤敏則さん(48)は「添津の生産者は自分たちの商品に絶対の自信を持っている。安全で本当にいいイモでないと出荷しないため、消費者からの信頼も高い」と語る。昨年から、不況の影響で消費者の買い控え傾向が顕著となり、大手スーパーとの価格競争が激化している。差別化を図ろうと、地産地消に力を入れている店側にとって、カラトリイモは主力商品。今月中に添津の女性たちの写真をチラシに掲載し、生産者の“顔”を前面にアピールするつもりだ。 10日は部会メンバーが店頭で試食販売を行う。毎年10月の恒例行事で、集客力は抜群。手作りのみそ汁を振る舞うと、若い母親や子どもが「うめちゃのー」と言って、商品を買っていくという。 確かに、生産者の高齢化は深刻な問題だ。後継者を早く見つけ、育成しなければならないという不安もある中、女性ならではの発想と持ち前の行動力で、次世代へ庄内の伝統の味を受け継ぎ、この難局を乗り越えようとしている。 部員たちはメニューの開発に積極的だ。親イモは通常、みそ汁やおでんの具にするが、子どもが喜ぶ料理のレシピを作る必要があると考えている。小池千代子さん(67)は「大人になってからも故郷の味を忘れないでほしい」と、薄く切ったイモを油で揚げてチップスを作ったり、お菓子やグラタンなどの洋食にアレンジしようとしている。 庄内には食を支える分厚い布陣がそろう。地元の食材を使った弁当を注文販売している酒田市広野の女性グループ「えぷろんまま」は以前、県庄内総合支庁の呼び掛けで創作カラトリづくし膳(ぜん)を手掛けた。今の時期は、茎と菊のごまあえや煮物が弁当のおかずの定番となる。熊谷花井会長(68)は「親イモのコロッケは若い人に受けそう。葉の芯はつくだ煮にするとご飯に合う」。新しい料理のアイデアが次々に浮かんでくる。 9月28日、添津地区の公民館で市場や県の担当者を交えた出荷前の打ち合わせ会が開かれた。今年は当初、生育の遅れが心配されたが、盆ごろから気温が下がり、イモの出来栄えは良好。部員たちが豚肉や厚揚げなどを入れたみそ汁を作り、味を確かめた。 イモの出荷は毎朝午前5時半。斎藤会長は自ら軽トラックを運転し、近くの山にある5アールの畑へと収穫に向かう。あと5年もすれば80歳。体力的な不安や後継者がいない焦りもある。だが今は「待っている人に最高の商品を届けたい」という思いで、がたがたの山道を走り続ける。「こんなにおいしいイモを絶やすわけにはいかないからの」。青々と生い茂ったカラトリイモの畑に、斎藤会長の言葉が響いた。 (「食と農を問う」取材班) 【カラトリイモ】主な産地は庄内地方。名前の由来は葉柄も収穫して食べられる意の「柄(から)取り」にちなむ。江頭宏昌准教授の研究室でDNA解析した結果、唐芋(とうのいも)群の一種で、京野菜のエビイモとごく近い系統であることが分かった。
(2009年10月04日 掲載)
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