県民食の主役 芋煮シーズンに遅れる県産
河川敷のあちこちから白煙が立ち上っている。秋の訪れを告げる“のろし”の下には友人や家族らで囲む芋煮鍋がある。「何回やった?」。この時期に交わされるあいさつが、芋煮会の回数を指しているといわれるのは誇張としても、芋煮は県民食として定着している。一方で、主役のサトイモにはどれほどのこだわりを持っているのだろう。
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10月すぎに収穫される悪戸いもの手入れをする向田孝一さん=山形市村木沢
山形の芋煮会シーズンは、毎年9月の第1日曜日に山形市の馬見ケ崎河川敷で開催される「日本一の芋煮会フェスティバル」から本格化する。一方で、県内のサトイモが本格的な収穫期を迎えるのは9月中旬から。フェスティバルで使用するサトイモは、8月末には収穫できるよう堆肥(たいひ)を多く使って特別に生育を早めているが、通常の県産品が出回るまでには空白期間がある。 サトイモ畑をのぞくと、50センチを超える大きなハート形の葉が太い茎に支えられ一斉に空を仰いでいる。いかにも太陽好きな容姿は、もともと亜熱帯性の植物であることをうかがわせる。サトイモは夏場の積算温度が生育に大きく影響する。植栽時期を早めても収穫時期が連動するわけではない。温暖な地域に比べれば本県で栽培するハンディは大きい。 「9月中は宮崎や千葉産などが多い」。こう語るのは、サトイモ専門業者として90年近い歴史を持つさとう農園(山形市)の佐藤賢治社長(69)。皮をむき、水で洗って芋煮用のサトイモを出荷している。山形ならではの業種だ。工場はこの時期、早朝から深夜まで休むことがない。「食の安全への関心から県産品を求める声は多く、食味も優れているが、やはり量的には十分ではない」という。 一方で、サトイモの特産品化を目指す動きも出ている。
手軽に芋煮会を楽しめるように、皮をむいて水洗いしたサトイモが並ぶ=山形市・さとう農園
「うまいから食べてみろ」。こう言われ、向田さんは悪戸地区の農家から両手に乗る程度の種芋をもらった。悪戸出身だった祖母の話や、県の農業試験場で試食した経験から独特のおいしさは知っていた。「食べてなくなるのはもったいない」。食欲よりも農家としての血が勝った。わずかな種芋をすべて植え付け、増産を目指した。 サトイモをはしで切ってみる。サクッと切れるものはほくほくした食感。ねちゃっとつぶれながら切れるものの食感は、ふわっとして粘りがある。後者は細長い土垂(どだれ)系サトイモの特徴で、同系の悪戸いもは山芋にも近いような粘りが際立っている。 向田さんがもらい受けたわずかな悪戸いもは現在、30アールまで増えた。在来種の伝統野菜としての評価も受けている。一方で、産直市場などで販売されているが、われわれの口に入る機会は少ない。その背景には、生産量の問題だけではなく、収穫期が10月中旬からと遅く、芋煮会の最盛期に間に合わないことが課題としてある。 今年の日本一の芋煮会フェスティバルで、配る予定の芋煮約3000食分が足りなくなるというハプニングがあった。主催者側は理由の一つとして「例年に比べ芋が大きく、一杯当たりの個数を減らすべきだった」と釈明。このサトイモの生産メンバーでもある向田さんに真相を聞くと、「ここ2年ほど、地区の芋は確実に大きくなった」と、少し自慢げな答えが返ってきた。 向田さんのサトイモ畑に足を踏み入れるとねっとりとした土に驚く。一般的にサトイモ栽培には水はけの良い砂壌土が向いているとされる。「連作障害のためか、以前の須川沿いの畑は収量が減った。移転先の畑は粘土質だったが、サトイモの成長はかえって良くなったと思う」と向田さん。さらに2年前、山形市浄化センターの汚泥を使った肥料「山形コンポスト」を施肥してから、見違えるように大きくなったという。フェスティバル用の芋も同様だった。「科学的な根拠はないが、(3年連続で)来年も大きく育てば、実績として広められる」。サトイモは土の中で熟成させることでうま味が増す。こうした従来とは違った方法で生育を早めることができれば、出荷時期の問題も解消するかもしれないと、向田さんは期待する。 今年の悪戸いもはまだ地中にあって様子は見えない。「多くの人にこの味を知ってほしいなあ」。向田さんはそう言って太い茎をなでた。 (「食と農を問う」取材班) 【サトイモ】南アジアが原産とされ、寒さに弱い。山形では特に芋煮会で消費が伸びるが、正月も需要が高い。宮崎県産など出荷時期の早い早生種は小ぶりで丸い。芋煮用で人気があり、本県でも栽培量が多いのは卵形の土垂。 稲作からの転作でサトイモを栽培するケースもあるが、野菜に比べ収益が低く、普及には課題が残る。
(2009年09月27日 掲載)
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