食と農を問う

朝日町リンゴ 輸出拡大 高級路線に特化、戦略ピタリ

選果場で光センサーを搭載した選果機など視察する台湾の商社の買い付け担当者たち
選果場で光センサーを搭載した選果機など視察する台湾の商社の買い付け担当者たち
 ビジネス上のやりとりを交え、打ち解けた雰囲気で会話は弾んだ。8月25日午前の朝日町役場町長室。鈴木浩幸町長が迎えたのは、台湾で果実類を取り扱う現地商社・商田実業の林璋●社長ら。町産リンゴ台湾輸出の受け入れ窓口になっているビジネスパートナーだ。台北市の百貨店など5カ所で旧正月を前にしたことし1月、鈴木町長や生産者らが売り場に入って、町産リンゴを売り込むフェアを開いて以来、7カ月ぶりの再会。ソファに腰を下ろすなり、林社長は落ち着いた口調で新たな戦略を提起した。
●は火ヘンに韋
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 台湾に輸出した町産リンゴは商田実業を通じ、富裕層をターゲットとして台北市の百貨店の太平洋SOGO、高級スーパーの微風広場などで売られ、実績を重ねて「朝日町ブランド」を確立してきた。今回、林社長が提案したのは台湾南部の高雄市への進出。世界展開する米国系大型スーパー「Costco(コストコ)」で売り出すプランだ。コストコはもともと米国産品に絞ったディスカウント商品をメーンに販売しているが、新たに日本産果実なども高級食材として扱い始めている。県産のモモやブドウ、メロンが高雄市向けに新規に輸出され、コストコで今月25〜27日、県産果物をアピールするフェアが開催される予定だ。朝日町産リンゴがこれに続き、旧正月前の需要期に合わせて、みつ入りふじを本格デビューさせる計画だ。林社長の提案に、町側は合意した。

 林社長ら一行は町役場訪問の後、朝日町和合の選果場を視察した。リンゴの品質を瞬時に見分ける光センサーを搭載した新鋭の選果機や、冷蔵施設を見学。病害虫を取り除くため、へたに付いたちりを高圧の空気を吹き付けて取り除く機材を選果機のラインに備え付けるなど、出荷の万全な態勢に納得した林社長は「台湾で、朝日町のリンゴは年々ブランド化している。今後もさらに存在感を高めていくだろう」と自信の表情を見せた。日本国内でも定着している町特産の「天狗(てんぐ)」マークは台湾への輸出でも活用しており、「ふじの季節になると、天狗マーク(のリンゴ)はまだか−と問い合わせが数多くある」として「台湾の消費者から高い評価を得、支持されている」状況を説明した。

 今回、町側と商田実業はもう1つ、8個入りギフトボックスのリニューアルにも合意した。台湾の百貨店や高級スーパーで高品質のみつ入りふじは、贈答用には縁起のいい数字にちなんだ8個入りパックで、個人消費向けには2個入りパックで売り出される。ことしのフェアの時点で、販売価格は2個入りが約800円、8個入りは約3500円。旧正月を前にした需要期は贈答用の8個入りの売り上げの伸びが期待できる。今回、ギフトボックスは黒を基調にしてより高級感を高めたデザインに一新する。台湾のデパートなどが大規模なセール「周年慶」を展開する11月も、旧正月前と並ぶ需要期。シナノスイート、王林などのリンゴを輸出して新たなギフトボックスで売り出す予定だ。

わせ種のリンゴの収穫作業に追われる井沢さん夫妻=朝日町
わせ種のリンゴの収穫作業に追われる井沢さん夫妻=朝日町
 無袋ふじ発祥の地で「リンゴの里」として知られる朝日町。町が特産リンゴの台湾輸出に取り組み始めたのは2004年度からだ。当時、日本産リンゴといえば、「青森産」が台湾市場を占有していた。青森産よりも出荷期が早いという理由で現地から輸出の打診があり、青森県内の商社を通して約10トンのリンゴを試験的に送り込んだ。しかし、日本国内の他産地の輸出が既に始まっており、朝日町産に比べて品質が高いとはいえないような商品が出回って価格形成が進み、思うような価格設定ができない。「輸出元年」は厳しい結果に終わった。

 2年目からはチャンネルを切り替え、県経済国際化推進協議会の協力を得て、県農産物輸出コーディネーターのアドバイスに沿って動いた。台湾のバイヤーを朝日町に招致し、特産のリンゴを実際に確認してもらった。「生産現場や商品を見てもらえれば、必ず違いを分かってもらえるはずだ」。町担当者や生産者の思いと戦略が奏功し、みつがたっぷり入ったリンゴの品質の高さ、安全性を納得させることに成功。高級路線で売り出すことになった。3年目は、天狗マークを商品に付けて、フェアなどのイベントを通じてブランドをアピール。知名度向上に結び付けた。

 輸出実績は05年度5.5トン、06年度12トンと推移。07年度には、台湾10トンのほか、新たな輸出先が加わってタイと香港に5トンずつ出荷、計20トンに上った。08年度は台湾9トン、タイ10トン、香港18トンの計37トンと伸びた。

 輸出量、輸出先ともに増えているが、朝日町のリンゴ輸出で一貫して変わらないのは高級路線に特化した戦略だ。町のリンゴ輸出を側面から支えてきた漆原意県農産物輸出コーディネーターは「現地では、みつ入りのふじが一つのステータスになっている。富裕層という限られたターゲットだけに、高い品質の商品力があるものを、適切な時期に、適切な価格で供給しなければならない。そうしないと、ブランドとして保つことはできず、見切られてしまう」と強調する。

 輸出のリンゴは、町内7つの出荷組合の長で組織する果樹組合連絡会議で各組合に数量が割り当てられる。選果機を通し、みつ入りの高品質で、大玉のリンゴを選び抜いて輸出向けに回す。

 連絡会議のトップを長らく務めた経験があり、台湾でフェアにも立ち会ってきた町りんごアドバイザーの井沢寿一さん(61)=朝日町三中=は同町夏草地区の園地でわせ種の「さんさ」「つがる」の収穫作業に追われながら「リンゴの輸出は農家の活力剤であり、将来に向けた元気のもと」と目を細めた。町役場での鈴木町長と林社長らとの会合にも同席し、輸出の取り組みにかかわってきた井沢さんが最も大切にしなければならないものとして強調したのは「信頼関係」。朝日町のリンゴ輸出に携わる関係者がいずれも口にする言葉だ。(「食と農を問う」取材班)

 【県産農産物の輸出状況】 県新農業推進課によると、県産農産物の輸出状況(推定数量)は、2008年度が652トンで、07年度(310トン)の2倍以上に増えた。主な品目では、リンゴが480トンで全体の74%を占めた。次いで米が143トン(22%)。そのほかの輸出品目としては桃や豚肉、メロン、ラフランス、サクランボなどがある。輸出先は台湾が全体の約7割、香港が2割強となっている。
(2009年09月06日 掲載)
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