食と農を問う

東根「黄金桃」 高級品種に工夫、独自色出す

 河北町との境界に近い東根市西部、島大堀地区の桃畑。ほんのりと赤く色づいた実がたわわになっている一角に、灰色の紙袋を実にかぶせた木が並んでいた。紙を外すと、顔を出したのは山吹色をした桃。「黄金桃(おうごんとう)」という高級品種だ。人気品種「川中島白桃」より2割ほど高値で取引される。同地区周辺は、県内でもいち早く黄金桃の集団栽培が行われた。園主の高橋義信さん(69)は「袋で覆われているので、生育状況を見極めるのが大変」と苦笑交じりに語った。
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収穫した黄金桃を手に取る高橋クニ子さん。山吹色をした果皮がインパクトを与える=東根市島大堀
収穫した黄金桃を手に取る高橋クニ子さん。山吹色をした果皮がインパクトを与える=東根市島大堀
 農家の朝は早い。収穫作業が始まったのは、夜が明けたばかりの午前5時。高橋さんは「朝は実が締まっているし、日が昇って温度が高くなると、桃の表面の毛が飛んで、手がかゆくなる」と朝取りの理由を話す。高橋さん方では、取材に訪れた21日が今シーズンの初収穫日。生育が進んでいる木の上部からまず実をもぎ取り、下方に向かって収穫する。「いつもより玉が張っているなあ」。7月に雨が多かったため、今年は生育が例年より3〜5日進んでいる。

 高橋さん方では、1995年に水田の一部を桃畑に変え、約60アールの広さに7種、約200本を植えた。黄金桃は約20本。同じJAさくらんぼひがしね小田島支所管内の生産者6人と「黄金桃の会」をつくり、栽培に取り組んでいる。同支所管内の桃生産者約70人のうち、黄金桃はわずか1割にすぎない。高橋さんは「日光が当たらないように袋をかける有袋栽培は手間がかかるから、作ろうという人はなかなかいない」と指摘する。高橋さん方では、7月下旬に8000個の実を袋で覆う。夫婦2人で4日がかりの作業だ。

 周りの木を見ると、実が大きくなって袋が裂け、日光を浴びた部分だけ赤くなっているものも目立つ。盆すぎから好天が続き、糖度も上がってきた。高橋さんに勧められ、もぎ取ったばかりの黄金桃にかぶりついた。食卓に載るまでの時間差に配慮し、食べごろとなる3〜5日前に収穫するので、果肉にやや硬さが残り、甘さもまだ十分ではなかったが、果汁たっぷりで、ほどよい酸味がある。高橋さんの妻クニ子さん(65)は「気品を感じさせる味でしょう。そのためか、『女医さんが好む桃』と言われているんです」とほほ笑んだ。

 同会はJAを通し、収穫した黄金桃を静岡県清水町の卸売会社「沼津第一青果」に出荷している。本格出荷が始まったのは2000年。当時の年間出荷量は約5130キロだったが、08年は約1万484キロと2倍以上に増えている。

実を紙で覆った有袋栽培の黄金桃を収穫する高橋義信さん。実が締まっている午前5時から作業を始める
実を紙で覆った有袋栽培の黄金桃を収穫する高橋義信さん。実が締まっている午前5時から作業を始める
 同社は、以前から東根市産の青果を扱っており、仲西国広取締役果実部長は「山梨県産の黄金桃も扱っているが、こちらは無袋栽培で実が赤みがかっている。桃の特産地・福島県からの黄金桃は主に東京の市場に出荷されているので、競合することはない」と、東根市産黄金桃の市場価値を説明する。JAからの要望もあり、20玉5キロで2000円を割らない販売を心掛けているという。

 高橋さんは「コメは1反(約9.9アール)で12万円ほどの収入だが、桃は100万円」と魅力を語る。付加価値を高めているのが、低農薬の有機栽培だ。高橋さんの畑は甘い香りが漂い、土の上を歩くとフワフワとした軟らかい感触がある。15年ほど前からEM(有用微生物群)で発酵させた堆肥(たいひ)を使っていることが理由という。多くの微生物がすみ、スポンジのように柔軟で肥えた土壌ができた。

 この地域は、もともと水はけが良くない。稲作に合っているが、果樹栽培には適していないという。それでも、収入を得るためには転作しなければならない。そのジレンマの中で、JAから勧められたのが桃の栽培だった。「桃栗(くり)3年柿8年」というように、桃は苗を植えてから比較的早い時期に出荷でき、収入に結び付くことが理由。ちなみに、苗から育てて収穫できるようになるまでサクランボは10年、リンゴとナシは6、7年ほどかかるという。

 EMによる土作りも、栽培環境のハンディを埋める取り組み。堆肥の原料には、摘果した桃、ナシなどを使っているので経費の節約にもつながっている。5年ほど前からは、インターネットで通信販売も行っており、特に九州、四国からの注文が目立つという。

 希少な黄金桃の有袋栽培、EMによる土作り、インターネット販売。独自色を打ち出している高橋さんだが、背景には消費者ニーズに合った経営努力をしなければ、生き残れないとの思いがある。かつて本県が北限とされていた桃の産地は近年北上し、秋田県内で盛んに栽培されているほか、福島県産と出荷時期が重なり、産地間競争は激化の様相を帯びている。

 2時間ほどで朝の収穫が終わり、高橋さんの自宅に戻った。食事を済ませてから、今度は箱詰め作業に入る。食卓では衆院選も話題になった。農政に対する注文を聞くと、「産地づくりを考えた計画的な振興策が必要だ。水田の畑地化は個人では大変な取り組み。国には支援体制をしっかり整えてほしい」という答え。「土地と水と太陽があればできるのが農業。だれに束縛されるものではないが、時代に即応したこだわりは持っていないと」

 休憩を終え、箱詰めを行う小屋に足早に向かった。

 【黄金桃】 中生種と晩生(おくて)種の間にある大きめの品種で、「川中島白桃」より収穫時期がやや早い。果皮だけでなく、果肉も黄色。東根市のほか、天童市、寒河江市などで栽培されているが、主に関東地方などの大消費地に出荷されており、県内での流通量は少ない。果汁の多さ、甘さと酸味のバランスが取れた優れた食味が特色といえる。
(2009年08月30日 掲載)
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