食と農を問う

知的産業として 育種や食味測定、研究は多様

アベチャ豆の育ち具合を確認する阿部利徳教授(左)と佐藤恵一さん=鶴岡市安丹
アベチャ豆の育ち具合を確認する阿部利徳教授(左)と佐藤恵一さん=鶴岡市安丹
 だだちゃ豆の列が100メートル先まで続いている。食味が最も良いとされる「白山」の隣2列は、新たに加わった品種だ。収穫は先で白山との違いはまだ見られない。生みの親は山形大農学部の阿部利徳教授(61)=植物遺伝・育種学=で、その名も「アベチャ豆(系統名アベチャ33)」。
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 だだちゃ豆の課題は小粒な点だ。「おいしさはそのままで大粒」が理想。阿部教授は白山に大粒の形質を導入するため、交雑や選抜を繰り返す系統育種の一方で、ガンマ線照射による突然変異育種を進めた。その結果、生まれたのがアベチャ豆。甘みを決めるスクロース(糖)、うま味成分の遊離アミノ酸の含有量は白山とほぼ同じで、粒は2割ほど重い。去年、品種登録を申請した。

 本県には約140品目に上る在来作物がある。うち60品目以上を庄内産が占める。在来作物は先人が確立し継承してきた栽培法、種苗の保存に加え、地域の文化や習慣とセットになっており、富塚陽一市長いわく「庄内、鶴岡の農業は知的産業」。中でも生産量、多様性において頂点に立つのがだだちゃ豆だ。

 アベチャ豆は酒田、鶴岡市内の3カ所で試験栽培されている。鶴岡で畑を提供したのは「安丹だだちゃ農場」代表の佐藤恵一さん(60)。米からだだちゃ豆に軸足を移した生産者で、常に新種を含む10種類ほどを生産する。「前の年と同じ品種の繰り返しでは右肩下がりになっちゃう」。原種を守り続ける一方で、こうした系統の改良・革新の気概を持つ生産者の存在が、枝豆王国の強みだ。

 だだちゃ豆の収穫は従来、最も早くても7月20日前後からだった。極早生(わせ)種を品種改良し、さらに1週間早く収穫できる「超極早生種」の開発に成功したのは赤沢経也客員教授(65)=育種学。旧鶴岡市内のお盆の7月13日に食べられることから「つるおかぼんちゃ」と命名した。さらに収穫シーズンを長くしようと、9月中旬以降に収穫する「超極晩生(おくて)種」研究にも取り掛かるつもりという。

 夏賀元康教授(59)=生産機械システム工学=は見えない光で、だだちゃ豆のおいしさを測る技術確立に取り組む。

 「近赤外光」という波長の短い赤外線を使った分析計が、食味を測るアイテムだ。もとは米国で小麦のタンパク質量を計測するために開発され、日本では米の食味計として広まったが、これをだだちゃ豆に応用。さやから出した豆を粉砕した粉をサンプルにしていたが、より簡便な豆粒で計測を行うようになった。

 測定器に豆粒をセットし、850〜1048ナノメートルの近赤外光を当てて、光の透過具合を示すスペクトルから成分を分析。スクロースと遊離アミノ酸の含有量を推定する。化学的アプローチを加えた膨大な実験データから推定式を導き出し、実用レベルの測定技術を確立した。

 栽培面積が広がる中、品質をいかに維持するかが産地としての命題だ。「出荷する前の段階で、品質の低い豆を除きブランドを守りたい」。ならば、さやに入ったまま成分分析できる装置が必要。特注で世界に1台しかない新装置が研究室に導入された。圃場に装置を持ち込み、簡単に収穫前の豆を測定できるようなレベルになれば、収穫の適期判断も可能。実用化に向けた研究が進められている。

だだちゃ豆の葉茎をロール状にする機械に投入していく研究室スタッフ=鶴岡市・山形大農学部高坂農場
だだちゃ豆の葉茎をロール状にする機械に投入していく研究室スタッフ=鶴岡市・山形大農学部高坂農場
 そして、残りかすは家畜飼料に。枝豆は極めて残りかすの多い作物だ。だだちゃ豆の年間出荷量はさや付きで1000トンに上り、ほぼ同じ量の葉と茎が捨てられているのが現状。堆肥(たいひ)に利用する農家もいるが「葉茎の繊維は反すう動物の餌にはもってこい。堆肥は牛のふん尿になってからでもいい」と、堀口健一准教授(43)=家畜管理学=は目を付けた。

 生のままでは腐ってしまうので、空気を遮断して漬物状に発酵させることに。収穫後、さやを外した葉と茎をロール状にしてから、乳酸菌を添加しラッピング。およそ1カ月で出来上がりだ。

 飼料としての質はどうか。実験室レベルでは、長期保存の利く高品質に仕上がったが、現場レベルでは気密性を保つのが難しい上、発酵を高めるため糖の添加が必要になる。そんな折、地元の菓子メーカー工場から排出される規格外品の再利用の話が舞い込んだ。「菓子くずの糖分を発酵飼料用に使えないか」。農家と工場双方から出る残り物を組み合わせた飼料作りは画期的。地域における異業種連携としても、インパクトのある取り組みに発展しそうだ。

 日照量が少ないと、だだちゃ豆の命である糖が乗りにくい。今夏のような天候不順の年でも、食味低下を防ぐ栽培法について、阿部教授は県庄内総合支庁と共同研究に着手した。国の予算が付いた「地域在来作物の高度化利用研究」の一環。この研究では、血圧降下作用などだだちゃ豆の持つ機能性物質の探索も進められることになっている。

 育種から食味判定、機能性分析、残りかす利用…。だだちゃ豆の生産量の伸びとともに、研究の領域も広がっている。地域に根差し、現場に密着したブレーンたちが産地を支える、まさに「知的産業」だ。

 【在来作物】山形大農学部の教官を中心に活動している山形在来作物研究会は「ある地域で世代を超えて栽培者によって種苗の保存が続けられ、特定の用途に供されてきた作物の品種・系統」と定義。用途とは食用、薬用、燃料、鑑賞、儀礼などがある。物語や歴史、伝統的な栽培法、文化があるなど、地域固有の知的財産がセットになっている点が特徴だ。だだちゃ豆は旧鶴岡市周辺に伝わる30系統以上の枝豆の総称(鶴岡だだちゃ豆生産者組織連絡協議会が定めるのは10系統)。だだちゃ豆を1品目と数えても、県内には約140品目の在来作物がある。
(2009年08月23日 掲載)
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