食と農を問う

高評価ワイン 生産を下支え

ワイン蔵の中で出来栄えを確認する岸平典子社長。「加工分野からブドウ農家を下支えしたい」と語る=上山市・タケダワイナリー
ワイン蔵の中で出来栄えを確認する岸平典子社長。「加工分野からブドウ農家を下支えしたい」と語る=上山市・タケダワイナリー
 「わたしはデラウエアに育てられたようなもの」
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 自家農園の欧州系ブドウを使った本格ワインで評価が高い上山市のタケダワイナリー。社長で栽培醸造責任者の岸平典子さん(43)は思わぬ言葉を口にした。本県はデラウエアの生産量が日本一とはいえ、園地の減少などの課題に直面している。「産地の苦境は肌で感じている。恩返しの気持ちからも、加工分野で生産を下支えしたい」。岸平さんは、県産デラウエアのみを原料にした微発泡性ワインの開発に乗り出している。

 昨年の北海道洞爺湖サミットで各国首脳に提供されたスパークリングワイン「ドメイヌ・タケダ キュベ・ヨシコ」。代を重ね精魂込めて作り上げた土、そこで育てたブドウの最良年にだけ生産される「シャトー・タケダ」。これらの銘柄とともにタケダワイナリーの名は全国で知られている。

 一方で、タケダワイナリーを支えてきたのは良質で安価な「蔵王スターワイン」だ。原料は主に白がデラウエア、赤がベリーA種。「蔵王スターの売り上げでご飯を食べ、学校にも行かせてもらった。デラウエアが厳しい状況にあるのを見過ごすことはできない」。岸平さんは力を込める。デラウエアは自家栽培ではなく、地元農家から仕入れてきた。デラウエアを何とかしたいとの思いは、農家を思う気持ちにつながっている。

タケダワイナリーは15ヘクタールに及ぶ自家農園でブドウを栽培しており、農家の大変さも理解している=上山市
タケダワイナリーは15ヘクタールに及ぶ自家農園でブドウを栽培しており、農家の大変さも理解している=上山市
 生食用のデラウエアは新種の大粒種に押されている。「身近にあるせいか、純粋に味で評価されずにワンランク下に見られる。それが悔しくて」。温和な調子で話していた岸平さんが語気を強めた。「蔵王スター」にも似たような境遇があった。

 国産ワインに対する評価が低かった30年ほど前にさかのぼる。あるテレビ番組で、世界の名だたる一流のワインがそろう中、「蔵王スター」も一緒に並んだ。先入観を持たないように目隠しでテイスティングをしたところ、1位の評価を得たのは「蔵王スター」だった。目隠しという状況ではじめて、「蔵王スター」は輸入ワインと同じラインに立てた。そして、実力が正当に評価されたのだ。

 デラウエアを原料としたワインも、生食と同じように「軽く見られる」という壁がある。付加価値を高めるため、岸平さんが新たに開発を進めているのは「ペティアン」と呼ばれる微発泡性ワインだ。

 大きく分ければスパークリングワインに属するが、一般に流通しているスパークリングワインのほとんどは人工的にガスを充てんしているためあえて区別したい。

 ペティアンは日本酒で例えれば、どぶろくのように生の酒を瓶内で発酵させるアンセストラル(古式醸造)製法で仕上げられる。タンク内で発酵が進むワインをそのまま瓶詰めして、瓶内でさらに発酵させる。乱暴な説明だが、寝かせて瓶内発酵を3年間続けると“シャンパン”になる。

 工程を説明するのは簡単だが、ペティアンを手掛けられるワイナリーは国内にはほとんどない。瓶詰めのタイミングや酵母の管理などが非常にデリケートで、岸平さんは「重要なのは技術力ではなく経験値」と説明する。確かにタケダワイナリーには、国内初ともいえる“本格シャンパン”の製造に約20年前に成功してから、「キュベ・ヨシコ」にまで品質を高めてきた経験がある。

 さらに、生産量日本一の「山形産デラウエア100%使用」とラベルに表記。デラウエア特有の糖度の高さを生かして瓶内発酵の際も糖分を補わず、酸化防止剤なども添加しない自然派ワインとした。

 製品名は「サン・スフル(白・発泡)」。ろ過をしていないため、グラスに注げば淡い濁りに包まれる。甘い香りの半面、飲み口はすきっりとしてシャープ。はじける泡が、デラウエアならではの味を口の中に広げてくれる。2007年から試験的に販売し、昨年は1万本を2カ月で売り切った。今年から本格的に軌道に乗せ、10月末ごろに1万5000本を販売する予定だ。

 価格は750ミリリットルで1680円。輸入のペティアンが3000〜4000円する中では格安だ。「本音は1800円ぐらいにしたいが、やはりデラウエアのワインは安い値段になる」と歯がゆさをにじませる。ブドウ農家の苦労を知るからこそ、販売価格を上げて買い付け値に反映させたいが、思うようにはいかない。

 加工用として安定的な量と価格で買い上げることができれば、ブドウ農家は見栄えを競う生食用ほどの手間を掛ける必要がない。「高齢化する農家への一助にもなる」。切々と語る岸平さんは、快活で温和な女性らしい表情から、ブドウを糧に生きるワイン職人のそれになっていた。

 昨年暮れ、有名雑誌のペティアンの品評企画で、フランス、イタリア産をメーンに9品が目隠しで審査された。評価が高かった5品のみが雑誌に掲載され、フランス産が4本を占める中、「サン・スフル」が食い込んだ。デラウエアを原料とした味が特に高評価だった。「デラウエアを軽んじてきた人は、ざまあみろって思いね」。本音が漏れた。

 デラウエアのことを分かっている人は、ちゃんといる。生食用であっても、ワインであっても。それを市場全体の評価に、どうつなげるのか。この課題は、生産者にも加工業者にも共通していた。

 【タケダワイナリー】 1920(大正9)年創業。岸平(旧姓武田)典子社長の父・武田重信氏が約20年かけて土壌改良を行い、主に欧州系ブドウを栽培する15ヘクタールの自家農園を完成させた。デラウエアなどは県内の契約農家から仕入れている。今年は県内のほかのワイナリーと協力し、デラウエアの県内植栽100年を記念したイベントを企画している。
(2009年08月09日 掲載)
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