食と農を問う

庄内・メロンの新ブランド化 生き残り懸け、甘さアピール

「砂丘育ちの甘えん坊」のハウス栽培に取り組む阿部進さん=酒田市
「砂丘育ちの甘えん坊」のハウス栽培に取り組む阿部進さん=酒田市
 「砂丘育ちの甘えん坊」。酒田市のJAそでうらが販売する庄内砂丘の贈答用メロンの名前だ。デビューして今年で3年目。知名度はまだ低いが、糖度16度以上という甘さと限定生産による品質の高さを武器にブランド化を狙う。
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 庄内産メロンの主力はアンデスだが、「甘えん坊」はパンナという緑肉系の品種。パンナの中でも糖度を高め重さ1.5〜2キロにそろえた逸品を、2玉箱入り2300円で販売している。名前は公募で選んだ。贈答向けの高級果物は見た目が決め手となるため、パッケージにもこだわり、鳥海山と黒森歌舞伎の写真を入れて庄内らしさを出した。

 4軒の栽培農家のうちの1人、JAそでうらメロン部会長の阿部進さん(47)=酒田市広岡新田=は「甘えん坊」の売り込みに情熱を注ぐ。取材に行くと、その日の朝に収穫したばかりのパンナメロンを切り分け、食べさせてくれた。糖度は15度。さわやかな甘みがある。次に出されたのは「甘えん坊」。口に含んだ瞬間、甘さの中に豊かな風味が広がった。「味が全然違う」と驚く記者を見て、「後から食べたのは糖度17度。2度の差は大きいでしょ」と、自信ありげに笑った。

 阿部さんがパンナメロンを栽培するようになったのは5、6年前。アンデスメロンは1個作るのに300円のコストがかかるが、売値もほぼ同じ。もうけが出ない。近隣では農協に出荷せずに、直接販売する農家が出始めた。JAそでうら管内では、5年ほど前に230軒はあったメロン農家が165軒に減った。隣のJA鶴岡は「鶴姫」や「鶴姫レッド」を売り出し、上々の評判を得ている。「技術の高い生産者を取り込み、新しいブランドをつくらないと生き残れない」。そんな危機感を抱き、比較的糖度が高く、大きいパンナメロンに白羽の矢を立てた。

 しかし、せっかく生産して市場に出荷しても、消費者が選ぶのは名の通ったアンデスメロンだった。販売価格も約1割高い。味の違いを知ってもらうため、地元の産直施設で食べ比べをしてもらったところ、糖度16度を超えるパンナメロンはおいしいと好評。「商品化できる」と確信を持った。

 阿部さんの畑では6月25日からメロンの収穫が始まった。作業は午前4時半から7時半まで。ハウス一面に茂った葉の下に、ネットがしっかりと盛り上がった大きなメロンがごろごろと実っている。メロンは食べごろになると葉が下に落ち、自分から姿を見せるようになる。糖度は1日に0.5度ずつ上がっていく。大雨が降ると糖度が下がる場合もある。収穫期は晴天が続いた方が好条件となる。

 メロン栽培は気を抜く暇がない。時期を逃さず、早め早めに作業を進めないと品質のいいメロンはできない。最大のポイントは水管理。定植時にたっぷりと水を与えた後、水はかけすぎない。根を深くして、収穫期までばてないようにするためだ。実がなるころは、水を必要としているのか、そうでないのかを見極めることが大切。ネットが入る時期は特に気を使う。水が多いと実が割れ、不足すると栄養が行き届かなくなる。

朝早くメロンの収穫が終わると、箱詰め作業に追われる
朝早くメロンの収穫が終わると、箱詰め作業に追われる
 妻の京子さん(45)は「失敗を重ねて経験を積んできたお父さんたちの技術があるからこそ、何とかやっていける」と語る。進さんの父又一さん(69)はもともとブドウ農家だった。この辺りはかつてデラウエアの産地として有名だったが、晩腐(ばんぷ)病の多発などで衰退。昭和30年代後半からプリンスメロンの栽培に本格的に取り組み始めた。

 庄内砂丘メロンのさきがけとなったのは1960(昭和35)年に導入された「ライフ」。その後、大衆向けとして「プリンス」が登場。昭和50年代には市場や消費者が高級感のあるメロンを求めるようになり、表皮を覆うネットがきれいで、味も申し分ない「アンデス」が普及した。

 それまで、庄内地方では多くのメロン品種が導入されては消えていった。産地同士が競い合いながら、生産者たちは手探りで栽培方法を確立してきた。50年近くメロン栽培の歴史を歩んできた又一さんの指導の下、技術を学んだ進さんは、新たな挑戦に立ち向かおうとしている。

 生産者が高品質のメロンを安定的に出荷することがもちろん前提となるが、重要なのは「売り方」だ。昨年、メロン部会のメンバーは千葉県のJAちばみどりを視察した。同農協は1980(昭和55)年ごろから、糖度の高いアムスメロンを「甘さ16」という名称で販売。味はいいが見た目や市場性が悪かったため、どうしようかと考えた末に、甘さを前面にアピールする戦略で成功したという。

 JAそでうらも甘さを強調したネーミングを工夫した。ただし、名前だけが先行して消費者の信頼を損なわないように、糖度の確認は入念に行う。生産者は出荷前に試し割りをして、糖度が16度以上かを確かめる。さらに、農協の担当者が非破壊糖度計を使って抜き打ち検査するという2重のチェック体制を取っている。

 メロン部会は昨年、販路を広げるため地元企業を回り、「中元ギフトに使ってほしい」と売り込んだ。だが、反応はいまひとつ。不況の影響で法人向けの需要が減っているほか、「付き合いがあるので、急には変えられない」と断られた。

 今年は口コミなどで徐々に評判が広まり、個人客への予約販売が増加。さらに東京の高級フルーツ店に「甘えん坊」のサンプルを送った。その店では静岡産メロンしか置いていなかったが、昨年、出向いてセールスした際、「商品を確かめて、味が良かったら取り扱う」との約束を取り付けていたからだ。

 ジレンマもある。「甘えん坊」を栽培する農家は少なく、2000ケースの出荷が限度だ。数量限定のプレミアム感を“売り”にできるものの、産地確立には生産量を増やす必要がある。栽培技術を普及させたいが、「どういうメロンを作るか」という意思統一を図らなければ、商品にばらつきが出てしまう。

 「1度食べておいしさが分かれば、また買ってくれるはず。5年は地道にやっていくしかない」。阿部さんは、収穫したメロン1個1個を生まれたての赤ん坊のように丁寧に磨いて箱詰めをしていた。どうやったら売れるのか、市場の評価が高まるのか。模索は続く。

 【砂丘育ちの甘えん坊の販売実績】デビュー1年目の2007年が175万円(1399ケース)、08年が189万円(1274ケース)。1キロ単価(08年)は373円で、アンデスの246円、通常のパンナの232円に比べて高い。
(2009年07月12日 掲載)
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