食と農を問う

県外から見た山形 本家として、高品質守る責務

緑豊かな山手の扇状地にサクランボの園地が広がる。階段状に連なる雨よけテントが日の光を浴び輝く=秋田県湯沢市
緑豊かな山手の扇状地にサクランボの園地が広がる。階段状に連なる雨よけテントが日の光を浴び輝く=秋田県湯沢市
 山形ブランドの代名詞・サクランボをめぐって、何やら周囲が騒がしくなっている。主産地である本県では近年、収穫量が伸び悩み、今季の予測収穫量も生産者の期待をよそに「やや少ない」(県さくらんぼ作柄調査委員会)。生産現場では「気候変動で産地が移動しているのではないか」といった嘆息も漏れ聞こえる。一方、従来より鮮度が高いアメリカンチェリーが、国内市場に出回り始めるとの情報も気掛かりだ。サクランボ王国を離れ、高品質栽培に力を注ぐ他産地の動向を探るため国道13号を北上し、秋田県に向かった。
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 主寝坂峠、雄勝峠を抜け、湯沢市に入る。取材に訪れた6月26日は、全国的に梅雨の晴れ間が広がり、朝の通勤時間帯で気温は30度近くまで上がった。同市上関の国道13号沿いにあるJAこまちの共同選果場・フルーツセンターに到着。国道に面する周辺の民家前には「産地直送 さくらんぼ」ののぼり旗が並ぶ。出迎えてくれたJAこまち園芸畜産課の高橋彰さん(32)は、まぶしそうに朝日を見上げ「山形のサクランボ農家は収穫作業に追われているんでしょうね」とつぶやいた。

 同市は県南部、横手盆地の南端に位置する。高橋さんの案内で、上関地区の園地に向かった。緑豊かな山手の扇状地。雨よけテントが階段状に広がる。高橋さんは「この辺りの園地は山々に挟まれているのが特徴。日の出が早い6月半ばでも、山際に園地があるから果実に日の光が差し込むのは、日が高くなってから。それだけ朝の収穫作業に長い時間が取れるんです」と笑顔をのぞかせた。

秋田県湯沢市の園地で真っ赤に色づいたサクランボの収穫作業が進む。昼夜の寒暖の差が高品質生産につながっている
秋田県湯沢市の園地で真っ赤に色づいたサクランボの収穫作業が進む。昼夜の寒暖の差が高品質生産につながっている
 この時季、日中の気温は28度前後まで上がるが、夜は10度近くに下がると言う。昼夜の寒暖の差が高品質のサクランボをはぐくむ。栽培適地にある同地区では、60年ほど前から関東方面に出荷。化粧箱への手詰め作業は地元女性たちによって代々受け継がれている。「佐藤錦」500グラム入り化粧箱は、市場卸値で山形産並みの3000〜5000円の高値が付く。

 JAこまち桜桃部会の構成員は現在、209人。栽培面積は47ヘクタール。近年は平場にも園地が拡大し、さらなる産地化が進んでいる。去年は市場に計107トンを出荷し1億9000万円を売り上げた。今季は150トン、3億円を目標に掲げている。品種構成は主力の「佐藤錦」が7割、「紅秀峰」が1割ほど。

 その桜桃部会で顧問を務めるのが遠藤宏さん(56)。早朝からの収穫作業の手を休め、園地を案内してくれた。緩やかな傾斜がついた土地にサクランボの木が並ぶ。見上げた先に輝く鈴なりの“赤い宝石”に目が奪われる。遠藤さんは「ここはサクランボの栽培適地。誰が作ってもいいもんができるんだ」と誇らしげに笑った。

 家業を継ぎ就農した遠藤さんは20歳のころ、冬場に東京都内の市場で働く機会があった。顔見知りになった仲買人たちから出身地を尋ねられ、「秋田」と答えると、「秋田のサクランボは品質がいい」と褒められたと言う。専門業者の目にかなう秋田産サクランボに興味を持った遠藤さんは、祖父の代に少し手掛けていたサクランボ栽培を拡大することにした。

 栽培技術を高めるため、東根市や寒河江市にたびたび足を運んだ。果実の大きさ、色の付き具合に目を凝らし、管理の仕方を入念に学んだ。「山形のサクランボ農家がすることは、すべて手本」と遠藤さん。現在も部会の仲間と一緒に他産地へ研修に出掛ける。「受粉樹を増やした方がいいとなれば、増やすためにみんなで取り組む。授粉作業にミツバチが必要と聞けば、部会内でミツバチを利用するよう呼び掛ける。一大産地では共通認識として浸透させるのは難しいだろうが、自分たちの産地は小さい」(遠藤さん)。生産者が互いに意思の疎通を図ることで産地としての連帯感が生まれ、その結果、高品質サクランボの安定生産につながっていることが垣間見える。

「山形のサクランボ農家が手本」と話す遠藤宏さん
「山形のサクランボ農家が手本」と話す遠藤宏さん
 湯沢産の出荷のピークは6月下旬から7月上旬。山形産に続いて店頭に並ぶ。遠藤さんは「本家の山形産の市場評価が高くないと、自分たちにも影響が出る。傷みのない高品質のサクランボ生産を継続してもらいたい」と期待感を口にした。

 一方、国内産地だけでなく、輸入サクランボにも新たな動きが出ている。米国産の輸入基準が一部改正され、薫蒸処理なしのサクランボが国内市場に出回ることになったのだ。農林水産省は、これまで日本で確認されていない害虫の侵入を防ぐため薫蒸処理を条件に米国産サクランボの輸入を認めていたが、新たな検査基準で侵入を防ぐことができると判断した。

 米国産は2008年に輸入された海外産8525トンのうち、実に99.2%、8454トンを占めた。今回の検疫基準の改正で、本県の農業関係者からは「薫蒸処理の手間が省ける分、輸送時間の短縮が図られ、日本産に迫る品質のアメリカンチェリーが輸入されるのではないか」といった警戒感が広がっている。県生産技術課は市場評価など情報収集に当たるとした上で「主産地として、より高品質の生産出荷に努めるしかない」と話す。

 「サクランボといえば山形」と言われるほど、全国的な知名度は高い。山形を手本と語った遠藤さんは「産地間の競争も大事だが、それ以前に消費者がサクランボを買って食べてくれることが何よりも大事。当たり前だが、うまいサクランボを作り続けることが大切なんだと思う」と強調した。揺らぐことのないサクランボ王国の堅持、発展のために必要なことは何か。隣県の意欲ある生産者の言葉が強く印象に残った。

 【県産サクランボの全国的地位】
 サクランボの2008年国内収穫量は1万7000トンで、本県産は首位の1万2000トン(70.6%)。2位は青森県1310トン(7.7%)、3位は山梨県1270トン(7.5%)。全国に4950ヘクタールある栽培面積のうち本県がトップで3180ヘクタール(64.2%)、続く北海道は611ヘクタール(12.3%)。秋田県は7位で87ヘクタール(1.8%)となっている。
(2009年07月05日 掲載)
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