食と農を問う

和牛主産地・尾花沢 牛舎は会社、若い従業員多く

牛の体調を入念にチェックした後、整腸剤を与える従業員=尾花沢市・スカイファームおざき
牛の体調を入念にチェックした後、整腸剤を与える従業員=尾花沢市・スカイファームおざき
 尾花沢市の北部、国道13号から東に入ると名木沢地区の山を開いた広大な敷地に、肥育頭数2500頭を誇る畜産会社「スカイファームおざき」の牛舎が立ち並んでいる。来訪者を出迎えるのが、牛に大黒様がまたがった巨大な石像。高さ3メートル以上、重さ200トンを超えるユニークなモニュメントの前を、トラックやフォークリフトなどに乗った従業員がひっきりなしに行き来する。
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 3、4月はちょうど、自社製造の堆肥(たいひ)販売のピーク時。まさに繁忙期だが、若い従業員たちの表情は明るい。県内有数の畜産会社を1代で築いた社長の尾崎勝さん(60)は「自分を含めて、ここにいる人間が仕事の楽しさを感じ、やる気を持っていなければ駄目。その環境をつくるのが大切だと思うよ」と、従業員の様子を笑顔で見守る。

 県内の肥育和牛頭数は約2万9200頭。尾花沢市内の肥育頭数は約6600頭で、県全体の5分の1以上を占める。県食肉公社によると、高級県産和牛として市場で高い評価を受けている「山形牛」約7000頭のうち、尾花沢産が大半を占めるJAみちのく村山の出荷数は、4割以上の約3200頭という。

敷地内の販売所に運び込まれる牛ふんを利用した完熟堆肥。農家らが頻繁に訪れ購入していく
敷地内の販売所に運び込まれる牛ふんを利用した完熟堆肥。農家らが頻繁に訪れ購入していく
 尾花沢市は今や、県産和牛を支える主産地になっている。中でも尾崎さんはいち早く大規模化に取り組み、法人経営を導入したリーダー的存在だ。ここ数年続いた餌代や子牛の価格高騰は、県内にとどまらず全国の畜産農家の経営を直撃。廃業に追い込まれた関係者も少なくない。スカイファームも例外ではなかった。苦境を乗り切った理由を、尾崎さんはこう説明する。「うちも去年は厳しかったが、しのげた。ある程度の規模と会社組織にしていたから」

 スカイファームは市内に2カ所の農場を持つ。500頭の牛舎4棟、150頭2棟、100頭2棟で、出産未経験の雌と去勢した雄の黒毛和種を肥育している。もう1つの目玉として取り組んでいるのが、牛のふん尿を利用した独自の有機堆肥の製造販売。飼育管理、堆肥製造管理、施設衛生管理、車両運搬整備などの部門ごとに分かれ、事務職を含め26人の従業員が肥育から堆肥の製造販売までを担っている。多くが20代、30代の若さなのに驚く。

 まだ肌寒さの残る午前7時半、事務所でのミーティングを終えた従業員たちが、担当する牛舎へと向かった。餌の時間。最も大きな牛舎は、長さ約90メートル、幅約32メートルの広さを誇る。2、3頭ずつに区切られた枠の中に、500頭が整然と並んでいる。牛舎内は、従業員や車両が通る幅3メートルの通路が、牛たちがいる枠よりも一段高くなっている造り。県内の大規模牛舎で主流になりつつあるこの構造は、同社が考案し、県内で初めて導入したという。牛舎内は、見事というほどきれいに掃除されている。

 現場をまとめているのは、尾崎さんの長男で専務裕考(やすゆき)さん(39)。事務所から牛舎、堆肥製造施設まで広大な敷地を回りながら「清潔な仕事場は、安全・安心な牛を肥育するために欠かせない。お客さんもきれいな牛舎で育った牛の方がいいでしょう。餌から体調管理まで徹底して牛を育てている。施設管理も同じ。手は抜きたくない」と語る。

 手押し車に特製の餌を入れ、各牛舎の担当者たちが計量器で量りながら、バケツやボウルで次々に餌をやると、競うように牛たちが食べ始める。その様子を見ながら、1頭ずつ体調を細かくチェックして回る。

 情報を基に、牛の健康診断が始まった。会社発足時からのベテラン柳橋常男さん(62)と入社5年目の井上沙織さん(22)が、体温計と薬を持って体調の思わしくない牛の所へ。「ずっと肥育していると、顔つきやしぐさで熱があるかどうか分かる。牛も人間と同じ。風邪もひくし、下痢もする。そのときにどんな処置をし、どんな薬を使ったか、すべて記録しておくんです」と柳橋さんは言う。

 柵の中に入り、子牛の体温を測っていた井上さんが「ちょっと熱あるかも」。39度以上が風邪のひき始めや体調不良のサインだ。表示された体温は38.7度。「良かった。大丈夫みたい」と胸をなで下ろした。

 胃腸の調子が悪い牛には、整腸剤をボトルに入れて与える。一気に飲み干す牛もいるが、飲もうとしない牛には口を開けてボトルを差し込む。「飲ませなければ症状が悪化する。嫌がっても治療のためには飲ませます」と、薬を飲み終わった牛の体をなでた。

 事務所脇の倉庫には自社で製造、袋詰めしたオリジナルの有機堆肥が山積みになっている。時折、自家用車や軽トラックで足を運ぶ客も。製造施設では、30リットル入りの堆肥を年間10万袋作る。品質と格安価格が評判になり、ほとんど注文で売り切れるという。数カ月かけ完熟させた堆肥は、さらさらしてにおいもない。「専業農家から家庭菜園で使う人まで、お客さんはさまざま。ふん尿の処理は畜産農家にとって最大の課題だが、今ではうちの目玉商品です」。堆肥製造に打ち込んできた裕考さんは誇らしげに話す。

 1980(昭和55)年に多頭化に取り組み始め、96年に会社設立。国や県の補助事業を積極的に活用しながら、着実に規模を拡大してきた。「生業として余裕を持ち、若い世代に引き継ぐには、規模が必要。尾花沢にはそういう畜産農家が多い。みんなで切磋琢磨(せっさたくま)してきたから今があり、しっかりとした後継者たちが育っている」と尾崎さん。

 「でも、今の姿が最終目標じゃないよ」。次の夢も持ち続けている。「孫は男の子3人。『じいちゃんの仕事をやりたい』と言ってくれる。息子は一本立ちした。孫たちが楽しみながら畜産をやる姿が見たい。もうひと踏ん張りだな」と、うれしそうに笑った。

 【和牛増頭戦略】和牛の繁殖雌牛や子牛の生産頭数が減少する中、質の高い山形牛の生産拡大を目指す推進組織「やまがたの和牛増頭戦略協議会」が2007年に発足。良質の県産和牛生産の基礎となる繁殖雌牛の増頭運動を展開中で、年間約200頭の増頭を目指している。06年の4560頭をベースに、県酪農・肉用牛生産近代化計画の最終年次の15年には6310頭まで増やす予定だ。
(2009年04月26日 掲載)
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