東日本大震災

東日本大震災から5年~忘れない3・11[4] あの場所、あの人は今(中)岩手

2016年03月04日
津波で交雑し、新たに誕生した「新型のイトヨ」を保護する湧水地で、命の大切さを語る佐々木健さん=2月17日、岩手県大槌町
津波で交雑し、新たに誕生した「新型のイトヨ」を保護する湧水地で、命の大切さを語る佐々木健さん=2月17日、岩手県大槌町
 火災の後の焦げ臭さが町中に漂っていた。東日本大震災で最大22メートルの津波が襲った岩手県大槌町。発生から1カ月後に壊滅した町を取材で訪れた際の生々しい印象を引きずっていた。震災から5年。小雪が舞う2月中旬、町中心部は盛り土で覆われ、大量の重機が今なお砂ぼこりを巻き上げていた。多くの予算と人員を投入しながら復興速度は驚くほど遅かった。

ひょうたん島
 同町は川西町出身の劇作家・故井上ひさしさんとゆかりが深い。井上さんが共同執筆したNHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルとされる蓬莱(ほうらい)島、代表作「吉里吉里人」と同じ「吉里吉里」の地名がある。町議会事務局長で当時、町生涯学習課長だった佐々木健さん(58)は井上さんの作品を通じた本県と大槌町のつながりを大切にする一人だ。

 蓬莱島を象徴し、津波で倒壊した赤い灯台は復旧し、震災前の大槌町に響いていた「ひょっこりひょうたん島」のメロディーも復活。震災で失われた音源は約5カ月後、井上さんの作品で作曲を担当したこともあるジャズピアニスト小曽根真さんら多くの支援でよみがえり、防災行政無線から新たな旋律となって町を包み込んでいる。

 住宅建設、防潮堤整備など、「復興」の言葉がイメージさせる事業は遅れているのかもしれない。だが、町民の心の糧となっていた、こうした何げない光景の一つ一つが震災前の姿に戻っていることに、佐々木さんは町の復興が少しずつでも前に進んでいることを実感しているという。

震災から5年。津波に襲われた町方地区で盛り土工事が続いている
震災から5年。津波に襲われた町方地区で盛り土工事が続いている
小さな魚にも
 5年前の取材で佐々木さんは誰一人として排除することなく、みんなで一緒に問題を解決していく「ひょっこりひょうたん島の精神」を口にした。その精神は今、震災後に誕生した「イトヨ」という小さな魚にも注がれている。

 イトヨは川で生まれた稚魚が海に下り、産卵期に遡上(そじょう)する「遡河(そか)型」と、一生を川で暮らす「淡水型」がある。大槌町に生息している2種類が津波で交雑。佐々木さんはかつて市街地だった湧水地に「新型のイトヨ」を保護し、新たな町の資源としての希望を見いだしている。

 「復興のゴールは一つではない。みんな違っていい」。こう、佐々木さんは語る。その思いを重ねるように三行詩を口ずさんだ。

 太平洋から太陽が昇る
 新しい1日が始まる
 そう、地球は回っている

 「われわれが掘った井戸が今も使われているとは」。被災者の生活用水を確保するため同町などで災害用井戸を掘った日本地下水開発(山形市)の桂木聖彦さん(51)は感慨深げに語った。岩手県内で計12本の井戸を設置し、うち数本は現在も使用されている。

 災害現場で安全な「水」を確保することは死活問題だ。死傷者数がはっきりしない混乱した状況下で「多くの住民が井戸を利用して笑顔を取り戻してくれたことが何よりの誇りだ」と強調する。あの時の井戸が被災者の役に立ち続けていることは事実だ。一方で、それだけインフラ復旧が道半ばであることも示す。発生から5年経過したが「震災はまだ過去のものとして語れない」としみじみ語った。
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