東日本大震災

刻む3・11~震災4年「あの時」の県内(2) 山形のスーパー―冷静、譲り合う買い物客

2015年03月05日
停電し、店内が暗い状態で営業するスーパー。山形市内では各店舗に食料品などを求める市民が詰め掛けた=2011年3月12日
停電し、店内が暗い状態で営業するスーパー。山形市内では各店舗に食料品などを求める市民が詰め掛けた=2011年3月12日
 地震発生から数時間後。辺りが暗くなった山形市内のスーパー入り口に30人ほどの列ができた。混乱を防ぐため、入店者の数は制限された。不安そうな表情を浮かべながら客はじっと耐えていた。停電で暗くなった店内。懐中電灯を手にした従業員が客一人一人に付き添って売り場を回った。レジは2台しか動かず電卓で会計した。「パニックだけは避けなければ」。店長の三井明さん(42)=仮名、山形市=は冷静に対応するよう、従業員に指示を出し続けた。

 三井さんが一番恐れていたのは、買い物客がわれ先に商品を求め、抑制の利かない群衆になることだった。しかし杞憂(きゆう)だった。「もっと売って」と詰め寄るような人はいない。落ち着いて譲り合い、マナーを守って買い物をしていた。「誰もが焦るはずなのに」。そうおもんぱかる三井さんに、ある女性が、こんな言葉を掛けた。「店を開けてくれてありがとう、助かった」。胸を打たれた。

「ここだけの話」
 翌日からは商品の仕入れが滞った。売り場では「豆腐2丁まで」「牛乳1本まで」などと、1人当たりの販売数を制限せざるを得なかった。一方で特別な事情を抱えた来店者もいた。物資が不足していた被災地からやって来た人たちだ。大きなリュックサックを背負い、頭を下げる。「宮城の店には何もないんです。何とか水を1箱売ってくれませんか」

 販売数を制限している中、特別扱いしていることが広まれば、最も恐れているパニックを引き起こす可能性があった。それでも迷いはなかった。「わざわざ被災地から来てくれた。物を提供することで何とか役に立ちたい」。切実な訴えをむげに断ることなどできなかった。

 「ここだけの話にしてください」。そう声を掛け、目立たないようにして希望する量を売った。「当然の判断だった」。今でも正しかったと胸を張れる。後日、あの時の被災者から感謝の手紙が店に届いた。災害時、「商品」は「物資」になる―。小売店の役割の大きさを知り、物を売る仕事の誇りを実感した。

家族を案じて
 被災地に対する個人的な思いもあった。甚大な被害を受けた宮城県東松島市は自分の出身地だからだ。「あの時は店のことで精いっぱいだった」。地震直後は家族の安否も分からぬまま店に立っていた。仕事の合間に入る宮城県側の絶望的な津波被害の情報に「実家はもうだめかもしれない」と諦めかけた。幸い数日後に家族全員の無事は確認できた。

 あれから4年がたとうとしている。消費者は今、どの店に行っても、売り場に並ぶさまざまな商品を買うことができる。しかし、あの日、なに不自由ない平穏な日常が一瞬にして、もろくも崩れた。

 三井さんは震災発生直後の真っ暗な店内で、食料品を入手したときに見せた来店者のほっとした表情が忘れられない。命をつなぐ食、生活に欠かせない品々を確実に消費者に届ける―。日常はもちろん、災害時にはその責任を果たしていかなければならないと感じている。
(3・11取材班)
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