東日本大震災

「父の芝居新たな意味」井上麻矢さん 県ゆかりの著名人・やまがたを思う[12]

2011年04月18日
井上麻矢さん=東京・柳橋のこまつ座事務所
井上麻矢さん=東京・柳橋のこまつ座事務所
 -父の井上ひさしさん(川西町出身)が34歳の時に書き下ろした戯曲「日本人のへそ」の東京公演期間中(3月8~27日)に震災が起きた。

 「この時期に公演を続けるべきではないという声が内外からあった。やめた方がどれだけ楽だったか。それでも続けることに決めたのは、演劇人としての本能的なもの」

 -昨年4月に亡くなったひさしさんが生きていたらどう判断しただろうか。

 「みなさん口々に言うんです。『生きていたら何と語っただろうか』と。その問いに答えるのは非常に難しい。答えは永久に聞けないし、誰より私が1番聞きたい。でもその中でたった1人『井上さんなら、続けると言ったと思う』と言い切った人がいた。同じ時期に公演中だった劇作家の野田秀樹さん」

 -野田さんとはどんなことを話したのか。

 「震災後、たまたまこまつ座が休演の日、野田さんが公演を続ける声明を出すと知って、事務所を飛び出して駆け付けた。野田さんは舞台で『劇場の灯を消してはいけない』と訴えていた。野田さんの芝居「南へ」は火山が噴火する話で、地震も出てくる。そうしたテーマでも続ける勇気に敬服した。舞台が終わって楽屋を訪ねると『井上さんなら続けると言ったはず。だから僕はやり続けるんだよ。こまつ座も頑張って』と声を掛けてもらった」

 -演劇の持つ意味を再確認する出来事だったのでは。

 「演劇人が演劇をやめてしまったら、エールを送る手だてがなくなってしまう。演劇に携わる者としての責務を野田さんの姿勢から教わった。演劇の力を強く信じている野田さんの向こうに、父の姿を見た気がした」

 -震災前と震災後で、芝居や芸術が人にもたらす意味も変質したのではないか。

 「ひさしの代表作『父と暮せば』を今年も夏に山形や東京で上演する。原爆投下によって日常が瞬時に失われたことに対する怒りを描いた作品。震災で一瞬にして日常を奪われる経験をした東北の人たちや、それを目の当たりにした日本中の人たちにとって、作品の感じ方が全く違ってくるのではないだろうか。今まではどこか絵空事だったことが、より危機感を持って受け止められるようになるだろう。『生き残った者は幸せにならなくてはいけない』というメッセージも深く響いてくると思う。東北や山形でこの芝居をやる、今までとは別の意味が生まれた」

 -上演を続けた「日本人のへそ」は昭和30年代、岩手の農家から集団就職で東京に出た少女が生き抜くストーリー。

 「井上ひさしの血の中には東北人としてのDNAが確実にあって、さまざまな芝居の随所に表れている。東北が本来持っている生命力は、父の芝居が持つ生命力にも通じるように感じる。その生命力を信じて、芝居を上演し続けたい」


 ▽いのうえ・まやさん 劇団こまつ座社長。川西町出身の劇作家・作家井上ひさしさんの3女。1967年東京生まれ。文化学院高等部英語科在学中に渡仏、パリで語学学校と陶器の絵付け学校に通う。帰国後はスポーツニッポン東京本社に勤務、次女の出産を機に退職。2009年7月からこまつ座支配人、同年11月社長に。山形市に来年3月オープンする「井上ひさし未来館」の館長に就任する。
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