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第7部・出生率高める 岡山・奈義町の取り組み(4)

2018/7/31 08:51

 「合計特殊出生率2.81のまち」―。岡山県奈義町の魅力をまとめた町のパンフレットの表紙には、2014年に打ち立てた記録が名刺代わりのように用いられている。医療費や教育費の助成制度も多く記され、「奈義町と言えば子育て支援」を強く印象付ける。

岡山県奈義町の笠木義孝町長。子育て支援策の今後について、教育を充実させる重要性を語った=同町役場

 男女とも農林業に携わる町民が多く、自然の肥料で作るコメを新たな特産品として売り出す動きが活発化するなど、環境に配慮した循環型農業に力を入れる同町。本年度は、地域経済の活性化につなげようと、買い物や地元の活動に参加するとポイントがたまる「ナギフト制度」を導入した。1ポイントを1円に換算し町内の飲食店などで利用できる試みで、町全体が盛り上がれば、子育てがより楽しくなるというもくろみもある。

 あらゆる視点で子育て支援に力を注ぐ笠木義孝町長に、これまでの取り組みや今後の方向性を聞いた。町出身の笠木町長は、町職員、町教育長を経て2015年から現職。町全体で共有した少子化への危機感や、10年以上にわたって取り組んできた施策の成果が「2.81」に結び付いたとし、次なるステップは「古里を愛する教育の充実」と強調した。

 ―2014年に記録した合計特殊出生率2.81という結果をどのように振り返るか。

 「(合計特殊出生率が1.41だった)05年ごろ、町の広報誌の出生・死亡欄に『出生者ゼロ』と載る月があり、町全体に危機感が広がっていたと思う。結婚したら町外に出る若者も多かった。実家に部屋はあっても、夫婦2人だけの新婚生活を望み、親と離れて暮らす方がいい―となる。ではなぜ町から出て行くのか。町内には民間のアパートなどが少ないからだと考えた。さまざまな子育て支援を進めていく中で住宅環境の整備を始めた。これらの支援は一気に今のレベルに達したのではなく、段階的に内容を引き上げた。その結果の2.81だと考えている」

 ―妊娠から就学まで切れ目のない、手厚い支援が特徴だ。

 「他の自治体も子育て支援をしているが、奈義町のように種類が多い所はそうないはずだ。こういったソフト事業に投資できるのは、(町内に)陸上自衛隊日本原駐屯地がある関係で交付金が入ることもあり、早くから道路や河川などのハード事業に取り組んでいたから。財政的に厳しい時代もあったが、それを乗り越えたので少し余裕が生まれたのが大きい」

 ―町の取り組みは大きな注目を集める。

 「高校生までの医療費を無料にしているが、町を出た人が、そのありがたさが分かると言ってくれる。町に住んでいると当たり前になってしまうので、そういった『外部評価』が得られるのがうれしい。子育て世代ではない町民に町の支援策を理解してもらえるし、町外に魅力を発信できれば、子育てのために町内に移住してくれる人が増える。仮に子育てを終えて(地元に)帰ってしまうかもしれないが、中には住み続けることを選択してくれる人もいるだろう」

 ―今後、どのような施策を展開していく方針か。

 「子どもを多く産むと、仕事と育児の両立が難しい面がある。国が人口減少対策に本気で取り組むのであれば、育児のときは十分に休める制度が必要だ。町としては、子育て支援の金額を増やすだけでいいのか、それを検討しなければならない。また、未婚者の結婚を後押しするような施策に力を入れたい」

 ―若い世代の地元定着に欠かせない教育面は。

 「今、若い人たちに話を聞くと『同窓会も出たくない』という人がいる。学校で受けたいじめや暴力、それが原因の不登校が背景にあるようだ。悪いイメージがあると町を出たがる。(町にそれぞれ1校ずつある)小学校、中学校の改革をし、いじめのない学校づくりを進めたい。町を誇れるようにし、良い場所だと理解できれば、一度町外に出ても再び戻ってきてくれるだろう。奈義町に住みたいと思うような教育の環境整備が重要だ」

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