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第5部・高校生と共に (6)最上地域・ジモト大学

2018/5/24 12:11
「ジモト大学」の公務員と語り合う講座では、高校生が仕事のやりがいや地域課題をじっくり聞いた=昨年8月、新庄市

 「高校生が旅立つ前に学ぶこと」をキャッチフレーズに、最上地域で昨年度開講した「SHINJO・MOGAMI ジモト大学」。住民との対話や共同作業を通して、自分は地域の一員だという当事者意識を醸成し、一度は域外に出ても古里に回帰する若者を増やすことが狙いだ。

 管内の全ての高校、8市町村、県最上総合支庁、東北芸術工科大などでつくる「もがみ地域理解プログラム運営委員会」が主催する。昨年度は地域づくり、ビジネス、企画運営、キャリアといった多彩なジャンルでユニークな12講座を実施した。高校生だけでなく、大人たちも「地域を元気にするため何ができるか」を考え始めたことが大きな成果だ。

 若者定着に向け、関係機関が広域連携を図る例は全国的に珍しい。最上地域に活力を取り戻すという共通の思いが強い結束を生んでいる。本年度は講座数を増やし、初年度のうねりをもっと大きくしようと同委員会のメンバーは意気込んでいる。

 「ジモト大学」は、県最上総合支庁と8市町村の職員が研究員となり、地域課題の解決策を考える「最上地域政策研究所」から生まれたアイデアだ。同地域の高校生は近年、約70%が進学・就職で転出し、地元への回帰率は3割程度。地域では少子化と人材不足傾向が続く。この深刻な現状を打破する狙いがあった。

 昨年度は事業費160万円を8市町村が負担し、一般社団法人「とらいあ」(新庄市)が企画調整役となって各講座を展開した。大人と高校生は、「ジモト」の各文字を頭にとった▽地元のことをよく知ろう▽もっと自分から積極的に語ろう▽ともに本気で学ぼう―の三つを共有ルールとした。

 「農家レストランを計画する女性たちに加わり、郷土料理考案やPRに関わる」「公務員と対話し、地方行政に携わる思いや、やりがいを聞く」「地域資源の森林の伐採を体験し、農林業の未来を農家の人と考える」「ものづくりの匠(たくみ)と交流し、地域で創作する意義を学ぶ」など講座は多種多彩な12本。全市町村が一度は会場となり、管内の高校に通う全生徒の13%に当たる約250人(延べ数)が参加した。

 成果はアンケートに如実に表れた。参加した生徒の94%が「地元住民との対話を通して、自分の将来を考えることができた」と感じ、97%は「自分の住む地域をより身近に感じられた」と答えた。地域社会への興味が深まり、進路選択の何かしらの手掛かりになったこともうかがえる。

 二つの講座を受けた新庄北高2年、剱持天音(あまね)さん(16)は「将来は人と関わる仕事がしたい。企画を練ったり、信頼関係を築くポイントを聞いたりでき、いい経験になった」と振り返り、本年度も受講を熱望する。

 同高2年の荒井駿介さん(17)は、戸沢村角川の地域おこしグループと特産ピザ作りを体験し、「古里を元気にしたいという熱意が伝わり、感銘を受けた。交流の大切さも教わった」。その後、地域イベントにボランティアで積極的に参加しているという。

 運営をサポートする県最上総合支庁の浅沼道生連携支援室長は「2年目の本年度が試金石。良質のプログラムを提供するため、スタッフ側の勉強会も開き、ブラッシュアップを図る」と話す。7月以降、昨年度を上回る20近い講座を開き、300人以上の高校生に参加してもらう計画だ。

 ジモト大学は、生徒が郷土を知る、学びと成長の場になっている。思いを聞いたり、伝えたりできる行政側や地域の団体にもメリットがある。2年目はどんな相乗効果が生まれるのか。期待が寄せられている。

(「山形再興」取材班)=第5部おわり

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