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第2部・雪と暮らす 除雪の先進技術活用(2)

2018/2/22 10:23

 例年以上に降雪の多い今冬、除雪車が家の玄関口に残していく雪の処理に頭を抱えた人は多いはずだ。雪国に住む人にとっては避けられない問題だが、高齢化が進む近年は、この負担が引き金になって雪のない地域に移住するシニア世帯も増えているという。冬季間だけのこととはいえ、特に1人暮らしの高齢者や障害者などの世帯にとっては深刻な問題だ。

 こうした、いわゆる“除雪弱者”の負担を少しでも軽減しようと、寒河江市はこの冬、新たな除雪情報提供システムを導入し、要介護3以上の独居高齢者宅前に極力雪を置かないようにする「思いやり除雪」の試行を始めた。

 市社会福祉協議会の災害時要支援者情報を参考に、対象となる約80世帯の位置情報をシステムに入力。除雪車が対象世帯に近づくと、備え付けの衛星利用測位システム(GPS)搭載スマートフォンのアラームが鳴り、オペレーターに知らせる仕組みだ。実際の除雪現場を訪ねてみた。

寒河江市は今冬、要介護3以上の独居高齢者宅周辺を除雪オペレーターにスマホで知らせ、除雪に配慮する取り組みを試行している=今月12日午前4時26分、寒河江市内

 寒河江市内で前日夜から降り続いた雪が膝下まで積もった2月12日午前3時半すぎ。市からの一斉出動命令を受け、約70台の除雪車が市内各所の市道に繰り出した。全車両に、市から貸与されたGPS搭載スマホが備え付けられている。

 除雪車のオペレーターは左手でハンドル、右手でブレード(排雪板)の上下左右の傾きを調整するレバーを巧みに操作しながら道路の雪を押して進む。しばらくすると、車内のスマホの電子音が鳴り、画面の表示が「走行中」から「重点除雪箇所につき、気をつけて作業してください」へと切り替わった。除雪車は速度を落とし、ブレードの角度を絶妙にコントロールしながら道路脇になるべく雪を残さないよう細心の注意を払う。2、3軒通り過ぎると、再びスマホの画面は「走行中」に戻った。

 新システムは、対象世帯に近づくと除雪オペレーターのスマホに通知される仕組みだが、個人情報や防犯上の観点から、対象宅が特定されないよう反応エリアは広めに設定されている。

 取材のため同乗させてもらった重機が担当する路線で、スマホが反応する箇所は2カ所。比較的道幅が広く、雪を押し出すスペースもある所なら「思いやり除雪」は可能だが、道幅が狭く、雪押し場もないような道路では、いくらブレードの角度を調整しても雪は残ってしまうという。

 思いやり除雪が行われた区域に住むある高齢男性は「例年より置かれる雪が少なく、誰かが片付けてくれたのかと思っていた。負担が少なくなるのは助かる」と感謝する。ただ、対象外でも自分たちでは除雪が困難な高齢者や障害者の世帯は少なくない。

 除雪車の運転席から家々の雪の片付け具合を見ると、そうした“除雪弱者”と推測できる家も目につく。「内心は丁寧に除雪してあげたいが現実的に難しい。でも、このたび市が試験運用を始めたシステムのように一歩踏み出すことが大事。そうしなければ解決策も見えてこない」とある委託業者は話す。

 現在、市内で思いやり除雪の対象となっているのは80世帯ほど。今後、さらに対象を広げてほしいと思うのは皆同じだろう。ただ、丁寧な作業をすれば時間もかかる。出勤ピーク前に作業を終わらせるという前提の中では、除雪車を増やさない限り厳しいことは容易に想像できる。一自治体の力だけでは解決が難しい現実が横たわる。

 同市建設管理課の森谷孝義課長は「まずはどういった課題と解決方法があるのかを、今回の試行を通して探っていく」。雪国ならではの悩みを解決するため、寒河江市の挑戦は始まったばかりだ。

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