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山形再興

第1部・先端研究の求心力 山形大医学部(4)

2018/1/15 13:40
山形大医学部の重粒子線がん治療施設を核とした医療インバウンドの実現を目指す山形大学医学部先端医療国際交流推進協議会設立総会=2016年9月、山形市

 人口減少に伴う地方の活力低下を補う手だてとして期待がかかるのはインバウンド(海外からの旅行)による交流人口の拡大だ。医療分野でも治療を目的とした訪日患者の受け入れ環境を整え、食事や自然などその地域でしか味わえない「特別感」を提供する取り組みが進められている。「医療インバウンド」の活性化は、本県における先進医療を核としたまちづくりの方向性を左右すると言っても過言ではない。

 2016年9月、山形大医学部を中心に経済団体や行政などが連携する「山形大学医学部先端医療国際交流推進協議会」が発足した。会長には嘉山孝正同学部参与が就任し、17年9月末現在で会員企業・団体は31を数える。20年3月に始まる重粒子線がん治療を、どう地域経済に波及させていくか。これを最大のテーマに掲げての船出となった。

 発起人代表の上野雅史荘内銀行頭取は設立あいさつで、こう強調した。「世界トップのノウハウが凝縮した施設は日本の医療水準の向上は当然、地域に大きなインパクトを持つ。重粒子線を核とした地域活性化に向け、さまざまな活動を推進したい」

 協議会は▽情宣・啓発▽インバウンド推進▽先端医療国際交流―の三つの専門部会に分かれる。これまで▽医療通訳者の整備に向けた対応方法の調査▽佐賀県の「九州国際重粒子線がん治療センター」(サガハイマット)の視察▽中国からの健診ツーリズムの受け入れに関する調査―などに取り組んできた。

 先進医療に観光の魅力を結び付け、「医療インバウンドの先進地」というカラーを鮮明にしていけるかが課題となる。上野頭取は「重粒子線治療など先進医療の情宣啓発について、対外的に力を入れていく。どういう層をターゲットにするかを明確にし、『オール山形』での取り組みを進めたい」と展望する。

ホテルの建設地。写真奥が山形大医学部付属病院=2017年11月、山形市飯田西1丁目

 「山形大学医学部先端医療国際交流推進協議会」が発足して1年以上が経過し、同学部付属病院で重粒子線がん治療開始までは残り2年余り。協議会では「理念にとどまらず、具現化していかなければならない」との思いが強まっている。

 課題の一つが、来訪する患者の、地元の受け入れ態勢だ。重粒子線がん治療は滞在型医療となるため、照射後の過ごし方、同伴した家族への対応などどんなサービスが提供できるかを具体的に示していかなければならない。

 富裕層は、有名な観光地を回るだけの従来型パッケージツアーでは満足しないはずだ。治療目的のためプライバシーを確保しつつ、隠れた名店などを紹介し、特別感を演出するなど、地元ならではの付加価値を深く味わってもらえる仕組みづくりが重要だ。富裕層は会員制交流サイト(SNS)などを活用した発信力も高く、旅行代理店や観光産業にとって大きなビジネスチャンスになる可能性がある。

 健康医療先進都市を掲げる山形市の佐藤孝弘市長は「これから日本の人口が減る中、安心な医療は強みになる。今後も市はまちづくりの中心に健康医療を据えて取り組んでいく」との考えを示している。山形大医学部付属病院(山形市)の周辺では昨秋、須藤不動産(天童市)がホテル建設を予定し、運営会社としてルートインジャパン(東京)と賃貸契約を締結した。今年4月ごろに着工し、2018年度中のオープンを見込む。完成後は患者の家族らが訪れた際の宿泊の受け皿になるだろう。医療を通じたまちづくりは徐々に進んでいる。

 豊富な源泉を誇る温泉、豊かな食材、そして温かな人柄。山形には誇るべき地域資源、財産がたくさんある。課題はそれらを有機的に結び付けられるかだ。

 副病院長で、国際化担当の耳鼻咽喉・頭頸部(けいぶ)外科学講座の欠畑誠治教授は「山形には世界に誇れるものは多いが、うまく認知されていない」とし、「他にはない(重粒子線の)治療法が確立される。街や市を挙げて患者らを歓迎する態勢をつくらなければならない」と強調する。

 医療インバウンドには、地域活性化の新たなうねりを起こす力がある。山形大医学部が先進医療をけん引し、地域の企業や自治体、住民がそれを応援する形で一体となって世界から人を呼び込む仕掛けをつくる。これが山形発の医療を核とした「地方創生」の姿だ。

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