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第7部・植物工場(1) 県内の先駆け

2015/2/24 11:45

 豪雪地・米沢市の郊外、見上げるほど高く積もった雪の壁の中に、無農薬栽培の株採りサンチュで知られる「安全野菜工場」(同市南原横堀町)の本社兼工場がある。最強寒波が襲来していたその日も、工場内では徹底した衛生管理と従業員たちが手塩にかけて育てたサンチュが、蛍光灯の光を浴び青々と輝いていた。

工場内で安定生産される「安全野菜工場」のサンチュ=米沢市

 1996年、県内の植物工場の先駆けとして創業した同社。代表商品のサンチュをはじめ、スプラウト(新芽)ニンニク「鷹山にんにく」などを北は函館から南は北九州まで、焼き肉店を中心に約240カ所に日々出荷している。佐藤弘成社長(54)は「こんな大雪の冬でも、暑い真夏でも安定して良いものを作る。その通年性が植物工場の最大のメリットですね」と、さらなる販路拡大に意欲を燃やしている。

 気象変動による野菜価格の高騰や消費者の健康志向、食料自給率の向上など世の中の課題、流れを受け、屋内施設で光や二酸化炭素濃度などを高度に制御し、野菜を栽培する「植物工場」への関心が高まっている。雪に覆われる冬でも安定した数量、品質が確保できる一方で、初期投資の費用や運営費など高い生産コスト、品目の限定といった課題もあるとされる。「やまがた農新時代」(山形新聞、山形放送8大事業)第7部は、県内外の導入事例や栽培実証の現場を取材し、植物工場の新産業としての可能性を考える。

 全国の植物工場の数は、農林水産省と経済産業省が2009年から導入補助や研究開発の拠点整備に乗り出したことがきっかけで急増している。日本施設園芸協会の調査によると12年3月時点で210カ所だった工場は、14年3月時点で人工光型、太陽光人工光併用型、太陽光型を合わせ383カ所と1・8倍になった。東北農政局によると本県には14年12月時点で人工光型4カ所、併用型2カ所、太陽光利用型2カ所の計8カ所があり、このうち食物を栽培するのは「安全野菜工場」(米沢市)を含む3カ所だ。

■出荷は年々増

 安全野菜工場は、東京出身の前社長が脱サラし、米沢市に移り住んで起こした。当初は同市万世町桑山に工場があったという。前社長と知り合いで、地元で建設会社を営んでいた佐藤社長が植物工場の経営を引き継ぎ、2年前に現在地に工場を移転拡充した。

 工場で働く従業員は16人で全て地元住民。アルコール消毒やエアシャワーなどによる徹底した衛生管理の中、蛍光灯を光源にしてサンチュを1株ずつ完全無農薬の水耕栽培で作り、株のままの状態で全国の取引先に直接届けている。出荷量は年々増加し、現在では1日当たり約2400株。

サンチュの成長に合わせて照明の高さを変え、光量を調整している=米沢市・安全野菜工場(同社提供)

■蛍光灯を9000本

 「工場栽培は天候に左右されず、一年を通じて安定的に野菜作りができる。取引先も信頼してくれ、価格も安定する。それ以上に生産から出荷まで衛生面に細心の注意を払い、安全・安心な手作りにこだわっている。だから、洗わずにそのまま食べていただける」と佐藤社長。植物工場の可能性と自分たちが作る野菜への自信を口にする。

 植物工場ならではの課題は、他工場と同様にある。多くの照明装置を使うために電気代が掛かることだ。安全野菜工場では蛍光灯約9千本を使用。電気代は売上額の約25%に上る。同社では1カ月の電力使用量を計測分析し、可能な限り節電に努め、コスト削減に向けた効率的な電力使用を模索中だが、佐藤社長は発光ダイオード(LED)への切り替えは時期尚早と考えている。

 「LEDはまだまだ高価で、初期投資の負担が大きい。また、光の当たり方が限定的で栽培面でも課題がある」とし、切り替えには「価格と植物工場で使うための性能アップが欠かせない」と佐藤社長は言う。

■米沢発に思い

 一方、山形大工学部が先駆的に研究開発している有機ELの可能性に期待を寄せる。「有機ELは広範囲に光を照射でき、自然光に近い。同じ米沢でもあり、研究などで連携できるなら、いち早く使ってみたい」と、米沢発の植物工場の姿を思い描いている。

(「やまがた農新時代」取材班)

◇植物工場 施設内の温度や光、二酸化炭素、養液などの環境条件を自動制御装置で最適に保ち、作物の種まきから移植、収穫、出荷までを年間を通し計画的に行う。利用する光源によって人工光型、太陽光人工光併用型、太陽光型に分けられる。本県には野菜だけでなくバラなど花を栽培している植物工場がある。

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