「日本国内にある原子力施設のうち、活断層という観点からみて問題ないと言えるのは、たぶん玄海(佐賀県)だけ」。活断層上に立つ原発の危険性を訴えてきた東洋大教授の渡辺満久は指摘する。
「問題は二つあって、一つは揺れ。玄海以外は、近くに活断層があるのに無視しているとか、(活断層の長さが)長いはずなのに短くしている疑いがある」。地震の規模は活断層の長さに比例するとされており、想定地震規模が「値切られてきた」。独特の表現で、渡辺は解説する。
もう一つの問題は、ズレによる被害だ。活断層が動くと、断層上の建造物は無残に破壊される。世界中の地震被害を調査してきた渡辺は「断層上にあって無傷だった例は見たことがない」と断言する。
建設が大前提
なぜこうした事態に陥ったのか。「建てることが大前提だった。国策として原発を建設するのだから、場所が決まったら何が何でも安全だと、『作文』してきた」と渡辺は話す。
渡辺が「原子力と活断層」の問題に取り組み始めたのは2006年だ。島根原発付近にある鹿島断層の調査を行い衝撃を受ける。「明瞭な活断層であるにもかかわらず、中国電力側は完全に否定した。そこでトレンチ(溝)を掘ってみたら、大断層が出てきた」
ひょっとするとほかにもあるかもしれない。そう思って調べてみると、同じような問題を抱える原発が次々と見つかった。「それまでは、原子力の話なので、さすがにちゃんと審査しているだろうと信じていた。しかし、現実はあまりにもひどいものだった」
原発審査の問題点を指摘してきた渡辺だが、原子力発電所そのものに反対しているわけではない。「代替エネルギーがあれば、それがいいに決まっているが、現段階では原発がなければ電力は維持できないと思う。CO2削減もできる。原発反対派は、原子力はなくても大丈夫と言うが、石炭や石油を燃やして持っているだけ。私はそこまで楽観視していない」
赤い丸が地震発生地点、水色は原子力施設(渡辺満久氏提供)
日本にも適地
だが、地震列島の日本に原発の適地などあるのだろうか。「みなさんそう思っているようだが、それはヒステリックな反応だ」と渡辺。「少なくとも玄海の周辺に活断層はない。太平洋側も日本海側に比べて少ない。ただ、太平洋側は海溝で発生する巨大地震と津波に備えなければならず、揺れに対して工学的に対応できるのであれば、適地はある」
福島第1原発の事故後、原子力規制委員会が発足した。「以前は原発推進に都合のいい人だけを一本釣りして審査してきたが、過去の審査にかかわった人は一切外し、審査の過程を公開するようにした。3・11後、変わったと感じる」。だが「大飯原発(福井県)は、危険が想定できていたのに無視して再稼働した。福島と同じ間違いを犯した」
原子力規制委の大飯原発調査団メンバーでもある渡辺は「スピード感が大事だ」と言う。「これは学術調査ではなく、のんびりしている暇はない。国内で唯一稼働している大飯原発で万一事故が起きてしまったら、国民に顔向けができない」
活断層は千年単位の動き。身近に感じることは困難かもしれないが、将来再び動く、それが活断層だ。「原発が本当に必要なら『危険かもしれないけれど地域経済のために稼働する。それでもいいですか』と国民に正直に話すべきだ。どんなに青臭いと言われようが、正論を主張し続けたい」。渡辺は強い覚悟を持って臨んでいる。=敬称略
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